反グロ論:米の新右翼〜井上弘貴・解説
America's New Right: A Shifting Ideological Landscape
このPIVOTの番組では、アメリカにおける「新右翼」という思想潮流に焦点を当て、その歴史的背景、多様な派閥、そして現代社会への影響を解説している。保守とリベラルの対立構造が変化する中、特に右派の多様化と、その新たな魅力が強調されている。 第一世代から第三世代へと進化する新右翼の系譜が語られ、リチャード・スペンサーのオルトライト、パトリック・デニーンのポストリベラル右派、タッカー・カールソンが代表するペイリオコン、ヨラム・ハゾニーのナショナル・コンサーバティブ、オーレン・キャスのリフォーミコン、そしてピーター・ティールやイーロン・マスクに見られるテック右派といった具体的な思想家や概念が紹介されている。特にテック右派は、シリコンバレーの自由を重んじる文化が共和党へと傾倒していく背景や、彼らの創造性や宗教的価値観との結びつきが探求されている。

米国の保守主義は、なぜリベラルより多様化し、その思想変遷の歴史的背景は何か?
米国の保守主義がリベラルよりも多様化している主な理由は、その「反リベラル」の立場の取り方によって、多様な右派の思想が生まれているためである。リベラルは考え方がかっちりしているため多様性が少ない傾向にあるのに対し、保守派は「右とは何か」を巡って様々な立場の人が意見を交わしており、それが良くも悪くも多様性と魅力につながっているとされている。
この思想変遷の歴史的背景には、主に三つの「ニューライト(新右翼)」の波がある。(タイトル画像参照) アメリカでは1980年代のレーガン政権の頃から保守とリベラルの対立が続いているが、その中身、特に右派の思想が大きく変化してきた。
1. 第一のニューライト(ニューディール批判):
◦ 20世紀初頭から半ばにかけてリベラルな考え方が主流を占めるようになったことへの明確なアンチの立場として確立された。
◦ 起源は1930年代、フランクリン・ルーズベルト大統領が始めたニューディール政策(政府による公共投資と再分配)への批判にある。当時の批判者は「なぜ政府が税金を勝手に取って人々にお金をばらまくのか、泥棒と同じではないか」と考えた。
◦ 戦後にその思想が確立され、バックリー・ジュニアのようなカリスマ的思想家が現れ、1980年代のレーガン政権誕生に影響を与えた。
◦ この第一のニューライトは、孤立主義や陰謀論的な部分は排除し、表舞台から遠ざけていた。
2. 第二のニューライト(反エリート主義、社会保守主義):
◦ 1950年代半ばから60年代にかけて、公民権運動の時代に、経済的平等に加えて人種的、ジェンダー的、セクシュアリティ的な平等を求める声が拡大したことに対する反応として現れた。
◦ この時代には、「様々な権利の拡大は、大卒の専門職の人々といった新しいエリート層の力を強めるに過ぎず、同時にキリスト教的な価値観が失われているのではないか」という批判が生まれた。
◦ 反エリート主義やキリスト教的価値観を重視する社会保守主義が特徴で、第一のニューライトと合流する形でレーガン政権を後押しした。
3. 第三のニューライト(現代の多層的な保守):
◦ オバマやヒラリー・クリントンといったリベラル政治家が代表的になった2000年代から2010年代にかけて、グローバル化や「ポリティカル・コレクトネス」の進展に対する反発として登場した。
◦ これは保守派内部での「主流派と傍流派の交代劇」と表現され、かつてタブーとされていた極端な考え方や陰謀論が、2016年のトランプ大統領登場以降、SNSを通じてカジュアルに普及し、表舞台に出てくるようになった。
◦ この波は、第一のニューライトが持っていた一部の思想を否定する側面もある。
◦ 第三のニューライトは、もはや思想がインテリ層に閉じ込められず、大衆化し、より「プロレス」のようなものになったと評されている。
◦ 現在の主流派(第一のニューライトを継承する人々)は、トランプの登場以降、立場が非常に弱くなっている。
