"ニセモノ"のロンドンを旅した
カバンひとつの一人旅
年末に休みを取って海外旅行に行ってきた。
ボストンバッグ1個とM型ライカ1台だけを持った気楽な海外旅行だ。

12月26日の夜に都心を出発し、東京モノレールで羽田空港に向かう。思いの外、モノレールは混雑していた。すでに国内線の運航は終了している時間だったため、乗客のほとんどが羽田空港第3ターミナルで降りた。
僕が搭乗するANA便は第2ターミナル出発だったため終点まで乗った。羽田空港第2ターミナル駅で降りた人は数人で、改札を出ても商業施設はすでに閉まっていて、人気もほとんどなかった。夜の空港は少し不気味な感じすらした。

国際線のチェックインカウンターも当然閑散としていた。東南アジア行きの一部の便の搭乗手続きも終わったあとのようで、残るは僕が乗る便だけのようだった。無人のチェックインキオスクでの手続きが何か風情がなく感じられ、有人カウンターでボーディングパスを発券してもらった。
香港行き深夜便に乗る
深夜2時に出発するその便の行き先はロンドン…ではなく香港だ。
日本時間深夜2時発のANA便は混んでいた。ANAのラウンジでは「うどん(炭水化物)は絶対に食べない」と決めていたが、結局とんこつラーメンを注文してしまった。

そんなこともあって、機内では全然眠れなかった。ANAが「ゆりかごのよう」と宣伝するクレードル型の座席は僕には全く合わなかった。「眠いのに寝られない」。そんなことを考えているうちに離陸後2時間が過ぎ、食事のサービスが始まった。機内食の和食はとてもおいしかったが、日本時間で朝5時過ぎの食事はそれなりに重かった。
香港は入境もスムーズで、現地時間午前7時(日本時間午前8時)には香港島の中心にある香港駅に到着した。写真を撮って夕方のマカオ行きフェリーに乗った。(香港半日滞在の話はまた別途)。
ここはロンドン⁉︎
前置きが長くなったが、マカオで宿泊したSt. RegisはThe Londonerというリゾート施設内にある。米国のカジノ大手Sandsが運営するこの施設は英国を模した設備で人気を集めている。施設外観は19世紀のビクトリア朝時代の様式になっているし、BigBenもある。なかなか精巧につくられていて、酔って周囲を見回したら、ロンドンにいると錯覚する可能性はある。

翌日の朝、外に出ると、ホテル前に止まる赤い2階建てバスや赤い公衆電話ボックス前では多くの人がスマホのカメラを向けていた。英国風パブやアフタヌーンティーを提供するレストランもある。そう、ここは偽物のロンドンだ。
最初からLondonerに滞在するつもりはなかった。Mandarin Orientalなど他のホテルを検討していたが、カジノも含めた周辺施設の充実度でSt. Regisを選んだ。(もっとも、マカオは非常に小さな地域のため、どこに泊まってもほとんど影響がないというのが僕の結論だ)。
St. Regisのホスピタリティーに関しては非常に満足だった。部屋の掃除の際には、部屋に放置したUSB充電ケーブルをまとめて留めておいてくれたり、最終日の夜には名物のエッグタルトを部屋に用意してくれたりもした。朝食を食べたレストランThe Manorもちゃんと名前を覚えてくれたことには好感を持った。
ホテルの部屋のテレビが点いたり点かなかったりしたことや、ミニバーの鍵がかかっていて開かなかったことなどは瑣末なトラブルにすぎなかった。
さて、偽物のロンドンである。施設内には所々に巨大なティーカップが設置されているし、衛兵交代も行われている。「所詮はデフォルメされた偽物でしょ」。英領だった香港ならいざ知らず、英国とは本来的に何のつながりもないマカオに英国を「再現」していることに当初は違和感しか感じなかった。

だが、そんな偽物でも、多くの観光客はBig Ben風の時計台にカメラを向け、自撮りしていた。「英国風」を満喫しているようだった。SNSを見ても、Londonerで撮影した写真を多く見かける。みんな楽しそうだ。
でも、みんな本物はみたくないのだろうか。ロンドンが遠いといっても、アジアから半日ほどで到着するし、マカオで高級ホテルに泊まれる人はロンドンにいくことも金銭的にはさほど難しくはないはずだ。
そこでふと思った。一生に一度もロンドンに行かない人の割合ってどのくらいなのだろうか、と。
1回もロンドンに行かない人が95%?
ChatGPTで粗い推計を試みたところ、ざっくり世界人口の95%前後が一生に一度もロンドンを訪れることはないという。(観光統計などをもとに、推測に推測を重ねた数字で、この数字の信ぴょう性自体の検証が必要だが、「当たらずとも遠からず」な感じはある。未検証につき引用厳禁)。
そもそも、世界人口の7割程度は一生に一度も国を出ることなく生涯を終えるようだ。(これも同様にChatGPTを使った推計)。
この数字を見ると、マカオの「偽ロンドン」に集まる人たちの中で「本物」にたどり着く人は意外に少ないのかもしれない。もし、マカオの模造品が「本物」を見に行く誘因になるなら、それはそれで意義があるし、そうでなくても、「本物」への関心を掻き立てるとすれば、それもいい。
世界中で内向き志向が強まる中で、多分全くそういうことを意識せずに作られたリゾートが地球の反対側の大都会に想いを馳せるきっかけになるなら、それも悪くないと思った。

偽ロンドンならではのメリットもある。イギリスで時々受けるような差別を感じなかったことだ。
2024年のイギリス滞在中はほとんどがいい思い出だし、オックスフォードは本当にいい場所で出来たらずっと住み続けられないかとさえ思った。でも、ロンドンでは「中国人帰れ!」みたいに叫ばれたこともあったし、少なからず、アジア人を蔑視されたという話も聞いた。(まあ、長いこと帝国主義をやるとそうなるのだろうか。世界経済的にはイギリスもかなり落ちぶれた国になったが)。
ここでは目の前でいくらはしゃいで写真を撮っても、意地悪する人間もいない。平和でいいじゃないか。
マカオのBig Benは時計部分がデジタルサイネージで、時計だけでなく、時々映像も流れる。ある意味では本家よりもデジタル化対応は進んでいる。(本家は絶対にそんなこと気にしてないだろうが)。
パリやベネチアもそこに?
ちなみに、ロンドンの横にはパリとベネチアもある。(各施設は連絡通路でつながっている)。エッフェル塔は夜になるとギラギラ光る。ショッピングモールにあるベネチアの運河は改装中で、水が枯渇していた。
この先、マカオに類似の施設の建設計画があるかは知らないが、いつか、東武ワールドスクエアのように1ヶ所で世界を体験できる場所にならないか、密かに期待している。(英仏伊の次はどこだろう?「ドイツ村」か⁉︎)
