【第1回】なぜ「好決算」でも株価は下がる? 知らないと損する「たった1つの方程式」
一生モノのファンダメンタル分析 第1回にようこそ!
みなさん、こんにちは。
「一生モノのファンダメンタル分析」シリーズ、記念すべき第1回の記事を開いてくださり、ありがとうございます。
最初にお伝えするのは、株式投資の世界における「物理法則」とも言える、最も基礎的かつ強力な公式についてです。
「株価って、ニュースや噂でランダムに動いているんじゃないの?」
そう感じることもあるかもしれません。確かに、日々刻々と変わる数字を見ていると、そこには何の法則もないように見えます。しかし、短期的な嵐が過ぎ去った後、株価は必ず「ある場所」へと帰っていきます。
今日は、その帰る場所を知るための羅針盤を手に入れましょう。
それでは、第1回講義のスタートです。
株価が決まる仕組み
株式投資を難しく感じさせる原因の一つは、専門用語の多さです。PBR、ROE、配当利回り……。たくさんの指標がありますが、実は株価を決定づける要素はたった2つに集約されます。
これさえ覚えておけば、投資の迷子の9割は防げると言っても過言ではありません。
株価の方程式:株価 = EPS × PER
結論から申し上げます。株価は、以下のシンプルな掛け算で決まります。
$${\text{株価} = \text{EPS} \times \text{PER}}$$
この式は、テストに出るとかそういうレベルではありません。投資家にとっての「九九」であり、呼吸と同じくらい自然に意識すべきものです。
なぜなら、株価が上がったり下がったりする理由は、この「EPS」か「PER」のどちらか(あるいは両方)が動いたからに他ならないからです。これ以外の要因はありません。
どんなに複雑な相場解説も、結局は「EPSが伸びたから上がった」のか、「PERが高まったから上がった」のかを説明しているに過ぎないのです。
では、この2つの要素をそれぞれ分解して見ていきましょう。
EPS(一株当たり利益)とは?
EPSは、英語の Earnings Per Share の略で、日本語では「一株当たり利益」と訳されます。
企業が1年間ビジネスをして、売上から経費や税金をすべて差し引いた最終的な儲けを「純利益」と言います。この純利益を、発行している株式の総数で割ったものがEPSです。
$${\text{EPS} = \frac{\text{当期純利益}}{\text{発行済株式数}}}$$
これは、企業の「稼ぐ力(実力)」そのものです。
株式というのは、会社の所有権を細切れにしたものですよね。つまりEPSとは、あなたが持っている1株に対して、その企業が1年間でどれだけの利益を生み出してくれたかを示す数値です。
このEPSが毎年増えていく企業は、持っているだけであなたの資産価値を高めてくれる「成長するエンジン」を持っていると言えます。逆に、ここがマイナスだったり減少傾向だったりすると、株価を維持するのは非常に難しくなります。
PER(株価収益率)とは?
一方のPERは、Price Earnings Ratio の略で、「株価収益率」と呼ばれます。
計算式は以下の通りです。
$${\text{PER} = \frac{\text{株価}}{\text{EPS}}}$$
これだけだと少し分かりにくいので、直感的なイメージでお伝えしましょう。PERとは、「投資家の期待の大きさ」です。
今のEPS(実力)に対して、市場がその何倍の値段をつけているかを表します。「今の利益の何年分で元が取れるか」という回収期間の目安として見ることもできます。
PERが高い = 「将来もっと成長するだろう」という期待が高い(人気がある)
PERが低い = 「成長はそこそこだろう」あるいは「将来が不安だ」と思われている(不人気、または放置されている)
つまり、EPSが「企業の実力」であるのに対し、PERは「投資家の気分や期待」を表しています。
ケインズの美人投票論
株価は「実力(EPS)」と「期待(PER)」の掛け算だとお話ししました。
ここで面白く、かつ悩ましいのが、後者の「PER(期待)」の動きです。
経済学者のジョン・メイナード・ケインズは、この株式市場の性質を「美人投票」という有名な比喩で説明しました。
美人投票とは何か?
