【インタビュー】13年の時を経て生まれた新たな物語。『友が、消えた』刊行記念 金城一紀インタビュー
「僕の小説家としての原点とも言えるザ・ゾンビーズ・シリーズです。現時点での僕のベストを出せたと思っています。」
『GO』『フライ,ダディ,フライ』『映画篇』など、発表する作品のすべてが大きな話題を呼ぶ金城一紀さん。その金城さんが、なんと13年ぶり(!)となる新作小説『友が、消えた』を12月16日に発売されました。13年の間に一体何があったのか。新作はどのように生み出されたのか――。その秘話をお聞きしました。
インタビュアー=兼城和樹
――では13年ぶりの新作『友が、消えた』について色々と伺っていきたいと思います。よろしくお願いします。
お手柔らかに。
――ところで、13年も何をしていたんですか?
自分でも13年もブランクがあったなんて信じられなかったです。あっという間に時が過ぎていた感じで、浦島太郎もこんな感じだったんだろうなぁ、と。
――それぐらい映像業界での仕事に集中していたということですか?
脚本に関わり始めた当初は、小説との“二拠点生活”をするつもりでいたんですが、うまくいきませんでした。独り暮らしの小説の家とは違って脚本の家のほうにはたくさんの同居人がいるので、彼らに引き留められて小説の家に戻れずにいるうちにいつの間にか13年が過ぎていたという感じです。
――脚本の家で小説を書くことは出来なかった?
脚本の家は常にガヤガヤとうるさいので(笑)、独りでじっくりと物語世界に向き合うのは難しかったです。もちろん、僕が不器用で、頭の切り替えをうまくやれなかったということもありますが。
――小説の家に戻ったきっかけはなんだったんですか?
ちょうどコロナの時期に2年近くかけて準備していた映像作品がクランクイン2ヵ月前に中止になるということがありまして、その時に良くも悪くも一息つけたんです。しばらくは映像の仕事はいいかな、と。それで小説執筆に集中するために、沖縄に移り住むことにしました。
――良い環境で久々の執筆に取り掛かったわけですね。
すぐには書き始めませんでした。小説の文体を取り戻すためのリハビリ期間が必要だったので。
――やはり小説と脚本はまったく違うものですか?
原則的に脚本執筆では文体は必要とされません。関わるスタッフ・キャストの誰もが読めるようにわかりやすいほうがいいので、出来るだけ簡潔な文章で書くことになっています。つまり、文章から個性を消すことが推奨されているわけです。小説執筆はその真逆の作業をすることです。僕はストーリーを頭の中で映像にしたあとに文章に起こしていくタイプなので、ト書きという簡易的な状況説明とセリフだけを書けばいい脚本の執筆は本当に楽なんです。長い間、そんな楽な作業をしてきたからには間違いなく文章を書く筋肉が衰えているはずだったので、まずはハードなリハビリが必要だと思いました。
――リハビリはどんなことを?
好きな小説をひたすら読み直しました。
――たとえば?
『友が、消えた』はハードボイルド・タッチの作品にするつもりだったので、和洋問わずハードボイルド系の作品を中心に再読しました。中学高校時代に読んでいたものから比較的最近のものまで、幅広く読み直していきました。作家で言えば、レイモンド・チャンドラー、ロス・マクドナルド、ジェイムズ・クラムリー、アンドリュー・ヴァクス、結城昌治、原尞あたりをメインに再読を進めました。たとえば、チャンドラーの『THE LONG GOODBYE』は翻訳ものをすべて読み比べたりもしました。
――ちなみに、どの翻訳が一番良かったですか?
田口俊樹訳の『長い別れ』が一番ぴったりきました。村上春樹訳の『ロング・グッドバイ』も捨て難いですが。
――リハビリは順調に進んだ?
リハビリの怖いところは、それ自体が目的化してしまうことです。書くことを目的に始めたのに、気づくと読むことが仕事のようになっていました。これはいかん、と1年が経った頃にきっぱり読むのをやめ、書き始めました。
――ストーリーはすでに出来ていたんですか?
大まかなプロットは13年以上前に出来ていました。実はザ・ゾンビーズ・シリーズの短編「異教徒たちの踊り」(『レヴォリューションNo.3』収録)は来るべき長編へのある種のイントロのつもりで書いたんです。
――確かにハードボイルドを意識しているのがわかります。
ハードボイルドというジャンルの裾野は広いので、何がハードボイルドかという確固とした定義は難しいのですが、一般的なイメージとしては文章に独特な比喩が多いことと主人公の“へらず口”が挙げられると思います。
例えば、比喩で言うと、
間に入るコマーシャルときたら、鉄条網とビール瓶の破片を餌に育てられた山羊たちでさえ、身体を壊してしまいそうな代物だった。
ハヤカワ・ミステリ文庫 2010年 より引用
こんな感じです。
比喩の塩梅は非常に難しくて、書き過ぎると文章がギクシャクして母屋を乗っ取られる危険性があるし、“へらず口”も主人公に相当の背景がないと効果的にはならない。「異教徒たちの踊り」に関しては、そもそも普通の高校生がレベルの高い比喩を思いついたり、“へらず口”を叩いたりするのは不自然なこともあって、素直な一人称の文体で書きました。そして、来るべき長編では南方を大学生にし、比喩のレベルを上げ、多少の“へらず口”は解禁して書こうと計画していました。
――書き始めてからは順調に進んだ?
