ルメラディアは灰色の憂鬱 別の断片
ウィリスは憂鬱だった。
まず何よりも、寒いのが苦手だったからだ。ガルヴェスは冬の国、南端の町でさえ、雪の季節は長い。
それなのに最北へ向かうなど、夢の中でもお断りだ。加えて、今は冬が始まったばかり。王都であってすら春は半年先なのに、彼の地に春はいつ来るというのだろうか。
その上、話に聞く限りでも、文献をありったけ読んでも、どうも全てが灰色だ。あたりはどこもかしこも岩だらけだというし、彼が行かなければならないという「城」は、どうも彼が知っているそれとは違っているようだった。
海へ向かって張り出した崖の先に造られている。それもあの、北の荒れ狂う海に向かって。
とはいえ、ウィリスはまだその海を見たことはない。そこを指摘して、彼の父は行ってみなければ分からないものは多いのだ、などと諭してくるが、恨めしい以外の感情が持てない。
さらにもう一つ、その城の主に会うのも愉快とは思えなかった。彼はウィリスの叔父で、父の一番年下の弟だ。
つい先日まで、彼は王都にいて、父の、つまりは自分の兄の家で暮らしていながら、王城の外れにある地下牢で暮らしていた。表向き、あそこは何かの研究施設だとされているが、まごうことなき地下牢である。
何だって、そんな陽の光もささない不衛生な場所で暮らしたいのか、理解に苦しむ。何度か、彼を見かけたことはあったが、大抵あらぬ方を向いていたり、何かの書物に没頭していたりして、甥であるウィリスを認識してくれたことはなかった。
父が言うには、彼は兄の人数も知らなければ、どれがどの兄かも分からないらしい。かろうじて、父のことは認識しているらしいが、それも一番上だという点で、だという。
彼が諸々の理由で北の地に行ったことは知っていた。
というか、これは全く別の理由で知ったのだ。
彼のところには、彼が北に行く直前に、ラスエトから魔術師だという少女がやってきていた。彼女は彼とはまるで正反対で、快活で、そして優しかった。
父のところへ挨拶にやってきたとき、ウィリスもその場に同席していた。理由はわからないが、一緒に座っているように言われたので、話を聞いて、大人たちの昼食の席にも他のいとこたちと共に参加した。
最初、魔術師と聞いていたので、父のそばにいるような、厳しい男がやってくるのを想像していたから、拍子抜けした。自分より少し年上なだけの女の子だったからだ。
あのラスエトの妙なローブを着ているという点を除いては、普通の子に見える。人を見下したようなあの感じもなかったし、自分の力を誇示している様子もない。
実のところ、ウィリスにしても叔父が何人いて、どこで何をしているのか、正確には分かっていない。中でも一番若い叔父が城の外れにある古い地下牢に住み着いていることは、そのとき初めて知った。彼女が、その地下牢に配属されると聞いたから。
だから、叔父に会ったのもその時が初めてだった。厳密には彼女に会いに行くための口実に、叔父を利用したのだが。
叔父には認識すらしてもらえなかったが、彼女の方はウィリスをきちんと覚えていて、地下牢では何のもてなしもできないことを詫びてくれた。
それは、彼女の責任ではない。むしろ、こんなとこに住まわせていることこそ申し訳なく感じたが、彼女自身はそんなことを少しも気にかけている風ではなかった。
一つだけ、ウィリスが納得できなかったのは、彼女が男物の服を着て、兵士が履くような長靴を身につけていたことだ。
美しく煌びやかなものが好きなウィリスは、例のローブにしろ、彼女の服装には改善の余地があると思った。できれば、祖母のようなドレスを着て、ああいう品のいい装飾品で飾られた部屋に住んでいてほしい。いつか、何かの間違いで彼女が祖母のところへでも行って、感化されてくれないか、と本気で考えた。
以来、ことあるごとに彼は地下牢へ通っていたのだが、あるとき、彼らがすっかり姿を消した。父に聞けば、北の地へ向かったという。
そうだ、とウィリスは自分の失策に思い至った。
そのとき彼は、非常に落胆した。自分も行かせてほしいと懇願した記憶がある。父は今は駄目だと言い、事態が落ち着いたら考えようと言った。その意味は今ひとつ分からなかったが、悲しい気持ちで自室へ戻ったことを覚えている。
彼女が恋しかった。嘘偽りなく彼はそう思った。
かわいらしいドレスになど身を包まなくてよいから、あの無骨な格好で、大股で歩いていていいから、また会いたい。
だから最初は、父に北へ行けとついに言われたとき、喜んだのだ。一瞬だけ。彼女がもうすでにラスエトへ帰ってしまったと知るまでの、一瞬だけ。
彼女がいない北の地になど何の魅力もない。
あるのはひたすら灰色の大地に黒い海、陰鬱な雪雲。そして変人の叔父だけだ。
#なんのはなしですか
#君と魔術と星空と
#ルメラディアは灰色の憂鬱
ルメラディア……
懐かしいな……
変なテンションの
ラブコメです
結構はずれるけど一応

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