どうしてうちの会社には、いい人材が残らないんだろう?
「どうしてうちの会社には、いい人材が残らないんだろう?」
経営者の方々が抱える悩みの一つに、こうした声があります。
売上を伸ばすために有能な人間を抜擢し、配置を変え、組織を活性化させようと采配を振るう。
それ自体は経営として正しい行動のはずです。
しかし、その「良かれと思って」の采配が、実は有能な社員を追い詰める引き金になっているとしたら、どうでしょうか。
今回は、二つの事例から、なぜ経営者の采配が裏目に出てしまうのか、その構造的な問題について掘り下げてみたいと思います。
一つ目は、小売業界での出来事です。
そこには、圧倒的な販売力を誇る男性社員がいました。
彼が店頭に立てば、次々と商品が売れていく。
会社はその実績を高く評価し、彼を「店長」に昇進させました。
会社の期待は明確でした。
彼自身の販売力を活かしつつ、店舗全体の売上を底上げするマネジメントを担ってほしい、というものです。
ところが、結果は真逆でした。
店長になったことで、彼はシフト作成や売上報告、会議資料の作成といった膨大な事務作業に追われるようになりました。
自身の持ち味であった「お客様との接客機会」が物理的に奪われてしまったのです。
彼は「販売のプロフェッショナル」として現場で輝き続けたいと願っていました。
しかし、会社は彼に「店舗マネージャー」としての役割を押し付けました。
この役割の不一致により、店舗全体の売上はダウンし、最終的に彼は「この役割は自分には合わない」と、会社を去る決断を下しました。
二つ目は、飲食業界での事例です。
ある店舗の支配人は、非常に戦略的な人物でした。
彼は売上向上のために緻密な施策を次々と打ち出し、実際に目に見える成果を上げ続けました。
お客様からの信頼も厚く、店舗の業績には大きく貢献していたのです。
しかし、社内での評価は正反対でした。
彼は少し陰気な印象を与える外見で、お世辞にも「愛想が良い」とは言えませんでした。
その性格や雰囲気が、経営者の好みに合いませんでした。
従業員たちは、彼のプロとしての振る舞いを認め、指示に従っていました。しかし、経営者の「なんとなく嫌い」という感情的な理由が、彼の上げた「売上増」という客観的な成果を上回ってしまったのです。
結果として、彼は正当な評価を得られないことに絶望し、退職していきました。
二つの事例は業界も状況も異なりますが、次の3つのことが共通して起きていました。
役割とスキルがミスマッチしていた
「売れる人」が「人を動かせる人」とは限りません。
店長の事例では、会社が「店長」というポストに何を求めているのか、その職務内容を具体的に言語化できていませんでした。
本人の意向を無視し、適性のない役割を「期待」という名目で押しつけたことが、離職の真因です。
客観的な評価基準が存在しなかった
支配人の事例では、評価が「成果」ではなく「経営者の感情」という属人的な基準に左右されていました。
何を達成すれば評価されるのかというルールが明文化されていないため、個人の好みがガバナンス(企業の統治体制)を壊してしまったのです。
「期待のズレ」を修正する対話がなかった
経営側は「売上を上げてほしい」と考え、現場は「自分の強みを活かしたい」と考える。
この両者の溝を埋めるためには、具体的な業務内容に基づいた合意形成が必要ですが、それが「感覚的な采配」で済まされていました。
その結果、双方の期待はすれ違ったまま、問題は放置され続けたのです。
最後に
経営者の立場から采配を振るうとき、つい「適材適所」という言葉を都合よく使ってしまいがちです。
しかし、その「適所」とは、本当に本人が力を発揮できる具体的な「職務」を指しているでしょうか。
有能な社員が去っていくとき、それは本人の根気の問題ではなく、組織が「役割の定義」という最低限の整備を怠ったことへのサインかもしれません。
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