「ロッドユール」は誰の友人?古のフィンランド新聞に記された謎
はじめに(飛ばしてOKです)
以前、筆者は X(旧Twitter) でこんなことを呟いた。
とある海外の新聞アーカイブサイトに関する投稿だ。
最近この、「昔の新聞でこんなムーミン記事を見つけた!」という話を得意げにしているが、有料コンテンツとかではなく誰でも見られるはずなので、需要があればそのうちnoteか何かで紹介したい。ここで読めますよ、という感じで
— 豎林檎※要プロフ一読 (@juringo_applest) May 7, 2025
でも頑張って発見したものを易々と教えたくないという気持ちもある https://t.co/iSQotzHajx
この呟きを見ればわかるが、筆者は「頑張って自分で発見した宝の山を、他人にあっさりと分け与えてしまうのは割に合わない」という自己中心的な考えを持っている。
そんな折、自分と同じくこの新聞アーカイブサイトを発見した、とある方がいる。その方は自身の投稿の中で、惜しみなく当該サイトを紹介していた。
・・・・・・
つまらんプライドは捨てて、自分も皆さんに共有したいと思います。
フィンランド国立図書館のデジタルアーカイブ
フィンランドの国立図書館 "Kansalliskirjasto"((瑞) Nationalbiblioteket)所蔵の、フィンランド国内で出版された数多の新聞や書籍。そのデジタル化資料の一部を無料で読めるWebサイトがあります。
それがこちら↓
このサイト、ムーミンに関する古の激レア新聞記事をたくさん読むことができます。
1947~1948年にかけて、"Ny Tid"紙で連載された「ムーミントロールと地球の終わり」のスウェーデン語オリジナル版が読めたり、1949年の演劇「ムーミントロールと彗星」に関する記事が読めたり、「小さなトロールと大きな洪水」の広告が掲載されていたりと、コアなムーミンファンにとっては宝の山のようなサイトです。

そんな宝庫の中に、個人的に興味深いと思った記事があったので、ここに共有させていただきます。
フレドリクソンとの船旅=「ムーミンパパの思い出」ではなかった?
1949年4月22日付の "Nya Pressen"紙に、"Hört i radio" という見出しのコーナーがあります。
"Hört i radio"は、翻訳すると「ラジオで聴いた」という意味。詳細は不明ですが、ラジオで聴いた話を新聞にまとめた記事でしょうか。
"Hört i radio"の見出しの下に、以下の小見出しから始まる文章が掲載されています。

Den stora Dronten (巨大なドードー)
以下に、この "Den stora Dronten" から始まる、当時のムーミン本の新作に関する記事の日本語訳を載せます(Google翻訳を使用しています)。
原文をお読みになりたい方は、こちらをどうぞ。
巨大なドードー
それはトーベ・ヤンソンの新しいいきもので、昨日の聴衆はスヴェン・レランダーの仲介を通じてそのことを知りました。
この楽しい物語の主人公は、もちろん、2冊の本を通じて読者によく知られているムーミントロールです。
我らが旧友スナフキンもそこにいて、我々の耳には「ロッドユール」と聞こえた何かもいました。
そして彼らは皆、フレドリクソンの大きなハウスボートに乗り出し、そのボートは紆余曲折を経て、ついに巨大なドードーによって進水しました。
トーベ・ヤンソンのおとぎ話は、いつも色彩豊かで想像力に富み、そして、意図せずして独創的で、知的なタッチを持っています。
この大きなドードーがすぐに書店の棚に並び、小さな子も大きな子も皆が喜ぶことを期待しましょう!
"Dronten" という馴染みのない単語が書かれていますが、"Dronten" は原作のムーミン童話にも登場します。童話では "Dronten Edward" ――「竜のエドワード」 と呼ばれています。つまり、この "dront(en)" は、原作童話における「竜」に該当するいきものです。
(童話では「竜」、コミックスでは「ドードー」、絵本では「ドロンテ」と呼ばれるいきものが登場しますが、いずれも原語では "Dronten" です)
……フレドリクソンの大きなハウスボートに乗り出し、そのボートは紆余曲折を経て、ついに巨大なドードーによって進水しました。
正に、ムーミン童話の4作目「ムーミンパパの思い出」の、海のオーケストラ号進水の場面を彷彿とさせる文章です。
つまり、この記事はムーミン童話の4作目の告知文なのだろうと推測できます。実際、3作目の「たのしいムーミン一家」は1948年に発売され、4作目「ムーミンパパの思い出」は1950年に発売されました。この記事が掲載されたのは1949年4月22日ですので、時系列的にまだ発売されていない4作目の宣伝であることが伺えます(記事中の「2冊の本」とは、「ムーミン谷の彗星」と「たのしいムーミン一家」を指していると思われます)。
ややこしいので、時系列を表す図を載せておきます。