はい、と言いたいところですが、3ヵ月ぐらいは調子が出なかったです。実は前半部分は13年の間に書きためてあったんですが、それを読み直すとどうもしっくりこなくて、それをちょこちょこと直しているうちに完全にドツボにはまりました(笑)。当然ですよね、時の移り変わりとともに僕も変わっていってるわけですから。
――生理的、感情的に過去の文章を受け付けなくなっていた、ということですか?
その通りです。それで、執筆を1週間休んで頭を整理したあと、前半部分をすべて捨てて新たに書き直すことにしました。そこからは順調で、常にライターズ・ハイのような状態で書くことが出来ました。書いていて本当に楽しかったです。
――脚本執筆の経験が役に立った場面はありましたか?
文章作法に関してはないですが、脚本家として得た経験は否応なく作品に反映されていると思います。良くも悪くも本当に色々な経験をしたので(笑)。
――先ほどプロットは13年前には出来ていたとおっしゃいましたが、それをそのまま採用されたのでしょうか。それとも、時の変化とともに多少の変化を加えたのでしょうか。
そのまま採用しました。逆に時代とマッチし過ぎた部分もあって、それが読者にとってノイズになる可能性もある気がしたので採用すべきかどうか悩んだんですが、そのまま行くことにしました。そうじゃないと13年前の自分が浮かばれない気もして(笑)。
――今回は南方の“単独主演”のような形ですが、新作はザ・ゾンビーズ・シリーズの中でどういった位置付けになるのでしょうか。
僕の中ではこれまでのシリーズ作品が旧シリーズで、今回の作品から新シリーズのつもりです。ただ、そこらへんはあまり気にせずに読んでもらいたいです。
――この先、ゾンビーズの高校時代を描くことはないということでしょうか。
はい。身も蓋もなく言ってしまえばシリーズ二作目の短編「ラン、ボーイズ、ラン」(『レヴォリューションNo.3』収録)で彼らはすでに卒業しているし(笑)、これ以上あのひどい学校の中に引き留めておくのも忍びないので。
――ではこの先は南方をメインとしたシリーズが続くわけですね。
その予定です。南方の成長の過程を読者のみなさんと共有したいと思っています。映画で言えば、トリュフォーのアントワーヌ・ドワネルのシリーズのように読者に楽しんでもらえればと。
――よくわからない例えです。
うぅ、大人は判ってくれない。
――さらに意味不明です。ここで新刊の担当編集者である岡田さんから預かった質問を。『本作では南方は大学生ですが、他のザ・ゾンビーズのメンバーがどのように過ごしているかは、いまの時点で金城さんの頭の中では詳細に決まっているものなのでしょうか』。いかがでしょう?
はい、決めています。次作以降でストーリーの中にうまく盛り込んでいければと思っています。
――続いて文庫の担当編集者藤田さんから預かった質問を。『執筆する上で意識した先行作品はありますか』。
ドン・ウィンズロウの『ストリート・キッズ』です。小説家になる前に読んだ作品なんですが、大学生探偵であるニール・ケアリーが主人公のシリーズ第一作で、ハードボイルドというより若者の成長を描くビルドゥングスロマン(教養小説)といった趣があるんです。初めて読んだ時、こういった作品は日本にはないなぁ、と思い、とても印象に残ったんです。小説家になったあとは、日本にないなら俺が書けばいい、と書くことにしました。
――それが本作ということですね。
はい。決意してから13年以上も掛かってしまいましたが(苦笑)。
――次作が13年後、ということにはなりませんよね?
もう次の作品を書き始めていますので、多分大丈夫かと。出来れば長編と短編集を、あまり間を置かずに出せればと思っています。
――信じていいですか?
お、おう。
――では最後に読者のみなさんへのメッセージを。
待っていてくださったみなさん、本当にお待たせしました。そして、今回新たに僕の作品を手に取ってくださるみなさん、はじめまして。13年ぶりの新作となりました。僕の小説家としての原点とも言えるザ・ゾンビーズ・シリーズです。現時点での僕のベストを出せたと思っています。南方の活躍と新たなシリーズの幕開けを楽しんでいただければうれしいです。
■ 書誌情報

書名:友が、消えた
著者:金城一紀
発売日:2024年12月16日(月) 電子書籍同日配信
ISBNコード:9784041155349
定価:1,760円(本体1,600円+税)
総ページ数:232ページ
体裁:四六判並製 単行本
発行:KADOKAWA
初出:書き下ろし
装画:たけもとあかる
装丁:岩瀬 聡
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322407001137/
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