第三のニューライトの多様なグループ
▪ オルタナティブライト (オルトライト Alt-Right):
※alternative:もう一つの、代わりの
リチャード・スペンサーのような白人ナショナリストが代表的である。かつて傍流に追いやられていた白人至上主義的な考え方を表に出す役割を果たし、彼らの思想は「当たり前」になるほど浸透した。潜在的な白人ナショナリズムが可視化され、同時に激化したと見られている。
▪ポストリベラル右派(Post-Liberal Right):
パトリック・デニーンが代表的で、リベラリズムは過去のものであり、打ち捨てるべきだと主張する。カトリックの宗教的価値観に基づいてアメリカ社会を刷新すべきだと考え、個人主義の行き過ぎを批判し、共同体や家族、道徳を重視する。
▪ ペイリオコン(Paleocon):
タッカー・カールソンのようなジャーナリストがこれに近い立場を取ることがある。ネオコン(自由民主主義に敵対的な海外勢力への先制攻撃を容認)と対立し、アメリカの対外的介入に強く批判的であり、アメリカの伝統的な孤立主義を引き継いでいる。
▪ ナトコン(NatCon:国民保守主義):
ヨラム・ハゾニーが代表的なイスラエルの知識人です。グローバリズムに反対し、国民国家こそが生活の重要な単位だと考える。ポストリベラル右派とも近い関係にある。
▪ リフォーミコン(Reformicon):
オーレン・キャスが代表的で、小さな政府を批判し、政府が保護主義的な経済・貿易政策を積極的に推進すべきだと考える。特に製造業を重視し、経済合理性よりも家族やコミュニティの重視から製造業の復興を訴える。
▪ テック右派(Tech-Right):
ピーター・ティール、イーロン・マスク、マーク・アンドリーセンが代表的なシリコンバレーの企業家たちである。

テック右派の思想的特徴
•起源と政治的変化:
かつては民主党支持であったが、暗号通貨やAIへの規制強化などから共和党へ傾倒した。
• 中心的な価値観:
◦ テクノロジーの重視:
テクノロジーこそが世の中を変える原動力であると強く信じている。
◦ 「0から1」の創造:
ピーター・ティールは特に「0から1」を生み出す創造の力を重視し、これを「神の創造」と結びつけるキリスト教的な価値観を持っているとされる。彼は中国が「1からN」は生み出しても「0から1」を生み出していないと批判的です。
◦ 反規制・自由の尊重:
暗号通貨やAIなどへの政府規制に強く反対し、企業や個人の自由な活動を重視する。
◦ 反フェミニズム・反多様性・反SDGs:
イーロン・マスクに代表されるように、フェミニズム、SDGs、ダイバーシティなどのリベラル的な価値観に対して批判的な立場を取る。
◦ 政府の効率化と「大きなビジョン」:
政府を効率化し、より大きなビジョンにエネルギーを向けるべきだと考えまる。イーロン・マスクは人類の絶滅を防ぐ「長期主義」といった思想的背景も持ち、現在子供が14人いる。
◦ エリート主義とリーダーシップ:
ピーター・ティールは世界を牽引する少数の仲間(起業家)とそれを支えるリーダーという「スタートアップ市場主義」的なリーダーシップ像を持っている。
• 「シリコンバレーという思想」:
シリコンバレーが「より大きなビジョンを描きたい」と考える人々が形成する思想集団となり、より若い世代に影響を与えようとしていると指摘されている。
▪ J.D.バンス:
政治家であり、テック右派、ポストリベラル右派、リフォーミコンの思想を総合的に受け継ぎ、言葉を与えている存在である。
トランプ大統領
第三のニューライトの多様な思想を包括し、「王様のようにゆったり構えて」様々な人の意見を聞き、状況に応じてそれらをディールさせていると見なされている。彼は、これらのグループの「シンクタンク集団」のようであるとも言える。
この第三のニューライトは一時的なものではなく、長く続く思想運動になると見られていますが、一つの統一された思想になるかはまだ不明確です。
