皐月の残り香
日曜日のような時間だった。
「ずっと寝てた」
と言う私に
「寝れないよりいいよ」
と悠真は言った。
時計も見ず、今が何時なのかもわからないまま、ずっと眠っていた。
一瞬のような、長い静寂が広がる部屋にはもう、違和感はない。
午後の光が二人を包む。
春の肌寒さと、夏の蒸し暑さを庇うような5月の優しさが、不意に身動きを奪っていたようだった。
5月が切ないのではなく、優しさが苦しいわけでもない。
強いて言えば、6月の雨や空を覆う雲が、あるいは身体にへばりつく水滴にすらならない湿度が、心地良い昼寝を奪う。そのことで、爽快な呼吸を奪って、息が詰まりそうになるだけ。
ただそれだけなのに、世界中で43秒に1人が自殺しているという現実に、突如として巻き込まれそうになることが「嫌」なのだ。そして、それから逃れることを理由に誰かを愛そうとする自分が「嫌」なのだ。
悠真を大切にしたい。それだけを理由にしたいのに。
「何か作ろうか」
と言いながら、悠真が立ち上がる。
西陽が差し込む部屋は、まだ明るく切ない5月の色をしていた。いや、そう信じたいだけだろうか。
そのうち、雨音がして、私はいよいよ目を覚まし、ベッドから出ようと試みる。
雨が降るとベランダに雨宿りをしにくる地域ネコの純がこちらを覗いていることに気づき、買っておいたパウチを小皿に取り出す。
「僕がやるよ」と言って、ベランダに皿を置いた悠真と床にしゃがみ込み、純を見つめる。
5月はもう、随分前に終わっている。
「夏になる前に、緑のカーテンを作らない?」
と言う私に、悠真は頷き、純は「ニャー」と鳴いた。
大それた幸せはまだいらない。でも、この穏やかな時間がずっと続いて欲しいと願わずにはいられない。
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