『絵本・白峰アカネの冒険』38.封印された史実(その2)
ヒロイン白峰アカネが巻き込まれた陰謀の裏には、人間社会とマジョリティの巫女社会が封印してきた歴史の真実が隠れていました。その歴史の真実を明かすエピソードの後半。アカネが属するマジョリティの巫女社会の欺瞞が暴かれます。
前回はこちら:
前回が第1節~第3節でした。今回はそれにつづけて第4節から始まります。
4.魔祓い巫女間の ”同族殺し”
4-1.公式の歴史
公式の歴史は、ヤシマの地は太古の昔からヤシマ王朝に統治されてきたと説く。

かつてヤシマに
※「北の山国」・「東野の国」・「西の山国」の
3つの国が存在したこと
※「東野の国」が「北の山国」・「西の山国」を
倒してヤシマ国を建国した
ことには、一切触れられない。
したがって、魔祓巫女が傭兵として「東野の国」のために戦ったことも、戦後に「東野の国」によって白峰山に幽閉されたことも登場しない。
幽閉に至る過程で起こった魔祓い巫女の間の同族殺しについても、公式の歴史は沈黙しつづけてきた。

4-2.封印された史実
「西の山国」に勝利した直後に、「東野の国」は、自国のために戦ってくれた魔祓い巫女たちを裏切った。魔祓い巫女たちの故郷「北の山国」に侵攻し住民多数を人質にとり、その命と引き換えに「魔祓い巫女」たちを白峰山に幽閉したのだ。

魔祓い巫女たち
自らの親族を含む大勢の人質をとられて白峰山へと護送される極限状態のなかで、その悲劇は起こった。
「巫女の環」の助けで呪力を発揮していた「獲得せし者」たちが、生まれつき呪力を備え「巫女の環」を必要としない「与えられし者」たちを殺戮したのだ。
「与えられし者」は人数では「獲得せし者」の5分の1しかいなかったが、「獲得せし者」の3倍の呪力を発揮できた。「与えられし者」たちは、常に先頭に立ち「獲得せし者」たちを率いて戦った。

月日が経つにつれ、「獲得せし者」たちの間には「与えられし者」たちへの尊敬だけでなく恐怖や嫉妬が生まれていった。
そこに降ってわいたのが白峰山への幽閉だった。魔祓い巫女たちは、元は、「北の山国」内に広く分散して暮らしていて、人数の少ない「与えられし者」たち同士のつながりは、ほとんどなかった。
ところが、「東野の国」の圧力で魔祓い巫女の全員が白峰山に集められる。
「獲得せし者」たちの間に不安が広がった。
狭い白峰山では「与えられし者」たちが結束できる。戦場で指揮官だった「与えられし者」たちが白峰山の巫女コミュニティを支配し、自分たち「獲得せし者」を圧迫するのではないか?

不安は、ささいなきっかけから憎悪に変り、暴力へとなだれこんでいった。「獲得せし者」同士のいさかいを仲裁しようとした「与えられし者」が力余って「獲得せし者」を負傷させてしまったのだ。
自然発生的に「獲得せし者」による「与えられし者」への攻撃が始まった。呪力で劣る「獲得せし者」は、3人が1組で1人の「与えられし者」を襲い、次々と封印していった。

巫女社会では、いかなる場合でも、殺すことは許されない。
すべての生命は「大いなるもの」がこの世界に現出させたものだ。
どのひとつの生命にも、他の生命の命を奪う権利はない。
その権利を有するのは、唯一、「大いなるもの」だけだ。
彼女たちは、そう信じている。
だから、巫女たちは、相手を殺す代わりに、呪力で封印する。相手の命があるまま、周囲の自然環境のなかに埋め込んでしまうのだ。

封印した場所は必ず記録される。後になって封印が不要だと判断されたときに封印を解くことができるためだ。
しかし、「獲得せし者」たちは、「与えられし者」たちを封印した場所を記録しなかった。なぜなら、二度と封印を解くつもりはなかったから。それは、実質的には ”殺戮” と同じだった。
魔祓い巫女たちを護送していた「東野の国」の兵士たちは、この殺戮を黙認した。彼らにとっても、「与えられし者」たちは恐怖の対象だった。
こうして、白峰山に集合したのは「獲得せし者」たちだけだった。その子孫が、アカネを含めた現在の魔祓い巫女たちなのだ。
5.魔獣は狂暴であるという作り話
5-1.公式の歴史
公式の歴史は、こう語る。
万物の発出点であり森羅万象を司る「大いなるもの」は、人間に害をなすために存在する生物として魔獣を出現させ、同時に、人間を魔獣から守る守護者として魔祓い巫女を出現させた。太古から、魔祓い巫女は魔獣の闘い続け、その闘いは未来永劫つづく。

5-2.封印された史実
魔獣と人間は、お互いに接触することは少なかったが、生活圏を棲み分けて平和に共存していた。

人間が白峰山で「巫女の環」の材料となる「巫女」の採掘を始めたことで、魔獣と人間の平和共存が崩れた。
「北の山国」には、微弱な呪力をもって生まれてくる女性たちがいた。こうした女性たちが「巫女石」を身に着けると傭兵として戦えるレベルの呪力を発揮できることが発見された。

「北の山国」の国王は、こうした女性たちに「巫女石」で作った「巫女の環」を支給し傭兵に仕立てて「東野の国」に送りこんだ。「東野の国」から受け取る報酬を増やすためだった。
ところが、人間たちは知らなかったが、「巫女石」は魔獣の生命エネルギーの源だった。魔獣たちはみずからの生存を守るため採掘場を襲撃するようになった。こうして魔獣と人間の闘争が始まった。

人間界の戦争が終わると傭兵へのニーズがなくなった。それだけではない。食糧生産にまったく適さない岩だらけの白峰山に幽閉された魔祓い巫女たちは、命をつなぐため人口を定常化させなければならなかった。
「巫女石」の採掘は終わり、採掘場は閉鎖された。
そして、魔獣が人間を襲うこともなくなった。魔獣と人間の平和共存が戻ってきたのだ。

しかし、この平和共存は、魔祓い巫女たちが最も望まないことだった。
「東野の国」が魔祓い巫女たちを白峰山に幽閉したのには2つの理由があった。
(1)人間にとって危険な破壊力をもつ
「魔祓い巫女」を人間社会から隔離すること
(2)魔祓い巫女を白峰山のふもとの人間界を
魔獣から守る防波堤にすること
魔獣が人間にとって安全な存在になってしまうと、第2の理由が消滅する。それによって人間たちの間に「魔祓い巫女不要論」が生まれ、人間が攻撃してくることを魔祓い巫女たちは恐れた。
魔祓い巫女たちは、人間たちに魔獣が危険な存在でると信じ続けさせるため、魔獣の生息域で魔獣を拉致し、錯乱状態にした上でふもとの人間界に送り込むようになった。

これからのアカネ
アカネは、隠蔽された歴史の闇と向き合い、その重荷を背負って、自らの生きる道を切り拓いていかなければなりません。
これからのアカネの冒険を、どうか温かく見守ってやってください。
よろしくお願いいたします。
