ハンチバック、読了(ネタバレあり)
2023年の芥川賞作品、市川沙央さんの『ハンチバック』を読み終えました。
冒頭はいきなりの描写に面食らいましたが、読み終えた直後は、ラスト数ページに衝撃を受け、再度前に戻って読み直しました。作者の市川さんご自身と、主人公の釈華を重ねてしまい、どこまでが作り話でどこからが現実にあることなのか分からなくなるほどの、圧倒的なリアリティに引き込まれました。
二度目を読むと、初めは理解できなかった登場人物たちの行動の理由が、少しずつ見えてきます。たとえば、釈華が「子どもを妊娠した後に中絶したい」という突飛な夢を持っていたこと。それは、健康な体を持つ人なら当たり前に経験できる人生の選択肢から、自分だけが最初から排除されていることへの、命がけの抵抗であり切ない願いだったのです。
「紙の本を当たり前に読めること」も、五体満足な人間の持つ、無自覚な特権なのだと読者に突きつけてきます。
最後の章では突然、目線が紗花という女性に変わります。なんとこの女性は介護士の田中の妹でした。
介護士の田中とは、健康な体を持ち、釈華の介助をする側にいるにもかかわらず、お金持ちの釈華に対し「自分の方が恵まれない弱者だ」と思い込み、被害者のように振る舞います。大金を差し出されることにプライドを傷つけられた彼は、お金を素直に受け取るのではなく、暴力で奪い、殺害するという最悪の道を選びました。「自分の方が強い人間だ」と証明したかった田中の、歪んだ逆恨みと悪意を妹のモノローグで知り、背筋が凍る思いがした衝撃的なラストでした。
