うちのおとんはアル中だった
漫画とかで、父子家庭で、おとんがアル中で、どうしようもないやつで、酔ったら理不尽に暴力振るってくる……ていう家庭環境で育ってるって設定あるじゃん。
ずっとさ、そういう人たち大変やんな、と思ってたけど、よく考えたらうちもそうだった。
おとんはわたしが知る限りアル中で、気が付いたときには酔って理不尽に怒ってたし、特に、巨人が負けると最悪だったし、例の姉なんかは、よく殴られたらしい。
夜中におとんと例の姉が物を投げたり怒鳴りあったりして揉めてるのはよく聞いた。わたしは冷静にそれぞれの言い分を分析して、すごく嫌な下の子の典型として、賢く振る舞う術を身につけた。
おかんが死んで、姉はやっぱりおとんと揉めて家出したので、しばらくはそんな飲んだくれのおとんと二人で暮らしていた。
別に、わたしは殴られたりはしてない。そこはみなさん安心してほしい。最近は自分の親を毒親っていうのが流行ってるけど、わたしはわたしの親を毒親だとは思わない。
特に、大人になって、自分が毎日働いて家族を養ってみたら、それがいかに大変なことか分かるし、結婚したのも子供を作ったのもあんたらの勝手だろとは思いこそすれ、そうでなくてはわたしという人間が存在する余地がなかったわけだし、そりゃあ、子供に手をあげるなんて褒められた行為ではないけど、おとんもおかんも人間なんだから、仕方なくない? そんな、人のことを悪く言えるほど立派な人間じゃないし。
でも、酔っ払ったおとんは、夜に話したことを全部忘れてしまう。大事な話をしても、朝になったら全く覚えてない。おとんは、帰ってきたらまず飲んで、夕ご飯を作ってくれてる間中飲んでるから、大事な話をするタイミングがまるでない。
ただ、わたしは賢かった。ひどいずる賢さなので、お金が絡む相談は酔っ払った状態でするに限る。なんなら、その場でゲンナマをせしめるに限る。
ほら、こんなだから、親が毒ってんのか、娘のほうが劇物なのか分かんないでしょう。
そんなある日、酔っ払ったおとんが、最近、通勤中に痩せ細った黒い子猫を見るのだと言い出した。
これは大チャンスである。
わたしは、物心ついたときから、猫と暮らしたかった。何度も断念したり、なぜか犬を飼ったりしていたが、諦めたわけではない。
おとんから言い出したのである。かわいそうにのう、ガリガリに痩せて、まだ小さいんよ。
だからもちろん、わたしは、その子をお家に連れて帰りましょう、という話に誘導した。そんなにかわいそうなんやったら、保護してあげないかん。そのためにおとんの前に出てくんのや。
酔っ払ったおとんは、うまい具合に話にどハマりした。調子に乗せればこっちのもんである。
ただ、問題は、いま、目の前に件の猫がいないことである。このままでは、明日の朝になって、わし、そんなこと言うたかのう、覚えてないワイ、などと言われたらおしまいだ。
とにかくずる賢いわたしは、すぐさま念書を書かせることにした。それが、こちらである。

酔っ払いめ!
なんにせよ、リビングを片付けていたらしい姉が二十五年ぶりに発掘してくれたので、掲載しておく。
みなさんも、酔って変な念書を書かされないようにご注意を。
ちなみに、結局、おとんは黒猫を見つけられず、わたしと友人が二人で探しに行き、黒猫ではなく、さばとら猫を、近くで猫にご飯をあげていた駄菓子屋のおばあちゃんから引き取った。別に痩せてもいなければ、母猫も、兄猫もいたが、本人は、兄弟の黒猫たちとも、母猫そっくりのちゃとらとも、仲良くできなくて悩んでいたらしいから、いい仕事したと思う。
すず、と名付けられたこの猫は、姉に懐き、おとんは結局、アル中の果てに死んでしまったけど。

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