遠回りを、道しるべに
十六で初めて刷毛を握ってから
数えれば二十九年
だが
二十九年間ずっと
塗装だけをしてきたわけじゃない
止まっていた時間もある
自動車板金
鉄筋
鉄骨鳶
足場屋
瓦屋
食うために
色々な仕事をやってきた
車のへこみと向き合い
鉄を組み
重たい材料を担ぎ
風の吹く高い場所にも立った
自動車板金では
形を直す難しさを知った
鉄筋では
完成したら見えなくなる仕事の
大切さを知った
鉄骨鳶では
建物を支える骨の重みを知った
足場屋では
誰かの仕事は
誰かの足元に支えられていると知った
無駄だった仕事は
一つもない
それぞれの現場で覚えたことが
今の俺の手に残っている
それでも
色々やったからこそ分かった
俺が一番夢中になれるのは
やっぱり塗装だった
養生をして
下地を整え
材料を練り
刷毛を入れる
少しずつ
景色が変わっていく
同じ材料を使っても
塗る人間によって仕上がりは違う
力の入れ方
刷毛の運び
乾きの見極め
そこには
職人の性格まで出る
簡単そうに見えて
どこまでやっても終わりがない
二十九年たった今でも
もっと上手くなりたいと思う
誰かにやれと言われたわけじゃない
他に何もできないからでもない
色々な仕事を経験した俺が
自分で塗装を選んだ
だから胸を張って言える
結局、俺は
塗装が好きだ
そして今
もう一つ
やりたいことがある
非行に走ってしまった少年少女
今まさに
道を外れようとしている少年少女
本当は寂しいのに
寂しいと素直に言えず
強がることでしか
自分を守れない子どもたちに
手を差し伸べていきたい
俺一人の力で
誰かの人生を救えるなんて
そんな大それたことは思っていない
それでも
見て見ぬふりはしたくない
頭ごなしに叱るのではなく
まず、その声を聞きたい
悪いことは悪いと伝える
だが
その子自身まで
悪い人間だと決めつけない
耳で聞こえなくても
目を見れば分かることがある
言葉にならない寂しさは
顔にも
拳にも
背中にも現れる
助けてと言えない子どもたちの
小さな合図を見落とさない
そんな大人でいたい
引っ張り上げられなくても
隣で一緒に歩くことはできる
戻りたいと思った時に
差し出された手を
しっかり握ることはできる
俺が歩いてきた二十九年を
武勇伝にするつもりはない
遠回りした経験を
これから道を外れようとしている
誰かの道しるべにしたい
俺がこれから残したいものは
塗り終えた家だけじゃない
あの時
あの人がいてくれて良かった
そう思ってくれる子が
一人でもいてくれたなら
俺が歩いてきた遠回りにも
意味が生まれる
それが
色々な道を歩いてきた俺の
これからの仕事であり
これからの生き様だ
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