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蓮根を盗んだのは誰だ        Who Stole My Lotus Root?

最近、近くでクマの目撃情報があった。

学校からは、

「クマが出没しましたので、登下校の際は鈴を付けてください」

という連絡が回ってきた。

寺も学習塾もやっている身としては、なかなか困る話である。

しかし考えてみれば、この辺りではクマだけが特別なのではない。

ここは動物王国なのである。

私は北九州や東京で暮らしてきた。

子どもの頃、野生動物などほとんど見たことがなかった。

動物といえば動物園にいるものだった。

それが今では、山寺の住職として暮らしている。

人生とは不思議なものである。

朝、車で出かけようとするとキジが道を歩いている。

しかも逃げない。

こちらが待っているのに、のんびりと歩いていく。

大きなアオサギが車の前を横切ることもある。

その姿はまるで近所のおじいさんの散歩である。

夜、ヘルパーの仕事から帰ると、ライトの中にハクビシンが現れる。

最初の頃は驚いた。

今では、

「ああ、こんばんは」

くらいの気持ちになっている。

人間より動物との方が顔見知りになっている気がする。

昨年の冬のことである。

蓮の鉢を片付けようとして驚いた。

蓮根がない。

春から大切に育てていた蓮である。

葉が茂り、花が咲き、秋まで楽しませてくれた。

その蓮根がきれいさっぱり消えていた。

鉢の土は掘り返されている。

最初は何が起きたのかわからなかった。

泥棒だろうか。

いや、蓮根泥棒など聞いたことがない。

しばらくして犯人が判明した。

ニホンザルである。

境内を我が物顔で歩いているあの連中だった。

猿というと柿や栗を食べる印象がある。

しかし定法院の猿はなかなかの美食家らしい。

わざわざ蓮鉢を掘り返し、蓮根を持ち去るのである。

しかも被害はそれだけではない。

冬になると花壇に花キャベツを植える。

寒い季節の境内を少しでも明るくしたいからだ。

ところがある朝見たら、きれいに食べ尽くされていた。

犯人はまたしても猿だった。

村の人に話したら、

「猿やな」

の一言で終わった。

どうやら常習犯らしい。

そんな話を書くと笑い話のようだが、最近少し考えることがある。

若い頃、アメリカへ留学したことがあった。

道路にはスカンクがいた。

アルマジロが車にはねられていた。

庭にはハチドリが飛び交っていた。

畑には野ネズミが顔を出していた。

その頃の私は、日本との違いに驚いていた。

なんて自然が近い国なのだろうと思った。

けれど今、山寺で暮らしていると、日本も少しずつ同じ景色になってきたように思う。

空き家が増えた。

耕作放棄地が増えた。

子どもは減った。

山へ入る人も少なくなった。

すると動物たちが戻ってくる。

猿が戻ってくる。

鹿が戻ってくる。

イノシシが戻ってくる。

そしてクマも戻ってくる。

動物が増えたのではないのかもしれない。

人間の勢いが小さくなったのである。

私たちは自然を支配しているような気になっている。

けれど本当は違うのだろう。

人間が静かになると、自然はすぐにその場所を取り戻す。

夕方、本堂の戸を閉める。

遠くで猿の鳴き声がする。

田んぼの向こうには鹿が立っている。

どこかでハクビシンが歩いている。

そして山の奥にはクマがいる。

蓮根を盗まれるのは困る。

花キャベツを食べられるのも困る。

それでも山寺で暮らしていると、ときどき思うのである。

ここは人間だけの世界ではない。

私たちは、大きな動物王国の片隅に住まわせてもらっているのだと。

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