その鉢、落ちてきませんか 地震に備えるベランダと庭の安全点検
はじめに、7月28日に熊本県を中心として起きた地震で被害を受けられたみなさまに、心よりお見舞い申し上げます。まだ断水の続いている地域もあり、暑さのなかでの避難生活はどれほど大変かと思います。一日も早く落ち着いた日常が戻りますよう、お祈りしています。
そうした報道に触れて、ふと自分の家のベランダや庭を見上げた方も多いのではないでしょうか。私たちガーデナーは、家のまわりに人よりも多くの「物」を置いています。鉢、プランター、棚、支柱、トレリス。どれも普段はやさしい景色の一部ですが、大きく揺れたときにどうなるかを考えたことは、あまりないかもしれません。
今日は、花や実の話をお休みして、庭とベランダの安全点検の話をしたいと思います。難しい工事はいりません。多くはその日のうちに、15分ほどで終わる見直しばかりです。
鉢は、落ちれば凶器になります
まず、はっきり申し上げておきたいことがあります。植木鉢は、落下すればそれだけで人を傷つけるだけの重さがあるということです。
たとえば10号鉢、直径30センチほどの鉢を思い浮かべてください。用土がたっぷり入って水を含んだ状態なら、鉢と土を合わせて10キロ近くになることも珍しくありません。素焼きやテラコッタなら鉢そのものが重く、陶器なら割れて鋭い破片になります。これがベランダの手すりの外側から落ちれば、下を歩いている人にとっては上から10キロの塊が降ってくることと同じです。
ふだんの暮らしのなかでは、鉢が自分から動くことはありません。だからこそ私たちは油断してしまうのですが、震度5強を超えるような揺れになると、鉢は思いのほかあっさりと動きます。棚から滑り落ちる、手すりのフックが外れる、支柱ごと倒れる。そうなってからでは取り返しがつきません。
ベランダで見直したい3つの場所
集合住宅にお住まいの方は、まずベランダの3か所を見てください。
1つめは、手すりに掛けたプランターです。手すりの外側に掛けているなら、今日じゅうに内側へ移してください。外掛けは落下すれば真下の通行人を直撃しますし、そもそも多くのマンションでは管理規約で禁じられています。内側に掛ける場合も、フックが金具のツメだけで引っかかっているタイプは、横揺れで浮き上がって外れます。結束バンドで手すりに縛る、あるいは開口部が閉じるカラビナに替えるだけで、ぐっと外れにくくなります。
2つめは、棚やラックの上段です。園芸用のスチールラックは軽くて便利ですが、上に重い鉢をのせるほど重心が高くなり、倒れやすくなります。原則はひとつ、高いところほど軽く、低いところほど重く、です。上段には小さなポット苗や多肉植物を、下段には大鉢を。この入れ替えだけで、棚そのものの倒れにくさが変わります。可能なら、棚の背面を壁側の金具に結束バンドで留めておくとさらに安心です。
3つめは、ハンギングバスケットです。揺れたときの振り子の動きは想像以上に大きく、ハンガーの根元に繰り返し力がかかります。細いS字フックで吊っているものは、外れるか、金具が伸びます。麻ひもや古くなったチェーンも同じで、ここは点検というより交換の場所と考えてください。吊るす位置も、真下が人の通り道になっていないかを確かめておきましょう。
避難ハッチと隔て板の前に、鉢を置いていませんか
これは意外と知られていないのですが、大切な話です。
マンションのベランダは、じつは専有部分ではなく共用部分です。そして多くのベランダには、床にある避難ハッチと、隣戸との境にある隔て板が備わっています。隔て板は非常時に蹴破って隣へ逃げるためのもの、避難ハッチは下階へ降りるためのものです。
ここに鉢を置いてはいけません。管理規約でも消防法の考え方でも、避難経路をふさぐことは認められていません。それ以上に、いざというときに自分と隣の家の逃げ道をふさいでしまいます。「置いていないつもり」でも、蹴破ったときに板が倒れ込む範囲、ハッチのふたが開く範囲まで見ると、意外と鉢がかかっていることがあります。今日、一度しゃがんで確かめてみてください。
ちなみに、ベランダの床に直置きしている鉢が排水口をふさいでいないかも、同時に見ておくとよいでしょう。こちらは地震ではなくゲリラ豪雨のときに効いてきます。
庭では、倒れるものと割れるものを見る
地植えのお庭がある方は、見るところが少し変わります。ポイントは、倒れるものと割れるものです。
倒れるものの筆頭は、背の高い大鉢です。オリーブやシマトネリコ、ゴムの木のような樹形の高い鉢は、上が重く底が小さいという、いちばん倒れやすい形をしています。鉢の底に重しになるレンガや軽石ではない砂利を入れておく、複数の鉢をまとめて置いて互いに支え合わせる、レンガで囲って足元を固める。どれも数百円でできる工夫です。
