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いつか思い出すサバとしらすと白菜のカレー

夜勤前の午前中。これから食べる昼ごはんと、職場に持っていく夕飯をつくるため冷蔵庫を開ける。買い物に行ってから1週間が経っていたので冷蔵庫は隙間が目立つ。

最近は忙しい日が続き、自炊が疎かになっていた。チルド室には賞味期限を4日過ぎたしらすが1/3パックくらい。しらすはよく食べるのだけど、完全に存在を忘れていた。大好きなのにごめん。においを嗅いでみるとなんとかまだイケそうではあるが、そのまま食べるのは気が引ける。

あとは水分が抜けきっているしなびた白菜1/8くらい、左に同じくしわしわのトマト、まだまだ元気いっぱいの新玉ねぎ2個が残っていた。
冷凍庫には貴重なタンパク源の塩サバがひときれ。
主なラインナップは以上。とりあえずお弁当にはサバを焼いて、あとの野菜たちでスープを作って、しらすはどうするか…と考えを巡らせる。

そこでふと目についたのがS&Bの赤いカレー粉の缶。ふと、冷蔵庫の中のもの全部ぶちこんでカレーにしたらどうかしら?と閃いた。カレーに必須の玉ねぎとトマトがあるし、元気のない野菜たちもカレーにして煮込んだら歯ごたえや風味は気にならないだろう。そしてなにより、わたしはお店で食べるフィッシュカレーが大好きなんだ。今が挑戦する機会なんじゃないか。
コンソメも和風出汁もないけど、しらすが良い感じに旨みになってくれるんじゃないかなと推理。にんにくと生姜は冷凍庫に常備しているし、家にあるものだけでなんとかいける気がする。思いつきがどんどん飛躍し、イメージが湧いてくる。ワクワクしてくる。

まず野菜たちを全てみじん切りに。そのあと厚手のステンレス鍋(わたしはHAL無水鍋を愛用)をよくよく予熱。目安は水を入れた時に玉になって転がるくらいまで。余熱をしっかりすることでテフロン加工の鍋じゃなくても焦げ付かないらしい。
油を敷いて弱火にして、玉ねぎと生姜とにんにくを入れる。すぐに動かさずにくたっとして水分が出てくるまで放っておく。ある程度水分が出たら少し火を強めて、たまに混ぜて焦げ付かないようにする。茶色くなるまで根気よく炒める。
玉ねぎが原型をなくしてくったりねっとり茶色になってきたら、しらすを入れる。しらすは食感を楽しむわけじゃなくて出汁要因なので、玉ねぎと一緒にペーストになるくらいしっかりと炒める。
しらすが原型を失って良い感じに旨みが出てきたかなと思うところで、トマトと白菜を入れてさっと炒め回す。全体に油が回ったら弱火にして野菜の水分を出していく。
そこにサバを入れる。サバは別のフライパンで焼き目をつけておいた。この方が生臭さが出ないかな〜と思って。こんがり焼けたサバを細かくほぐして鍋に加えた。
水を入れなくても白菜とトマトからふつふつと水分が出てくる。完全に無水にしようかなとも思ったけど、このまま長いこと煮込みたかったので少しだけ水と料理酒を入れた。あとはなんでもおいしくしてくれると信じている、魔法のろく助の塩をひとつまみ入れる。
無水鍋の重たい蓋をして、いちばん弱火にしたのを見届けてしばし煮込んでいく。その間に床にクイックルワイパーをかけたり、お風呂を洗ったり。(お風呂とキッチンが近いので火を見守りながら掃除ができる)

1時間くらい煮込んで、だいぶ野菜の水分が出てきた。そこにカレー粉を入れる。もう小さじ2くらいしか残ってなかったのでバサっと全部入れた。カレー粉の缶の縁が湿気でサビはじめていたので、使い切ることができてかなりスッキリ。ここで味見。もうすこしまろやかさが欲しい気がする。ケチャップを少しだけ入れてまた煮込んだ。

