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Blue Bottle Coffee、中国ラッキンコーヒーの親会社により4億ドル未満で買収──Nestléの「プレミアムコーヒー戦略」の終焉


サードウェーブコーヒーの象徴が、中国コーヒー最大手の傘下へ

2026年3月4日、中国コーヒーチェーン最大手・Luckin Coffeeの筆頭株主であるCenturium Capital(陸正耀氏が設立した投資会社)が、NestléからBlue Bottle Coffeeを4億ドル未満で買収することで合意したと、Caixin・Bloomberg等が一斉に報じた。

これは単なるM&Aニュースではない。サードウェーブコーヒーの時代を象徴するブランドの所有権が、スイスの食品大手から中国の急成長コーヒー企業の親会社へと移るという、業界の構造変化を物語る出来事だ。


Nestléにとっての「高い授業料」

Nestléは2017年、Blue Bottleの株式68%を約4億2,500万ドルで取得した。当時の企業価値は7億ドル超と評価されていた。その後、残りの株式も取得して完全子会社化している。

今回の売却額は4億ドル未満。つまり、Nestléが当初の過半数株式取得に投じた金額すら回収できていない計算だ。Nestléは当初7億ドルでの売却を目指していたとされるが、最終的にはその半分近い金額で手放すことになった。

さらに言えば、Nestléの買収以前に、Blue BottleはIndex Ventures、Google Ventures(現GV)、True Ventures、Morgan Stanley等から1億ドル以上のベンチャー資金を調達していた。初期投資家を含めた累計投資額を考えれば、今回の売却額は業界関係者にとって衝撃的な数字と言える。


なぜCenturium Capitalなのか

買収主体はLuckin Coffee本体ではなく、そのコントローラーであるCenturium Capitalだ。これは意図的な構造で、LuckinとBlue Bottleは独立したブランドとして運営される見込みだという。

Centuriumの狙いは明確だ。

① Luckinの高価格帯戦略の加速
Luckinは中国国内で3万店を超える規模に成長したが、9.9元(約200円)のプロモーションに代表される価格競争の中で利益率が低下している。2025年第4四半期は売上が前年比32.9%増の一方、純利益は38%減少した。Blue Bottleのプレミアムブランドを手に入れることで、12〜17元の中価格帯から一気に高価格帯へのポジショニングを狙う。

② 海外展開の足がかり
Luckinの海外店舗は2025年末時点で約160店、うち米国はわずか9店舗。一方、Blue Bottleは米国に78店舗、アジア太平洋地域を含めると100店舗以上を展開している。Blue Bottleの既存ネットワークは、Luckinのグローバル展開に大きなレバレッジを提供する。

③ Starbucks China買収の代替策
Centuriumは2025年後半、Starbucks Chinaの買収にも関心を示していたが、最終的にBoyu Capitalが24億ドルで運営権を取得した。Costa Coffeeの買収も検討したが、欧州の老朽店舗やITシステムの問題から断念。Blue Bottleは、これらの代替として最も現実的な選択肢だった。


Blue Bottleの現状:まだ赤字

36Krの独占報道によれば、Blue Bottleは依然として赤字運営だ。2025年6月末時点の過去12ヶ月の売上高は約2億5,000万ドル(米国1億5,000万ドル、アジア太平洋1億ドル)。ただし、2026年中の黒字化が見込まれているという。

中国本土には2022年の上海1号店を皮切りに、上海・深圳・杭州に15店舗を展開。グローバルCEOのKarl Strovinkは、中国を重要な成長市場と位置づけている。

Nestléの傘下では、Blue Bottleのコーヒーマシン・カプセル事業は引き続きNestléが保持し、今回の売却対象はグローバルの店舗運営事業のみとされている。


「サードウェーブ」ブランドの連鎖的売却

Blue Bottleの売却は孤立した出来事ではない。米国のサードウェーブコーヒーブランドが次々と売却される流れの中に位置づけられる。

Philz Coffee → 2025年8月、PEファームのFreeman Spogli & Co.に1億4,500万ドルで売却。TPGやSummit Partnersなどから数千万ドルのVC資金を調達していたが、普通株は無価値となり、ストックオプションを行使していた従業員は損失を被った。かつて40店舗以上を展開していたが、ワシントンD.C.エリアやサンフランシスコの1号店を閉鎖するなど縮小傾向にあった。

La Colombe Coffee Roasters → 2023年12月、ギリシャヨーグルト大手のChobaniに9億ドルで買収。これは比較的ポジティブな結末で、RTD(Ready-to-Drink)コーヒー市場での成長が評価された形だ。Keurig Dr Pepperの33%出資分もChobaniの株式に転換された。


この買収が意味すること

今回の取引を一言で表すなら、「プレミアムコーヒーブランドの価値は、単独では維持できない時代になった」ということだろう。

Blue Bottleは「コーヒー界のApple」と呼ばれた時代もあった。しかし、Nestléの巨大な組織の中で独立性を保ちつつスケールするという難題に答えを出せなかった。Philzも同様に、VCマネーで急拡大した後、持続可能な成長モデルを見つけられなかった。

一方で、La Colombeのように、RTDという明確な成長チャネルを持ち、Chobaniという補完的パートナーを見つけたケースもある。

Centurium/Luckinの傘下に入るBlue Bottleが、中国市場のスケールとLuckinのサプライチェーン力を活かしてどう変わるのか。それとも、プレミアムブランドとしてのアイデンティティが薄まるのか。コーヒー業界の次の章が、今始まろうとしている。


※本記事の情報は、Caixin、Bloomberg、36Kr、Daily Coffee News等の報道に基づいています。

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