しかし、ここまで読んだ方はもうお分かりでしょうが、この記事には、実際に発売された「ムーミンパパの思い出」とは異なる点が存在します。
この楽しい物語の主人公は、もちろん、2冊の本を通じて読者によく知られているムーミントロールです。
我らが旧友スナフキンもそこにいて、我々の耳には「ロッドユール」と聞こえた何かもいました。
そして彼らは皆、フレドリクソンの大きなハウスボートに乗り出し、そのボートは紆余曲折を経て、ついに巨大なドードーによって進水しました。
この記事によると、船に乗るのはムーミントロール、スナフキン、ロッドユールとフレドリクソンです(ちなみに、この記事ではフレドリクソンのスペルが "Fredriksson" になっています。「ムーミンパパの思い出」では "Fredrikson" です)。
言うまでもなく、実際の「ムーミンパパの思い出」で海のオーケストラ号に乗るのは、ムーミンパパ、ヨクサル、ロッドユール、フレドリクソンです。親世代の若いころの物語が「ムーミンパパの思い出」であり、子であるムーミントロールやスナフキンは聴き手に徹しています。
この違いはどういうことでしょうか。原案では、4作目はムーミンパパの回想録ではなく、ムーミントロールを主人公とした冒険物語にするつもりだったのでしょうか。
また、この記事に書かれている「ロッドユール」も、謎の存在です。これは我々が良く知るロッドユール=「スニフの父」のことなのか、ロッドユール=「スニフ」と呼んでいるのか、はたまた「スニフ」でも「スニフの父ではないロッドユール」なのか。
「ロッドユール」とは何者なのか
前述の1947~1948年の「ムーミントロールと地球の終わり」では、スニフはなぜか "Rådd-djuret"(=ロッドユール) という名前で登場します(※筑摩書房から販売されている日本語版では、単純に「スニフ」と書かれています)。

左側のテキストをよく見ると "Rådd-djuret" の文字が。
また、"Den stora Dronten" 掲載の数ヶ月後、1949年のクリスマス時期に初演された「ムーミントロールと彗星」では、スニフの代わりにロッドユールがメインキャラクターとして登場します。
話がややこしくなってきたので、さきほどの時系列図に追記しました。

つまり「ロッドユール」というキャラクターは、時期や媒体によって、役回りも姿も異なるということです。
ですので、この "Den stora Dronten" に登場する「『ロッドユール』と聞こえた何か」が、一体何者なのかもわからないのです。この時点の構想では、ロッドユールはムーミンパパではなく、ムーミントロールの友人(スニフポジション)だった可能性があります。
……余談ですが、1969年のTV番組「ムーミントロール」では、ロッドユールはミイ同様、ムーミン家に養われています。
もしかすると、世間で広く認知されている「スニフの父としてのロッドユール」は、実はイレギュラー的な存在なのかもしれません。
まとめ(?)
兎にも角にも、"Den stora dronten" は謎が多く興味深い記事です。
演劇「ムーミントロールと彗星」にもドードー(=竜/ドロンテ)は登場するので、そちらに引き継がれた設定もあるのかもしれません。
今後どれだけ情報を入手できるかはわかりませんか、引き続きこの件については調べていきたいと思います。
みなさんはどう思われますか?是非ご意見を拝見したいです。
