あの有名キャラクターと共演?謎の「ムーミンソング」~Idyllvisa~
前置き
以前のnoteで取り上げた、トーベ・ヤンソンを称え制作されたCD――"Moomin Voices"。
トーベ・ヤンソンが自ら作詞した「ムーミンソング」は数多く、彼女がタウロと共に生み出した楽曲は、ムーミンの舞台やTVプログラムを彩った。
しかし、「ムーミンソング」の歌詞を手掛けたのは、トーベ・ヤンソンだけではない。彼女の弟であり、ムーミン・コミックスのもう1人の作者であるラルス・ヤンソンもまた、ムーミン谷の詩を紡いだ。「ロッドユールの歌」や「タンゴ」等、姉と共に生み出した歌詞もあれば、「ミイのりんごの歌」等、ラルス単独で制作した歌詞もある。
それでも、前述のCD "Moomin Voices" には、ラルスが作詞した楽曲は収録されていない。それはやはり、このCDがトーベ・ヤンソンを称え制作されたものだからだろうか。
The first recording of the complete collection was made in 2003 by composer and arranger Mika Pohjola on the Moomin Voices CD (Muminröster in Swedish), as a tribute to the late Tove Jansson.
商品の説明より一部抜粋
Moomin Voices is the first recorded collection of the entire original Moomin song book, composed by Tove Jansson and Erna Tauro, and arranged by Mika Pohjola.
商品の説明より一部抜粋
なるほど。やはりこのCDのコンセプトは「トーベ・ヤンソントリビュート」であることが伺える。それならば、ラルスが携わった歌曲が除外されていることも、理にかなっていると言えないこともない。
ゆえに、"Moomin Voices" に収録されている楽曲は、すべてトーベが作詞したものなのだ――自分はしばらく、そう思い込んでいた。
非・ヤンソン作詞のムーミンソング
「トーベ・ヤンソンが生み出した『ムーミンソング』集」というnoteを書くにあたって、より詳しく "Moomin Voices" について調べたところ、トーベ・ヤンソン作詞ではないにも関わらず、同作に収録されている楽曲が存在することに気づいた。
Idyllvisa
Augusti
Om allt inte var
この3曲である。
これらはいずれもエルナ・タウロが作曲したものである。当然、作詞した人物も判明している。"Moomin Voices" より数十年も前のレコードやCDにも収録されていたことがある。
"Moomin Voices" に収録されているからには、当然ムーミン関連の歌曲である……はずである。
しかし、ラルス・ヤンソン作詞の歌を差し置いて(という言い方は失礼かもしれないが)収録された、非トーベ作詞のこれらの歌曲は、一体何なのか。
基本的にムーミンに関する歌曲は、(トーベが作詞したか否かにかかわらず)、演劇やTVプログラムといった作品のために制作されている。日本人にとって馴染み深い例としては、昭和と平成の時代に放送されたムーミンのTVアニメの主題歌や劇中歌があげられる。
つまり、この "Idyllvisa"、"Augusti"、"Om allt inte var" も、何らかのムーミン作品のために制作されたものなのだろうか。
Idyllvisaとは何なのか
結論から言うと、インターネット上ではほとんど情報を得られなかった。
前述の通り、これら歌曲が収録された音楽媒体は存在するが、その中に、ムーミンと直接関係があると思われるレコードやCDはなかった。
複数のアーティストがこれらを歌っているが、具体的に、<いつ><誰が><何のために>、初めて歌ったのか、それが判然としない。
それでも、なんとか少しだけ情報を得られたのが、"Idyllvisa" だった。――というより、自分が最も関心を持ち、調査したいと思ったのが "Idyllvisa" だった、という話なのだが。
その理由は簡単だ。この歌を聴いていると、サビの部分(と言ってよいものか)で割とハッキリと聴こえてくるのだ。
「ム~ミントロ~ル」というフレーズが。
聴けばわかる
――いやでも、ただの空耳かもしれない。しかし、これが「ムーミントロール」ではないとしたら、何だというのだろう。
しかも、"Moomin Voices" 版の "Idyllvisa"(=上記URL) の冒頭には、スノークのおじょうさんとムーミントロールの会話のようなものが数秒間挿入されている。筆者のリスニングスキルでは全くと言っていいほど聴き取れないが、かろうじて "Berätta"、"lite"、"Snorkfröken"、"alldeles säker"、"Berättade trollet" といったような単語は聴こえたような気がする。
(余談だが、"Moomin Voices" の収録曲の内数曲は、このように冒頭に会話が含まれている。おそらくほとんどが、原作小説からの抜粋である)
とりあえず、この歌がムーミン関係のものであることは間違いないようだ。
前述の通り、この歌そのものがどういう経緯で制作され、どういった場面で歌われたのか、そもそも舞台やTVのために制作されたのか等、詳細はわからなかった。それならばせめて、歌詞を見れば何か情報が得られるのではないか。
歌詞が掲載されているサイトはごく僅かなようだが、見つけることはできた↓
やはり気になるのは、サビの部分。自分の破滅的リスニング力で聴き取ったフレーズと、サイトに記載されているテキストを照らし合わせ、取り急ぎサビの歌詞を確認した。
Barnasinnet i behåll, mumintro mumintroll, Nalle Puh och poesi, tryggare kan ingen bli
出た。"mumintroll"。やはりムーミントロールと言っていた。
続く "Nalle Puh och poesi"。"poesi" は「詩」。では、"Nalle Puh" とは?
Google翻訳に訊いてみる。

