短編小説 あさになるまえに
カーテンから差し込む冷気で目が覚めた。
散らかった部屋着がふたつ、ずり落ちたシーツ、彼はまだ、夢の続きを見ている。
気づかれないように、そっとベッドから離れてみる。ソロソロと私のものだけを手探りで拾った。水滴に曇った窓の先を見たくなった。カーテンをやさしく押し分け、その間からガラスを人さし指で少しなぞる。
外にでてみたい……ひとりで。
簡単に着替えて、コートを羽織った。素足に冷えたブーツが痛い。でも少しだけ、誰も知らない夜明け前の散歩。音を殺しながら玄関を出た。
白い息、肩に力が入る。まだ薄暗い。ところどころでともる街灯、霧深いのが分かる。
スズメさえも鳴いていない、朝の前の静けさ、時折遠く響く車の音――新たな一日が始まろうとしていた。
いつもと同じ風景であるはずなのに、時間が違えばまるで別世界。見たこともない色や澄み切った外気を満喫しながら、ふと思った。
彼に温かいコーヒーを作ってあげよう。一緒に穏やかな朝を迎えよう。
今日という素敵な一日を始めるために。
そっと玄関の鍵を開けると、暖かい部屋と冷やされた頬の温度差に思わずおどろいた。朝の清々しい空気をまとってキッチンに入ったが、皿やグラスがそのままにシンクには油汚れの皿やフライパンが覗いていた。
昨夜からの夢は終わった。片付けてなかった……今、私はいつもの現実世界に戻ったのだ。
とりあえず昨日のコーヒーを捨てて、新しく豆をセットし、水を注ぐ。コポコポとかわいい音とともに、朝の香りが広がる。
寝室のドアを開け、彼を起こそうとした。毛布をめくって、彼の背中を覗いた時、ぐちゃぐちゃのキッチンも、淹れたてのコーヒーも、これから送る今日という一日も、静かに私を包んだ冷たい朝霧と重なって、白く消えてしまった。
私は子猫のように布団に入り込み、ただ彼の背中に頬を当ててみた。
