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「モチ米」が牙を剥くとき:イサーン料理と肝臓の甘くない関係

「モチ米」が牙を剥くとき:イサーン料理と肝臓の甘くない関係

バンコクの午後。オフィスビルの重厚な自動ドアが開いた瞬間に押し寄せる、あのねっとりとした熱気。外資系のオフィスは設定温度がバグってるんじゃないかってくらい冷え切っているから、この「タイの洗礼」が、冷え固まった体には意外とじんわり心地よかったりするんです。

バンコクに住み始めて5年。35歳。独身。
外資系企業でそれなりに責任のある仕事を任され、週末はスクンビットのおしゃれなカフェでブランチ。自分なりにスマートに、そして「サバーイ」に人生を謳歌しているつもりでした。

今日のランチは、チームのメンバーと近所のイサーン料理の屋台へ。
バンコクで働く私たちのガソリンといえば、やっぱりこれ。テーブルを彩るのは、酸味が弾けるソム・タムに、炭火の香ばしさがたまらないガイ・ヤーン。そして、これがないと始まらないのが、竹編みの小さなカゴ「クラティップ」の中で出番を待っている、炊きたてのカーオ・ニィアオ(もち米)ですよね。

指先を少し濡らして、熱々のもち米をムギュッと丸める。
それをスパイシーなナムチムに潜らせて、口の中へ。噛むたびに溢れ出すお米の濃密な甘みと、あの独特の、吸い付くような弾力。
「あぁ、タイに住んでてよかった……」
そう心の中で呟きながら、独身貴族のささやかな幸せを噛み締めていたんです。

でもね、そんな至福の時間に、冷や水を浴びせるような出来事がありました。
先週、会社から義務付けられた健康診断。その結果を受け取った私は、冷房の効いたオフィスで一人、凍りつきました。
「非アルコール性脂肪肝(NAFLD)の疑い」
およそ35歳の、自己管理を徹底しているはずのキャリアウーマンには似つかわしくない不名誉な文字。
お酒は週末にワインを嗜む程度だし、ジムだって週に一回は通っている。外資系で生き残るために、健康管理だって仕事のうちだと自負していた。それなのに、数値は残酷なまでに「NO」を突きつけてきたのです。

客観的に分析すれば、原因は火を見るよりも明らかである。
イサーン料理の主食であるカーオ・ニィアオのGI値は、精製された白米を遥かに凌駕し、100に近い数値を示すこともある。これは、摂取した瞬間に血糖値を爆発させ、インスリンの過剰分泌を招く「糖質の塊」であることを意味している。
あんなに可愛らしいカゴに収まって、無垢な顔をして座っているのに、その正体は肝臓を執拗に攻め立てる超弩級のハードパンチャー。
糖分を即座にエネルギーとして消費しきれない現代のデスクワーカーにとって、毎日のカーオ・ニィアオは、肝臓という貯蔵庫に「脂肪の貯金」を強制的に積み立てる行為に他ならないのだ。

ねえ、ちょっと信じられますか?
あんなに愛おしかったもち米が、実は私の肝臓を静かに、けれど確実に蝕む「牙」を隠し持っていたなんて。

しかも、ショックはそれだけじゃなかった。
「野菜中心だからヘルシーよね」なんて自分に言い訳しながら食べていたソム・タム。
ある日、屋台のおばちゃんの動きをスローモーションのようにじっと観察してみたんです。小さなすり鉢、クロックの中で、パパイヤと一緒に叩き込まれているもの。
それは、大きな塊のパームシュガー。
おばちゃんがそれをバサッと、まるで親の仇を討つかのような勢いで投入した瞬間、私の健康への自信は音を立てて崩れ去りました。
野菜を食べているという安心感は、実は大量の糖分を摂取するための免罪符、あるいはカモフラージュに過ぎなかった。
この「無自覚な糖質過多」こそが、バンコクで美しく、逞しく働く私たちの肝臓を、袋小路に追い詰める見えない主犯格だったのです。

イサーンの食文化が悪いわけじゃない。
かつて、照りつける太陽の下、広大な田畑で一日中体を動かしていた時代、この高エネルギーな食事は人々の命を繋ぐ最高のガソリンだった。
でも、今の私たちの生活はどうでしょう。
移動はBTSの冷房車か、Grabのタクシー。仕事は快適なデスクでパソコンと向き合うだけ。
消費される場所を失ったエネルギーは、行き場を失って、私の肝臓に「脂肪」という形で居座り続ける。文化のアップデートが、私たちの低代謝な生活リズムに追いついていないのです。

ランチの直後、デスクに戻ると襲ってくるあの抗いがたい眠気。
頭がクラッとするような、あの独特の感覚。
あれは単なる満腹感による幸せの余韻なんかじゃなかった。
私の肝臓が「もう限界だよ!」って、悲痛な声を上げていた切実な悲鳴だったのかもしれません。

そう思うと、なんだか自分の体に申し訳なくて。
誰かに愛されたいとか、彼氏が欲しいとか、そんなことよりもまず、一番近くで自分を支えてくれている自分の体を、私が一番愛してあげなきゃいけないんだって、痛感したんです。

でも、大好きなタイ料理を人生から排除するなんて、そんなの悲しすぎるじゃない?
だから、私は「知的な妥協点」を見つけることにしました。

まず、あの誘惑的なカーオ・ニィアオをいつもの半分にする。
そして、最近おしゃれなカフェでもよく見かけるようになった「カーオ・ライス・ベリー」(JIJIの日常主食だそうです)。という選択肢を自分に与えてあげる。

ライスベリー定食が欲しい

あの鮮やかな紫色の粒には、抗酸化作用のあるアントシアニンがたっぷり詰まっているし、何よりGI値が低くて肝臓に優しい。
それから、食べる順番も工夫してみることにしました。
まずは香ばしいガイ・ヤーン(タンパク質)から口にして、血糖値の急上昇にブレーキをかける。いわゆる「プロテインファースト」ですね。
そして、屋台のおばちゃんに笑顔で「マイ・ワーン(甘くしないでね)」と伝える勇気を持つこと。

タイを愛し、タイの味を楽しむ。
でも、自分の未来も同じくらい大切にしたい。
「サバーイ」な生活は、健やかな肝臓があってこそ成り立つ、究極の贅沢ですから。

さて、明日のランチは何を食べようかな。
カーオ・ニィアオの代わりに、ライス・ベリーを選べる新しいお店をデリバリーアプリで探してみるのも、今の私にとっては新しい楽しみ。
35歳、バンコク生活。
少しずつ、自分の体と対話しながら、もっと賢く、もっと自由に、この街を歩いていこうと思います。

皆さんの肝臓は、今、笑っていますか?


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JIJI BKK | 日タイ比較とNote執筆がモチベの元医療系ファシリテーターの在タイ長期居住者 応援ありがとうございます!いただいたチップは記事投稿のやる気の維持に使わせていただきます!