闇の子どもたち 断片14
翌朝、もちろんルークは指定された集合場所に来なかった。来る前に呼びに行けばよかった、とアリアはため息を漏らす。
「呼んでくるから、みんなはここで待ってて」
「ダメよ、アリア」
早速、シェリーナに止められた。
「アリアは、リーダーじゃないもの。リーダーが決めるのよ」
そうね、と彼女は思わず苦笑した。自分よりもシェリーナの方が、よほどスーイの指示を理解している。昨日あれだけ、アリアは特別にスーイから注意されたにも関わらず、日頃の習慣からは抜け出せない。
「キエーリ、ルークを呼びに行った方がいいと思うの。どう思う?」
「もう、放っていこうぜ」
「ジャギスは、ばかなの? だめに決まってるじゃない!」
アリアは、二人を叱り飛ばそうとした言葉を、ぐっと飲み込んで、キエーリを見た。
彼は何度もまばたきをして、自分がリーダーであり、今何らかの決定権を任されてしまっていることと、戦っているようだった。
「あの、その」
「あんなやつ、いなくてもいいだろ? な? 言われた通りに来ないやつなんか」
「わたし、ひとりになるじゃない!」
「ふうん? いつも、自分一人で何でもできる、って言ってんの誰だっけ?」
朝から最悪だ。
アリアは頭を抱えて座り込みたくなった。が、口を出してはいけない、とはシェリーナの言だ。彼女は絶望的な気持ちで、冷めた顔をして立っているツルガを見た。
確かに、彼はかわいらしい天使のような顔をしていたが、救世主には見えない。アリアの視線に気がつくと、心底面倒くさそうに目を細めた。
「多数決にしたら」
ツルガは、声も天使のようにかわいかった。が、やはりルークと負けず劣らず、冷えびえとしている。
アリアは彼がどんな事情でここに連れてこられているのか、よく知らない。だが、この子も何かを抱えて、それと戦っているのだろう。
それを言うなら、きっとどの子だってそうだ。
「じゃ、じゃあ、多数決……」
「何だよ、そいつが言ったこと、採用すんのかよ」
ふん、とツルガが鼻で笑った。やんのか、お前、とジャギスが簡単に挑発に乗る。
「たすうけつの、たすうけつをしたらいいと思うわ!」
静かに、とアリアはついに声を上げた。
「あのね。確かにわたしはリーダじゃないけど、言わせてもらいます。このままここで、ルークを迎えにいくか、ルークを迎えにいくかどうかの多数決をするか、ルークを迎えにいくかどうかの多数決をするかどうか、争っても仕方ないでしょ! いい加減にしなさい」
「お前はリーダーじゃないなら、偉そうにすんな!」
「ジャギス! 口に気をつけなさい!」
いい、とアリアは声を落として続けた。
「みんな、スーイに言われたこと、ちゃんと思い出して。みんなで協力して進めないといけないのよ。リーダーを見て。困ってるじゃないの。ちゃんと指示を聞いて」
「ね、キエーリ、ジャギスは悪い子よね?」
あんたもよ、とアリアはシェリーナを睨みつけた。
「わたしから見たら、二人とも似たようなものよ、いい子にしなさい、シェリーナ」
とにかく、と彼女は続ける。
「メンバーが欠けていては困るので、ルークを呼びに行ってきます。キエーリ、それでいいわね?」
はい、とリーダーから、怯えた声で返事があった。
「じゃ、みんなで行こうぜ。俺、あいつが住んでるとこ、見てみたかったんだよな」
歩き出そうとしたアリアは、足を止めた。
何ですって?
ルークのあの性格からして、ジャギスやシェリーナが押し寄せることは好まないだろう。
なのになぜか、ツルガまで当たり前のように歩き始めていた。その上、シェリーナが、こっちよ、と偉そうに案内している。
「ルークは、とっても偉い人の子どもなのよ。だから、ジャギスなんかとは、ちがうお部屋に住んでるの」
「待って、何もみんなで行かなくても……」
「す、スーイ先生は……みんなで、協力するように、言ったから……み、みんなで、行くのが、いいと……思う……」
アリアの希望は、リーダーの実に子どもらしい、まっすぐな意見によって打ち砕かれた。
そうじゃないでしょ、と彼女は反論しかけて……諦めた。ため息をついて、意気揚々と歩き出したジャギスたちの後に続く。
やはり、来る前に声をかけるべきだったのだ。
昨日の感じでは、ルークが朝に強いようには見えない。
ちゃんと気をつけてあげれば……とそこまで考えて、それがスーイから「してはいけない」と言われたことなのだと思い至った。
ルークが悪いのだ。今日、この時間に集まることは分かっていたのに、来ないから。
そしてそれは、アリアが気を利かせて連れてくることじゃない。自分で考えて、行動できなければいけないのだ。
もしくは、それを見越して注意をするなら、リーダーか、全員の意見でなければならない、ということだろう。
まだ子どもじゃないの、と言えばそれまでだ。
しかしこれは、これだけは誰でもが知っていることだったが、ラスエトの王はすでに老いて久しい。彼女がここへ来たときから、随分な高齢だった。
魔力が人の寿命を永遠に伸ばすことがないのであれば……ないからこそ、これまでも代替わりがあったのだが……王は極めて近い将来に命を落とす。
もしかしたら、ルークが大人になるまで、待ってはくれないかもしれないのだ。
だからアリアは、どういうわけかルークの部屋を知っていたシェリーナが、再び自慢げに「ここよ」と扉を示して、ジャギスがそれを乱暴に、叩きもせずに開けたときも、黙って後ろに立っていた。
時間を遡ってますね……
読者の方
すんません

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