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何かの断片 1

 そのとき、どうして後をつけたのかわからない。
 わたしの名誉のために言っておくが、普段はどんなに好みの人間が歩いていたって、後をつけたりなんかしない。
 人間以外なら、やるけれど。
 かといって別に、彼女がヒトに見えなかったわけではない。ついでに言っておくと、取り立ててかわいいわけでもなかったし、おしゃれなわけでもなかった。

 ただ、このわたしのほんの少しの好奇心が、全てのきっかけだったことは間違いない。
 彼女の側が、わたしがここを通ることを分かっていて、今現在のところ、一般的に認識されている方法ではない何らかの、未来的な何かか、スピリチュアル的な何かか、そういう合図でわたしを呼び寄せたわけでない場合に限って、ではあるが、その後の彼女の行動を考えるに取り立ててそういう妙なところはなかったから、違うだろう。

 彼女は、楽器ケースを担いでいた。厳密には、彼女と一緒に歩いていた同じ年頃の男も別の楽器ケースを担いでいた。
 わたしは、自身の人生において何度か音楽を嗜んだことがある者として、あれは何の楽器だろうか、と彼らに目を向けた。まあ、簡単に言えば、彼女自身というよりも、楽器の方が気になったのかもしれない。
 最近は、楽器を担いで歩いている人間、なんてものは少なくなっていたから、(そう、生の楽器を担いで歩いたりなんてしなくなってきたのだ、若者は。昔は、楽器を担いでいることには何らかのステータスだったのに)それもあって、わたしはついうっかり、彼らの後をつけることになってしまった。

 わたしは普段、決まった時間に決まったルートで会社に行き、退屈な一日を過ごしたあと、決まった時間に決まったルートで帰宅する。たまに用事があって店や何かに立ち寄ることはあるが、それも事前に決まっていることが多く、ふらっと立ち寄ったりはしない。
 だから誰かの後をつけるという行為は、それが意味する背徳的で犯罪めいた意味以外にも、わたしにとってはあり得ないことである。
 それをしてしまったら、いつもの帰宅時間からは大きく外れてしまうし、そうなれば家で待っている猫は喚くだろうし、帰った後に謝罪させられたり、寝るまでの時間が短く忙しないものになってしまったり、何かと弊害が出てくるからだ。
 にもかかわらず、わたしは彼らの後について、それまで待っていた信号が変わる前に、角を曲がっていた。




#なんのはなしですか
#君と魔術と星空と




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