ストーンズのリムジンと、75号線を駆けた夜 - 4万人の熱狂のあと、ミックたちは俺の前を走っていた
2005年8月31日、ついにその日がやってきた。
手に握っていたのは、ローリング・ストーンズ・オン・ステージ・コメリカ・パークのチケット。

ストーンズの来日は稀だし、チケットが取れるかどうかも運次第。
アメリカでは、ネットでぽちっとすればそれが叶う。
まるで夢のようだった。
グリークタウンの駐車場に車を停め、カジノを抜けてスタジアムへ向かう。
デトロイトのダウンタウンは治安が悪く普段は人踊りが少ないが、さすがにイベントの日は人通りも多く、まだ日も高い。
ひとりで歩いても危険はあまり感じなかった。
ただ、興奮しすぎたせいか、お腹が張ってくる。
呼吸が浅くなり、体調はどうも万全ではない。
会場に着いたときには、前座のマルーン5はすでに終わっていた。
惜しかったが、本命はこれからだ。ストーンズが出てくる。生で。現実に。
ストーンズと共に過ごした日
さすがに野球場でのコンサートだけあって、ステージは遠い。
それでも運よく、正面からの視界を確保できた。
兎にも角にも、ストーンズを“直に”見ることができるという、それだけで胸が高鳴る。
そして、会場が暗転。
「Start Me Up」のイントロと共に、あの伝説のバンドが登場する。
……うん、小さい。
そして、音が大きすぎて細かいところまでは聞き取れない。
それでも、間違いなく――ミック・ジャガーとキース・リチャーズが、いま、同じ空間にいる。
それを実感した瞬間、思わず息を飲んだ。
2曲目の「You Got Me Rocking」は比較的新しい曲だったが、リアルタイムで聴いていた自分には嬉しい選曲だった。
ステージは前半・後半に分かれていて、後半にかけて盛り上がりは最高潮に。
「Satisfaction」「Honky Tonk Women」「Sympathy for the Devil」「Jumpin' Jack Flash」――
これでもかというくらい、畳みかけてくる。
ただ、同時に自分の体調も限界に近づいていた。
ビールと汚物でまみれたトイレで用を足す勇気もなく、アンコールは諦めることに。
本編最後の「Brown Sugar」が終わったタイミングで、席を立った。
リムジンと並走した夜
コメリカ・パークの収容人数は約4万人。
その大多数は郊外から駆けつけたファンたちで、市外へ出る高速道路はすぐに渋滞でスタックしてしまう。
そんな中、自分はひと足先にグリークタウンへ戻り、車に乗り込んだ。
そして――75号線の下りに入ったその瞬間。
何かの偶然か、ちょうどアンコールが終わったと思われるストーンズのメンバーを乗せたリムジン数台が、目の前に現れた。
護衛らしき車を数台伴って、スタジアムから直接流れ出てくる。
デトロイト市内から、彼らが郊外のバーミンガムへと移動する様子を、ずっと後ろから見届けていた。
リムジンの中の様子は見えなかったが、まだスタジアムで渋滞にはまっている何万人ものファンを差し置いて、
自分ひとりが――
“コンサート終了後のストーンズ”に最も近い位置にいた。
そのささやかな優越感が、いつの間にか、お腹の不調さえ忘れさせてくれていた。
