東京都交響楽団 定期演奏会 指揮=ジョン・アダムズ 合唱=新国立劇場合唱団
東京都交響楽団 第1044回定期演奏会
2026年5月21日 19時開演 サントリーホール
指揮:ジョン・アダムズ (1947-)
管弦楽:東京都交響楽団
合唱:新国立劇場合唱団*
合唱指揮:冨平恭平*
コンサートマスター:水谷晃
プログラム
ジョン・アダムズ:ナイーヴ・アンド・センティメンタル・ミュージック (1999 日本初演)
チャールズ・アイヴズ:答えのない質問 (1908 初版 / 1930-1935頃 改訂版 / 今回の譜面は改訂版)
ジョン・アダムズ:ハルモニウム (1980-1981)*

ジョン・アダムズ (1947-) は、現代アメリカを代表する作曲家の一人です。アダムズは2024年1月に初来日し、アダムズ自身の指揮、東京都交響楽団の管弦楽で、代表作「ハルモニーレーレ」(1985) の演奏を日本の聴衆に披露しました。私は演奏を聴いて感激しました。大編成オーケストラによる、渦巻くように躍動する和声とリズムを全身に浴びて、夢見るような時間を過ごしました。再びこのような機会があれば聴き逃したくない、と思いました。そして、その機会がこの日のコンサートだったわけです。
しかし、結論から言えば、この日のコンサートは少々期待はずれでした。前半の「ナイーヴ・アンド・センティメンタル・ミュージック」の演奏はよかったのですが、休憩をはさんで後半の、チャールズ・アイヴズ (1874-1954) の「答えのない質問」と、それに続くメインプログラム、アダムズの「ハルモニウム」(アダムズが国際的に評価された最初の作品) の演奏は、管弦楽にも合唱にも (混声合唱は最大12声部に分割される動的な編成でした)、渦巻くように躍動する和声やリズムが感じられませんでした。「ハルモニウム」について言えば、2022年にノンサッチ・レコードからリリースされたボックス・セット『ジョン・アダムズ・コレクテッド・ワークス』に収録されている、アダムズ指揮・サンフランシスコ交響楽団・サンフランシスコ交響合唱団による「ハルモニウム」の演奏 (1997年 デービス・シンフォニーホールでの演奏) に感じられた和声とリズムの魅力は、この日、アダムズ指揮・東京都交響楽団・新国立劇場合唱団の演奏 (東京 サントリーホールでの演奏) に感じられませんでした。
オーケストラとは大人数の組織であり、組織がうまく機能して、魅力ある音を奏でるためには、多くの要素が有機的に絡み合う必要があります。今回はそれに大人数の合唱団が加わったのですから、さらに多くの要素が、より有機的に絡み合う必要がありました。しかし、この日のコンサートの後半、そうした条件が満たされて、魅力ある音が奏でられたとは思えませんでした。前回 2024年1月のコンサートは、ジョン・アダムズが初来日し、アダムズの指揮で、アダムズの代表曲「ハルモニーレーレ」を演奏するという、あらゆる意味で特別なコンサートでした。アダムズにも東京都交響楽団にも、特別な緊張と高揚があり、それが和声とリズムの魅力を生み出していたのかもしれません。それに対して、この日のコンサートの後半には、前回 2024年1月のコンサートのような、緊張と高揚がなかったように感じたのです。
一般的にアダムズの出世作とされる「ハルモニウム」は、アダムズ自身が〈私がミニマリズムに触れて生まれた語法による、最初の円熟した声明といえる作品である〉(『月刊都響』第421号 P16) と述べているように、言わばミニマリズムの影響を受けて結実した最初の完成作品です。最初の完成作品ですから、合唱の有無という作品の性格の違いはありますが、後年に書かれ、アダムズ自身も代表曲と自負している管弦楽曲「ハルモニーレーレ」を超える魅力はないだろうとも思います。もっとも私はメインプログラムに「ハルモニウム」を選んだことが問題だったと言いたいのではなく、メインプログラム「ハルモニウム」の前に、アイヴズの「答えのない質問」(演奏時間約6分間の小品) を演奏したことで、コンサート後半の焦点がぼやける結果を招いてしまったのではないかと言いたいのです。
ボックス・セット『ジョン・アダムズ・コレクテッド・ワークス』にもアイヴズの「答えのない質問」は収録されています。アダムズが指揮者として演奏に携わった他の作曲家の作品は、アダムズ作品とは別に、追加作品としてCD1枚にまとめられています。
John Adams Collected Works (Nonesuch Records)
DISC 8 American Elegies (Additional Works)
- Charles Ives: The Unanswered Question
- Charles Ives: Five Songs
- Ingram Marshall: Fog Tropes
- Morton Feldman: Madame Press Died Last Week at Ninety
- David Diamond: Elegy in Memory of Maurice Ravel
「答えのない質問」はボックス・セットでも追加作品という扱いなので、コンサートでもそれ以上の意味はないはずです。コンサート後半の1曲目に演奏する必然性があったのか疑問です。
約6分間の「答えのない質問」の演奏が終わった後、ステージ後方のP席に配置したバンダ (と譜面台) の撤収、そして合唱団の入場に時間がかかり、コンサート後半は最初から勢いを削がれてしまいました。「答えのない質問」を演奏せず、コンサート後半、合唱団は最初からP席の配置に着いていれば、問題はなかったでしょう。それならばコンサート後半の「ハルモニウム」は勢いを削がれず、違った印象を観客に与えたかもしれません。これはステージ・マネージメントと合唱団入場時のディレクション (演出) というテクニカルな問題ですが、それによって、実際は響いていた「ハルモニウム」の魅力的な音が、響いていなかったように、誤った印象を観客に与えてしまったのなら (私にはそのように聴こえました)、コンサート自体の価値に関わる深刻な問題ではないでしょうか。
とはいえ、私は一昨年 2024年1月の「ハルモニーレーレ」に続いて、今回の「ハルモニウム」も、アダムズ自身の指揮・東京都交響楽団の演奏・東京 サントリーホールで聴くことができ、このコンサートを聴いたこと自体はよかったと思っています。東京都交響楽団には、今後もこうした演奏機会の少ない現代作品を積極的に取り上げてほしいと思います。

参考:2024年1月18-19日のコンサート
東京都交響楽団 第992回定期演奏会
2024年1月18日 サントリーホール
東京都交響楽団 第993回定期演奏会
2024年1月19日 東京文化会館
指揮:ジョン・アダムズ (1947-)
弦楽四重奏:エスメ弦楽四重奏団*
コンサートマスター:水谷晃
J.アダムズ:アイ・スティル・ダンス(2019 日本初演)
J.アダムズ:アブソリュート・ジェスト (2013)*
J.アダムズ:ハルモニーレーレ (1985)