Nalle Puh → 英語)Winnie the Pooh
!?
“Winnie the Pooh” ということはつまり……「くまのプーさん」?
一応、”Nalle Puh” でもググってみる。

うん、「くまのプーさん」だ。
いやまさか……ムーミントロールとプーさんが、歌の中で共演(?)を果たしていたとは。
しかし、おかげでこの “Idyllvisa” について、少しわかったことがある。
それは、この歌が(おそらくだが)ムーミン作品の歌曲として書かれたわけではない、ということだ。
もし、ムーミンの舞台やTVプログラムのために書かれたものであるならば、作者も世界も異なる「くまのプーさん」が登場することなどあり得ないだろう。

Idyllvisaの歌詞
サビの部分を翻訳してみた。Google翻訳も使用したが、例のごとく自信はない。
子ども心を持ち続けよう
ムーミンの精神を ムーミントロールを
くまのプーさんや詩を
何よりも安心できるものだから
※ "mumintro" をどう訳したら良いかわからないが、”mumin”と”tro”とに分解して考えてみた。”tro”は「信念」「信仰」「考える」等と訳せる(英語では"belief"、"faith"、"think" 等に該当する)ので、この "mumintro" は「ムーミンマインド」、「ムーミン(のキャラクター)の様な考え方」といったニュアンスで捉えてみることにした。
歌詞全体を確認したところ、ムーミン関係の単語が登場したのは、上記のサビ部分のみであった。
歌の内容をものすごくザックリまとめると――「世界は残酷で恐ろしい。でもぼくは君を愛している。君はぼくを救ってくれる。2人でおとぎの国へ行こう」
……解釈が難しい歌だと感じた。タイトルの "Idyllvisa" =「牧歌」が示すとおり、美しい愛と純朴さが感じられるし、実際そういう意図で制作したのだとは思う。
しかし、それと同時に「残酷な現実に生きている」「夢の中だけでも幸せでいたい」というどうしようもない心の痛み・切なさも感じてしまうのは、自分だけだろうか。
思えば、トーベ・ヤンソンがムーミンの物語を書いたのは、希望や色彩を描く意欲を失っていた戦時中のことだった。ある種の現実逃避のような形で、トーベはハッピーエンドの物語である「ムーミン」を描いた。幸せな子ども時代の思い出がなければ、ムーミン谷は存在し得なかった。
"Idyllvisa" がどのような目的・意図で制作されたのかはわからない。しかし、その歌詞にはしっかりと「ムーミン」の世界に通ずるものがあると感じた。
皆さまはこの歌詞を読んでどう思われるだろうか。是非、ご自分ですべての歌詞を読んでみてほしい。
補足:作詞家について
"Idyllvisa" の作詞家は2人いる。Bengt AhlforsとFrej Lindqvistである。Wikipedia情報になってしまうが、両者は友人同士でともに脚本家で監督、1963年にはあのヴィヴィカ・バンドラーが主催するヘルシンキのリッラ劇場でミュージカルデビューを果たしている(因みに、リッラ劇場では1958年に "Troll i Kulisserna" が上演されたことがある。演出はもちろんヴィヴィカ・バンドラー)。
また、Bengt Ahlfors に関しては「ムーミン俳優」である Lasse Pöysti、Birgitta Ulfsson や Elina Saloと共にいる写真も存在している。ムーミンとの縁を感じられずにはいられない。
おまけ
今回のnoteは、非常に「粗削り」である。そもそも情報が少ないから書けることが少ないというのもあるが、それにしても上っ面を述べるだけの内容になってしまった。もっと時間を掛けて情報収集・執筆をすれば良かったと反省(私事で恐縮だが、筆者は明日資格試験を控えている。正直noteを書いている場合ではないのに、何をしているんや)。
それにしても、「ムーミン」と「くまのプーさん」の意外な繋がりに驚いた。両作品のコラボレーションというと、自分は真っ先にこの公式絵が頭に浮かんでしまうのだが。

参考Webサイト:
"Moomin Voices Muminröster". Amazon.co.jp. https://www.amazon.co.jp/Moomin-Voices-Muminrter-Jansson/dp/B00006RZ2N, (参照2025-09-30)
"Moomin Voices". Apple Music. https://music.apple.com/jp/album/moomin-voices/6197365, (参照2025-09-30)
"Idyllvisa". Svensk Musik. https://www.svenskmusik.org/sv/verk/idyllvisa-86079#other, (参照2025-09-30)
"Mumintroll - Idyllsvisa". Lyrics Translate. https://lyricstranslate.com/en/moomins-idylli-lyrics.html, (参照2025-09-30)
"ヒストリー". 新作ミュージカル『ディズニー くまのプーさん』. https://www.rkx-i.jp/musical-pooh/history.php, (参照2025-09-30)
"Erna Tauro & Bo Andersson – Höstvisa". Discogs. https://www.discogs.com/release/2144487-Erna-Tauro-Bo-Andersson-H%C3%B6stvisa, (参照2025-09-30)
"Anki – Idylli". Discogs. https://www.discogs.com/master/340070-Anki-Idylli, (参照2025-09-30)
"Frej Lindqvist". Wikipedia. https://sv.m.wikipedia.org/wiki/Frej_Lindqvist, (参照2025-09-30)
"Bengt Ahlfors". Wikipedia. https://sv.m.wikipedia.org/wiki/Bengt_Ahlfors, (参照2025-09-30)
"Lilla Teatern 1958 – Troll i kulisserna". Moomin. https://www.moomin.com/sv/blogg/lilla-teatern-1958-troll-kulisserna/#3754781b, (参照2025-09-30)
