映画レビュー『残菊物語』 国宝の予習で出会った国宝
六代目尾上菊之助の芸道精進にひそむ人間悲劇を描いた溝口健二監督の名作。芸道三部作のひとつ。五代目尾上菊五郎の養子で若手人気歌舞伎役者・菊之助はある日、弟の若い乳母・お徳に自分の芸を批判されるが、次第に彼女に愛情を抱き始める…。キネマ旬報邦画ベスト・テン第2位。2015年、カンヌ国際映画祭クラシック部門でデジタル修復版(143分)がワールドプレミア上映された。
去年から今年にかけて、李相日監督作品『国宝』が社会現象になっている。
各種ニュースで『さらば、わが愛 覇王別姫』と並んで本作がよく引き合いに出されているため予習を兼ねて鑑賞した。
もともと気になっていた作品だが、モノクロ・長尺・台詞の聞き取りづらさ(経験測)により心理的ハードルの高い一作だった。
いざ、鑑賞。
何よりもまず、寸分の狂いなく上下左右そして前後へシームレスに動き回るカメラワークが圧巻である。
セットの素晴らしさも手伝いまさに神業の域に達している。
1939年製作とはにわかに信じがたい完成度に畏敬の念を抱いた。
ストーリーは典型的な悲恋ものと言っていい。
しかもふたりがどこまでもピュアにお互いを想い合うのでバッドエンドにも関わらず後口がよい。
奈落で稲荷に手を合わせるお徳の姿はもはや菩薩である。
満を持しての歌舞伎のシーンは期待ほどの爆発力はない。
溝口健二が描きたかったのは歌舞伎という芸そのものではなかったのだろう。
華やかな船乗り込みとお徳の静かな最期の対比に涙を誘われる珠玉のラブストーリーだった。
本作の存在こそ真の国宝と言える。
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