地下アイドルオタクは推しメンとの「ズレ」をどのように解釈しているか
ときどき考えたくなるややこしいこと。
地下アイドルオタクのかべのおくです。
オタクと話していると、「お前、推しメンと全然性格あわなそうなのに、なんで推してるの?」と言われることがあります。大抵笑って受け流すのですが、内心「そういうことじゃないんだよなあ」というお気持ちでもあり、今回はその「そういうこと」をちゃんと書こうと思い立ちました。
具体的に言えば、「推しメンとズレるところはあるけど、そこは折り合いをつけているだけ」ということになるでしょう。というわけでこのnoteでは、オタクと推しメンの「ズレ」について考えていきたいと思います。
※僕は心理学の専門ではないため、この後の説明では認識が曖昧なまま用語を運用しますが、あくまでも思考の整理だと思ってご容赦ください。
「推しメンとズレている」を自覚する瞬間
「そもそも好きな推しなのに、ズレたり噛み合わないことで悩むことなんてあるの?」と感じる人もいるでしょうが、僕の場合、悩みの約半分は推しメンとの考え方や思考のズレていることだと言っても過言ではありません。心理学的にいえば、「スキーマ(=自分の中にある物事の捉え方の枠組み)」がズレていると言えると思います。
たとえば、推しメンとのズレが顕著に感じられるのは特典会です。現場に通い始めた頃は推しメンと話すことを考えて緊張してしまって、伝えられただけでも嬉しい、何なら話せるだけでも有り難く感じられるものです。しかし、相手は週に3~4回も現場がある地下アイドルです。当然のごとく認知されたその先は、会話の充実や関係性の発展を望んでしまいます。そして、人と人とのコミュニケーションだからこそ「全然仲良くなれている気がしない」「思ったような反応が貰えない」や、逆に「過度に重たくされて鬱陶しくなる」「全然こちらに話させてくれない」と言ったことに悩むようになるのです。
また、ライブにおいても推しメンとのズレを感じることがあります。もっとも代表的なものは、「レスされる/されない」問題です。僕は比較的前の方でライブを見るのですが、推しメンからのルックやレス、指差しが来た瞬間に分泌されるドーパミンは何物にも代えられません。しかし、逆に期待していてもレスが来なかったり、全く見て貰えなかったりすると、どうしても「自分って推しから好かれてないのかな…?」と複雑な感情を抱えてしまいがちです。また、ライブに対する嗜好の違いもズレの要因になりえます。たとえば、ライブをじっくり楽しみたいのに推しメンにはコール・Mixを要求されたり、生誕祭などで推しメンの考えたセトリやカバー曲のセンスが合わない、等です。
推しメンとのズレは現場外、つまりSNSや配信で感じることもあります。具体的には、発信内容の主張が強すぎる/浅すぎる、自分と好みが違いすぎる等でズレを感じることが多いように思います。推しメンの個人的な趣味に関する発信も、オタクを置いてきぼりにする可能性があって実は危険です。また、そもそもの発信ペースの多い/少ないも重要で、供給が十分にあった方がいいのか、自分で追いかけられる程度がいいのかは、オタク次第なところもあるでしょう。
結局、地下アイドルオタクが何を根拠に現場に通い続けるのかといえば、推しメンとの信頼や愛着、ライブによる充実感です。それらは不確かであるがゆえに、ズレが生じれば一瞬で失われてしまう危険をはらんでいます。そしてひとたび推しメンとのズレを自覚すると、これは確証バイアスによって勝手に増幅されます。つまり、推しメンと自分のズレているところを集め始めてしまうのです。たとえば、ライブでレスが貰えなかったなと思ったら、特典会でも会話がそっけなく感じられたり、SNSへのいいねが遅く感じられたりしてしまいます。これは、推しメンとの距離が近く、接触頻度が高いほど生じやすくなると考えられます。つまり、地下アイドルオタクは推しメンとのズレが生じやすいことを自覚して、ズレと正しく向き合っていく必要があるということになりそうです。
「推しメンとズレている」の解像度を上げてみる
ところで、ここまでなんのことわりもなしに「ズレ」という言葉を用いてきましたが、少し立ち止まってみましょう。例えば、次のようなものは性質が違っていそうですが、果たしてこれを同じ括りにしていいのでしょうか?