支柱やトレリス、オベリスクも見てください。つるバラやクレマチスを誘引したトレリスは、壁に立てかけているだけということがよくあります。ここは麻ひもではなく、被覆針金や結束バンドで壁面のフックに2か所以上留めておきましょう。アサガオの行灯仕立てのような軽いものでも、倒れて足元に散らばれば、暗い中を避難するときの障害物になります。
割れるものは、テラコッタと駄温鉢、それから素焼き鉢です。割れた破片は驚くほど鋭く、しかも土にまぎれて見えにくくなります。玄関から門までの通り道、つまり避難するときに必ず通る動線の上には、割れる鉢を置かないと決めてしまうのがいちばん確実です。通路沿いにはプラスチック鉢やスリット鉢、布製のフェルトポットを使う。そう割り切るだけで危険はぐっと減ります。
そして、古いブロック塀の際に大きな植栽を植えている場合は、注意が必要です。根が張って塀を押している、塀に傾きやひび割れがある、鉄筋が入っていないように見える。そんな塀は、揺れたときに植物ごと外へ倒れます。これは園芸の範囲を超えますので、気になる場合は自治体の相談窓口へ。多くの市区町村にブロック塀の除却補助制度があります。
断水したとき、植物にどう水を回すか
ここからは、揺れたあとの話です。今回の地震でも断水が長引いていますが、水が止まったとき、庭を持つ人には特有の悩みが生まれます。
先に、いちばん大事なことを申し上げます。人が先、植物は後です。飲み水と生活用水を確保することが最優先で、植物はそのあとです。花は枯れてもまた育てられますが、それ以上に大切なものがあります。この順番だけは、どうか譲らないでください。
そのうえで、余力があるときのために知っておくとよいことを3つ。
1つめは、雨水タンクです。ふだんは水道代の節約と水やりのために置くものですが、断水のときは庭木や鉢の水として、また場合によっては生活用水としても心強い備えになります。200リットルの家庭用タンクなら、鉢植え中心の庭で1週間以上しのげる計算です。これから設置を考える方は、防災の意味も含めて検討する価値があります。
2つめは、風呂の残り湯です。ただし条件があります。入浴剤の入った湯は、硫黄成分や塩類、着色料が土に残るため向きません。石けんや皮脂の混じった湯も、鉢の小さな土の量では影響が出やすいものです。使うなら、入浴剤なしの湯を、地植えの株元にだけ。葉にはかけない。鉢植えには使わない。この線を守れば、非常時の一時しのぎとしては使えます。地震のあとは断水に備えて浴槽に水を張っておく、という備え方もあります。
3つめは、水がないときこそ蒸散を減らすという考え方です。思い切って切り戻して葉の数を減らす、鉢を日陰へ寄せて集める、鉢の表土をバークチップや腐葉土で覆って乾きを抑える。水をやることばかり考えるより、水を必要としない状態にしてしまうほうが、この局面では確実です。40度に迫る今年の暑さでは、日なたに置いたままでは、いくら水をやっても追いつきません。
揺れたあと、庭を見る順番
最後に、大きな揺れがあったあとの手順を簡単に。
安全が確認できてから、明るい時間に、靴を履いて庭やベランダへ出てください。裸足やサンダルは、割れた鉢の破片で足を切ります。見る順番は、まず頭より高いところ。ハンギング、棚の上段、壁のトレリス。次に、倒れかけている大鉢や支柱。最後に足元の破片です。落ちかけているものを先に落としてしまうのが、片づけ中のけがを防ぐこつです。
割れた鉢は、そのままごみ袋に入れると袋を突き破ります。厚紙で包むか、土ごと新聞紙にくるんでから捨ててください。処分の区分は自治体によって陶器ごみや不燃ごみと分かれますので、確認してからにしましょう。
そして、余震の可能性がある間は、いったん鉢を地面に降ろしておくという判断もあります。景色としては少し寂しくなりますが、揺れが落ち着くまでの数日のことです。植物は動けませんから、避難させてあげられるのは私たちだけなのですね。
まとめ
庭やベランダの防災は、園芸の話としてはあまり語られません。けれども、私たちは家のまわりに、人より多くの重い物、割れる物、高い場所にある物を置いている人たちです。だからこそ、点検する意味があるのだと思います。
手すりのプランターは内側へ。棚は上段を軽く。ハンギングのフックは交換。避難ハッチと隔て板の前は空ける。通路沿いは割れない鉢に。トレリスは2か所留め。今日できるのは、このくらいのことです。それでも、これだけで守れるものはずいぶん多いはずです。
花を育てることは、暮らしを豊かにしてくれます。その花が、いざというときに誰かを傷つけるものにならないように。週末にでも、いつもと違う目で庭を一周してみてはいかがでしょうか。
なお、断水や酷暑のなかで植物をどう保たせるかという話は、夏越しの技術そのものでもあります。水をやらずに乗り切る工夫や、鉢の置き場所の考え方をもっとくわしく知りたい方は、拙著「園芸植物と共に夏を生きる ガーデナーのための夏越しテクニック」ものぞいてみてください。Kindle Unlimitedなら追加料金なしでお読みいただけます。