ケインズが生きた時代の新聞では、100枚の写真の中から「最も美しい6人」を選ぶコンテストがありました。正解者に賞金が出るのですが、その正解の基準は「審査員が選んだ人」ではなく、「投票者全体の中で最も多く票を集めた人」でした。
これ、どういうことか分かりますか?
もしあなたが賞金を狙うなら、「自分が本当に美しいと思う人」を選んではいけないのです。
「他の多くの参加者が『美しい』と投票しそうな人」を予想して選ばなければなりません。
株式市場もこれと同じだとケインズは言います。
自分が「この会社は素晴らしい!」と思っても、他の投資家たちがそう思って株を買ってくれなければ、株価(PER)は上がりません。
投資家は常に、「大衆はどう動くか?」「次はどのテーマが人気になるか?」という、他人の心理を読み合うゲームに参加している側面があるのです。
短期と長期で変わる視点
この「美人投票」のロジックは、特に短期的な株価変動に強く当てはまります。
決算が良くても株価が下がることがありますよね? あれは「確かに美人(高収益)だけど、みんなの好み(トレンド)じゃない」と市場が判断した結果、PERが下がった(期待が剥落した)状態と言えます。
逆に、赤字の企業でも「将来すごい技術を開発しそうだ」とみんなが騒げば、PERは何百倍にも跳ね上がり、株価は急騰します。
短期トレードの世界は、まさにこの「美人の読み合い」です。しかし、私たち長期投資家がそこだけに注力してしまうと、ただの心理戦に疲弊してしまいます。
そこで登場するのが、もう一人の偉人の言葉です。
グレアムの計量器論
「投資の神様」ウォーレン・バフェットの師匠であり、バリュー投資の父と呼ばれるベンジャミン・グレアム。彼は、ケインズの美人投票とは対照的な、しかし本質を突いた言葉を残しています。
計量器としての株式市場
「株式市場は、短期的には投票機(Voting Machine)であるが、長期的には計量器(Weighing Machine)である」
この言葉は、私の投資人生の支えになっている格言の一つです。
短期的(投票機):人気投票。今日明日の株価は、人々の感情やニュース、需給(PERの変化)で大きく揺れ動きます。これはケインズの言う通りです。
長期的(計量器):重さを測る機械。時間が経てば経つほど、人気やムードは剥がれ落ち、企業の「本当の重さ」つまり「利益(EPS)」そのものが株価に反映されます。
長期的には企業価値が反映される
どんなに人気があってPERが高くても、実際に利益(EPS)がついてこなければ、いつか必ず株価は暴落し、適正な水準に戻ります。これを「バブルの崩壊」と呼びます。
逆に、どんなに地味で不人気(低PER)な企業でも、毎年着実にEPSを積み上げ、配当を出し続けていれば、株価は必ずその価値に見合うところまで上昇します。市場という計量器は、長期的には決して嘘をつかないからです。
私たち個人投資家が味方につけるべきは、気まぐれな「投票機」ではなく、正直な「計量器」の方なのです。
実例で理解する
理論が続いたので、具体的な数字を使ってシミュレーションしてみましょう。
この計算イメージができるようになると、株価の動きがニュースの見出しではなく、数式として見えるようになります。
A社の事例(表や計算例を使う)
架空の企業「A社」があるとします。現在の状況は以下の通りです。

今の株価1,000円は、実力100円 × 期待10倍 で構成されています。
ここから、株価が動く2つのパターンを見てみましょう。
EPSが倍増したら株価は?
A社が素晴らしい新商品を開発し、利益が2倍になったとします。しかし、市場の人気(PER)は変わらなかったとしましょう。
$${\text{EPS } \mathbf{200円} \times \text{PER 10倍} = \text{株価 } \mathbf{2,000円}}$$
株価は2倍になりました。
これが**「業績相場」**と呼ばれるものです。
企業の努力によって実力(EPS)が上がり、それが素直に株価に反映された形です。これは非常に健全な上昇で、長期間持続しやすいのが特徴です。
PERが変化したら株価は?