煮込み終わった時点で、昼の12時。火を止め、夜勤に向け暫し仮眠する。カレーが楽しみであまり眠れなかった。

13時半くらいにベットから出て、カレーの味見。少し冷めて味が馴染んでいる。おいしい!!!冷ます前は「カレー味のサバのトマト煮込み」って感じだったけどちゃんとカレーの味になっている!白菜の甘味としらすのうまみがしっかり出ている。うますぎる。ごはんに乗せて、うまいうまいと呟きながら貪り食べてしまった。夜勤弁当のタッパーにも詰めた。勤務の合間にこのカレーが待っていると思うと少しだけ心が明るくなる。いつもより本当にちょっとだけ軽い足取りで仕事に向かった。


夜勤は忙しかった。ゆっくり味わう暇もなく、仕事に追われながらカレーをかきこんだ。ロクに仮眠も取れず、勤務の最後には余計な発言もしちゃって、自己嫌悪で満たされながら帰った。

午前10時過ぎに家に着くとお風呂も入らず倒れ込み爆睡。泥のように眠り、目覚めた時には16時を回っていた。空腹だった。

まだカレーは一食分残っている。せっかくなのでとことん美味しく食べようと思い、副菜の準備をしていく。
冷蔵庫には新玉ねぎがもう一つ残っていたので、薄切りにしてカンタン酢に漬ける。野菜がもう少し欲しいなと思い、冷凍庫に眠っていた少しのブロッコリーを蒸し茹でし、水気を切ったら塩昆布と粉チーズで和える。あとは夜勤明けの晩酌用に買ったレモンを薄く切った。

玉ねぎの味が馴染んだら、炊き立てのご飯と共に上記のラインナップを盛り付ける。上から黒胡椒ガリガリで完成。

いい感じじゃないですか?

レモンをぎゅーっと絞って食べる。サバの油とレモンの酸味が調和する。そこに新玉ねぎのアチャールがさっぱりと、ブロッコリーがいいコクをプラスしてくれる。三味一体、誰も欠けてはいけない。おいしすぎる。わたしは天才なのではないか?特技欄に「冷蔵庫の残り物でカレーを錬成する技術」と書きたい。

副菜を仕込んでいるとき、仕事のモヤモヤが少しずつ晴れているのを感じていた。失敗で終わった今日を、どうにか成功に塗り替えることが出来た。

小さな頃からガサツで不器用で運動神経も悪くて、なにか作業することについてはとことんセンスがないと思って生きてきたけれど、自分のために作る料理だけは良い勘がはたらく気がする。
わたしは冷蔵庫で悲しそうにたたずむ食材たちをこんなにおいしいカレーに変えることができる。レシピを見ず、自分の勘を頼りに、各々のポテンシャルを見出すことができる。これはちょっと、長年語り継ぎたい成功体験だ。
自炊なんて誰もがやってること。それはそうなのだけれど、こんなにオリジナリティを出すことができて、気軽にトライできて、成功を感じやすいエンタメを1日に何度か味わうことが出来て私は幸せだ。食べることが好きで、楽しいことが多くてラッキー。
自炊に関しては、絶対成功したいとかもっと頑張りたいとかは毛頭思わない。生活の中のちょっとしたゲームのような感覚。中学生の頃からお昼ご飯は自分で作ることが多かったけど、その頃からワクワクする気持ちやなんとかなるか精神は変わらず、適当に楽しんで取り組むことが出来ている。いい距離感だよなあと思う。

仕事が忙しくなったりメンタルが不安定になると、料理が全く出来ない日々だってもちろんある。でも最近は料理ができないことで自己嫌悪になること少なくなってきた。
わたしには、いつかまた必ず料理したい日が訪れるというのを知っている。これはサイクルで、雨の日が続いてもまた晴れの日が来るように、生きていればわたしはまたご飯を作ることができる。そのスキルがあるし、好きな気持ちがあるし、もうすっかり生活動作になっているのだから。8年のひとりでの生活の賜物だ。

こんなことが言えるのは、時間の100%を自分のためだけにつかって暮らすことができる今だけの贅沢なのかもしれない。
いつか来るかもしれない料理が嫌になる日、料理に自信がなくなる日、自分は何もできないと思ってしまう日に、わたしはこのカレーを楽しくおいしくつくったことを思い出せるといいな。

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