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僕の朝のお気に入りカフェ

ニューヨークの一角にあるレトロなカフェ。街の喧騒は大きな窓ひとつで遮られてコーヒーの香りにジャズが漂う。そう、朝からジャズ。それもまた、いかにもニューヨークらしい。

店に入ると女の子が窓辺のカウンターで外を見ていた。席がなくて彼女の隣へ座った。彼女のカップはコーヒーが乾いてスジになっていた。

日本人だろうか。流れるような黒髪。化粧はそんなにうまくない。旅行者にしては、この街の活気やカフェの高揚感を拒んでいる気がした。よく見ると大きなスーツケースが彼女の陰に隠れている。

僕は外の景色を見た。人は颯爽と足早に、車は他の横柄な運転に苛立っている。いつも通りの変わらぬ風景……と、僕は驚いた。窓ガラスの中の彼女がどことなく微笑みかけているのだ。思わず隣の彼女と反転した彼女を見くらべてしまった。そんなことがあるのだろうか。光と影の半透明の形は、いまにも雨が降りそうな外の風景に溶け込みながら、本当の彼女自身に励ましのようなまなざしを向けていた。


「Same as always, huh?」
ここのエッグ&ベーコンは朝のルーティン。

「And a refill for the lady.」
店員の声かけが彼女の閉ざした世界に穴を開けた。

「え、いや……あの……」


注がれた瞬間から、彼女のコーヒーだけが静かに冷たくなりはじめる。褐色の香りが彼女をとりまこうとするが、彼女はまた遠くを見つめるばかりだった。いや、彼女は遠くに目をやることしかできなかった。

やがて彼女は目線を落とすことなく手元を探りながらカップを両手で口へ運んだ。黒い瞳が潤む。雨が窓に激しく当たりはじめ、外界が白く不透明に塗られていった。店内にとどろく雷鳴は粋なスイングを壊していく。ガラスの世界の彼女も、降り注ぐしずくに消えてしまった。