次に、A社の利益(EPS)は100円のまま変わらないのに、テレビで「A社がすごいらしい!」と取り上げられ、投資家の人気が沸騰した場合を考えてみましょう。期待(PER)が2倍の20倍になったとします。
$${ \text{EPS 100円} \times \text{PER } \mathbf{20倍} = \text{株価 } \mathbf{2,000円} }$$
驚くべきことに、株価は同じ2,000円になります。
これが「金融相場」や「人気相場」と呼ばれるものです。
結果としての株価は同じですが、中身の質は全く異なります。
後者の場合、企業の実力は変わっていないのに値段だけが吊り上がっています。もしブームが去ってPERが元の10倍に戻れば、株価はまた1,000円に逆戻りしてしまいます。
さらには、最悪のケースとして、期待だけでPERが30倍、40倍と膨れ上がり、その後実力が伴わないことがバレてPERが急激にしぼむ……これが高値掴みで大損する典型的なパターンです。
投資家が知っておくべき3つのポイント
ここまでの話を整理して、これからの投資に活かすための3つのポイントをまとめます。
1. 短期的にはPER(期待)が支配する
明日、来週、来月の株価がどうなるか? それは誰にも分かりません。なぜなら、人間の感情(PER)がどう動くかを予測するのは不可能だからです。
短期的な値動きに一喜一憂するのは、天気予報を見ずに空模様だけを気にするようなものです。「今はPERが拡大しているターンなんだな」と冷静に見つめる視点を持ちましょう。
2. 長期的にはEPS(稼ぐ力)が重要
10年後の株価を予想することは、明日の株価を予想するより実は簡単です。なぜなら、10年後は「人気(PER)」の影響が薄れ、「実力(EPS)」が支配的になっているからです。
私たちがファンダメンタル分析をする理由はここにあります。「この会社は10年後、今より多くのEPSを稼ぎ出しているか?」 これを分析することこそが、長期投資の王道です。
3. 両者を理解して初めて株価を読める
株価が上がっている時、必ず自分に問いかけてください。
「この上昇は、EPS(利益)の成長によるものか? それともPER(人気)の高まりによるものか?」
もしEPSの成長による上昇なら、安心して持ち続けられます。
もしPERの拡大だけによる上昇なら、そろそろ利益確定を考えるか、警戒レベルを上げるべきかもしれません。
この「分解する癖」をつけるだけで、高値掴みのリスクは劇的に減り、割安で放置されているお宝株を見つけるチャンスが広がります。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
第1回は、株式投資の最も根幹となる「株価が決まる仕組み」についてお話ししました。
今日のポイントを箇条書きで振り返ります。
株価は「EPS(実力)」×「PER(期待)」で決まる。
短期的には「美人投票(PER)」の要素が強く、心理戦になりやすい。
長期的には「計量器(EPS)」の要素が強く、業績に収斂する。
株価上昇の理由がEPS由来なのかPER由来なのかを見極めることが重要。
この公式が頭に入っているだけで、明日からのニュースの見え方が変わるはずです。「〇〇社の株価が急騰!」という見出しを見たら、「それは業績(EPS)の話? それとも期待(PER)の話?」とツッコミを入れてみてください。
さて、仕組みは分かりました。では、具体的にどうやって資産を増やしていけばいいのでしょうか?
実は、株式投資には資産を雪だるま式に増やすための「3つのエンジン」が存在します。このエンジンをどう回すかで、あなたの資産形成のスピードは劇的に変わります。
次回予告:第2回「複利の力と投資の3エンジン」
次回は、人類最大の発明と言われる「複利」を味方につけ、EPS成長、PER変化、そして配当という3つのエンジンを使いこなす具体的な戦略について解説します。どうぞお楽しみに!
【次のアクション】
ご自身の保有株、あるいは気になっている銘柄を1つ選び、証券アプリや四季報で「EPS」と「PER」の数値を確認してみましょう。「今の株価はこの掛け算でできているんだ」と実感することが、分析への第一歩です。
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(今は全記事無料です!2026/02/08)
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