推しメンと話していて感じる性格のズレ
推しメンがSNSなどで発している考え方とのズレ
見た目や所作、パフォーマンスやプロデュースのズレ
結論から言うと、これらはズレが生じているパーソナリティのレベルが異なっています。ここで、マクアダムスという心理学者が提唱した、パーソナリティの3層モデルを導入しましょう。人間の人格は、次の3つのレベルによって形作られます。
第1層:先天的に生まれ持った性格や気質
第2層:後天的に獲得した信念や観念
第3層:人生を解釈して提示する物語
つまり人間の性格は、生まれ持った性格、成長の過程で獲得する信念、その人が歩んできた物語によって決定されるのです。
この3層モデルは、ここまで述べてきた推しメンとのズレを解釈する際にもそのまま当てはまりそうです。つまり、性格面でのズレは第1層、考え方や好みのズレは第2層、表面的に露出する部分のズレは第3層と整理できます。

まず、最も根幹の第1層は、推しメンを知れば知るほどズレを自覚しやすくなるところでしょう。些細なところだと会話のペースや話題の選び方から、SNSでどのような発信をするのか(ネタ系なのか?かわいい系なのか?かっこいい系なのか?)、ライブ中のフロアとのコミュニケーションの取り方(レスの送り方や煽り方)などから感じる事が多いように思います。これは、そもそも生まれ持った性格の違いによるところが多いでしょう。そもそもアイドルは外向的な性格が向いている(とされる)職業です。僕はバリバリの内向型なので、推しメンとは性格上噛み合わないと感じることが多いように思います。
次に、第2層は世代や育ってきた環境に大きく影響を受けると考えられます。僕も30代になった今では、20代のアイドルとは考え方がだいぶ違うなと感じることが増えてきましたし、情動形成時に通ってきたアニメや映画、音楽が被っていないことも多々あります。また、ステージに立つことに仕事として向き合っているアイドルと、日々の仕事がある中での趣味としてライブを見に来るオタクとでは目線が合わないことは、当然っちゃ当然です。「アイドルとは?」といった根幹部分のズレもここに含まれるでしょう。
最後の第3層は、最も見極めやすい反面ズレると修正が難しいと感じられます。推しの見た目やパフォーマンス、グループの方向性があまりにもあわない場合、1人のオタクの力で変えることは困難です。また、最も可変性が強いのも第3層と考えられます。たとえば推し始めた当初から、髪の色や見た目が変わってしまったり、動員を意識する余り束縛強めの言葉が多くなって熱が冷めてしまうという経験は僕にもありました。また、「推しが卒業して別のグループに入ったら応援する気が起きなくなった」というのも、第3層のズレが大きいんじゃないかと思います。
そもそも、この世に全く同じ人間は2人といません。しかもアイドルとオタクという特殊な関係である以上必ずズレは発生するものであり、なくすことは原理的に不可能だと考えられます。そのうえで推しメンとのズレは、どれくらいズレているか?ではなく、どのレベルでズレているか?を認識することが重要と言えるでしょう。
「ズレ」との向き合い方
さて、ズレのレベルについて整理できたところで、やっと本題となっている向き合い方について考えていきましょう。
まず重要になってくることは、ズレを解決することをゴールにしないということだと思います。前述の通り、オタクとアイドルは違う人間である以上、必ずどこかのレベルにズレが発生します。また、推しメンの性格や考え方、アイドルのキャラ付けなどはオタクの力で変えられるものではないし、変えようとすること自体が愚かな行為というか、説教オタクの始まりです。したがって、ズレがあることを認めつつも、どのように向き合えばオタクするのが楽しくなるのか?を追求する姿勢が出発点となります。
そのうえでズレと向き合うときに心がけるべきなのは、自分が重視するレベルを意識することでしょう。これによって、それ以外のズレが生じていてもそれほど気にしなくて済むようになるからです。たとえば、僕はわりと几帳面な性格をしており、学校の提出物や会社の研修課題は遅れずに提出することを常としてきました。一方で僕の推しメンは時間や期限にルーズで、ライブの集合時間に遅刻したり、宿題チェキや生誕グッズのデザインをいつも期限を過ぎてから提出しているとのことです(他メンバーからの伝聞)。つまり僕とその推しメンは第2層のレベルでは大きなミスマッチが生じていると言えます。しかし、僕は推しメンのアイドルとしての姿勢やステージでのパフォーマンスがとても好きだし、何より考え方や思考パターンにとてもシンパシーを覚えます。つまり、第1層、第3層が合致しているために迷いなく推せているのです。
そして、これらの重視すべきレベルは、推しメンごとに変わっても構わないと思います。例えば「感性が近いので推せる」と感じるアイドルは第1層が重要になってくるでしょうし、「ライブ中のパフォーマンスが好き」というアイドルは第3層が重要になってくるでしょう。このように推しメンのことを理解しつつも、自分がどこに共感したり、好きと感じているのかを考える必要があると言えます。そしてこれはDD(誰でも大好き)が発生する原因の一つであり、1人の推しメンでは満足できないパーソナリティのレベルを、別の推しメンで満たすことによってバランスを取ろうとしているという解釈も可能になります。
何より重要なのは、パーソナリティの3層モデルを導入することで、推しメンを多層的なレベルで理解しようとすることです。たとえば、16Personalities(≒MBTI)やその他色々な性格診断は、生まれ持った性格や気質という第1層の理解には役立ちますが、あくまでもそこまでです。その上には、成長の中で培った考え方などの第2層、現在おかれている立場によるキャラ付けや見た目の第3層が折り重なっています。特に、卒業・転生が当たり前で、特殊なキャリアを歩んでいるメンバーも多い地下アイドルを応援するうえでは、第3層の理解が欠かせません。
思い込みで勝手なレッテル貼りをするのではなく、推しメンのパーソナリティを複雑なまま理解すること、理解できないまでも理解しようとする姿勢が、僕たちには求められているのかもしれません。きっとそれが、長く推し続けられる心の余裕にも繋がるのでしょう。
おわりに
まとめます。
「結局、可愛いからなんでしょ?」と言われたら、それはそう。
以上です。
