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【ショートショート】片思い文芸部アイデア

 「ああ、どうしよう一目惚れしちゃた」

 放課後の日差しが差し組む教室で、椅子に腰かけ項垂れている友達が突然言いだした。いや、これは黄昏ているという表現の方が正しいのか。

 友達は「運動会の紅組団長の凛々しさに惚れた」というが、あの場に居れば、みんなそうだと思う。あの3年団長の勇姿に惚れない者は、このクラスにはいないのではないか。

 なぜなら、このクラスは全員紅組だったのだから。さらに1年生の私たちはその応援を最前列で見ていたのだ。風になびく長く赤いタスキと長ランの黒い古風な学生服。我が高校の伝統のバンカラ応援スタイルは他高校の生徒も物見遊山で来るほどの超絶人気ぶりなのだ。

 かく言う私もカッコイイと思った一人だった。

 1週間後、クラスに紅組団長のファンクラブが出来ていた。

 「抜け駆けはなしね」、とクラスの女子は全員言っていて・・・、『どうしようか』と私は頭を抱えている。

 2週間後には、そのファンクラブに他のクラスの女子たちも入り始め、一カ月後には学校では白組団長と人気を二分するくらいの話題になっていた。

 さらに3か月後、学校では先生を含め、その団長を知らない人はどこにもいなくなっていた。

 私は、真剣に困っていた。『これからどうしたらいいんだろう』と。

「ただいま。」

 家に帰ると玄関から入ってすぐのリビングに兄が見えた。

 兄は整えてもいないモサモサ頭でソファーに寝そべり、萌え系アニメを見ている。
 こんなキモオタの暑苦しい兄ではなく、一般的な爽やかな兄が欲しかったのに。

 兄は「よう、お帰り」と言いながら、私に向かってブーと大きい音を立ておならをする。それは部屋の芳香剤と混ざり合い、今は独特の匂いを醸し出していた。

「兄ちゃん、やめてよ。紅組団長はそんなことしないよ。」
「おならは誰でもするもんだろ。団長だってするかもしれないだろ。」
「紅組団長は絶対にそんなことしない。」
「そんな奴現実にいるわけないだろ。」
「いたんだもん。学校に。」
 そう言う私は、息を止めて洗面台からドライヤーとヘアーブラシを持て来る。その様子を兄はソファーから心配そうに見ていた。
「おまえ、とうとう馬鹿になったのか。寝言は寝てから言え。」

「だって、」
 私は我慢できなくて、兄に、学校で撮った団長の隠し撮り写真画像を見せた。
「ほらカッコいいでしょ。」
「お前マジでキモいよ。」 
「ひどい、動画だってあるんだから。」
私はムカついてスマホを操作し、動画を再生した。
すると、「やめろ。」と兄は心底気持ち悪るそうに私を見て、スマホを奪い取り画面を消去しようとした。が、私は慌てて間髪入れずスマホを取り返しすことに成功した。

「良かった、まだ消去していない。友達に送る約束をしていたんだ。」

 ピロン

友達からラインが来た。

「兄ちゃん、どうしよう。友達がうちに来たいって言ってる。」

 困ったことになった。なんでもクラスメート(親衛隊まで出来たらしい)が団長を私の家の近くで見たと言うのだ。しかも、家の近くまで一緒に来ているらしい。私はもう半狂乱だ。

「もう、兄ちゃん、その恰好どうにかしないと。もうすぐ友達が来ちゃうじゃない。」

「どうして?」 

 ああ、もう、何を隠そう、今、私の隣で呑気にお尻を掻いている兄こそがその紅組団長なのである。

 「団長がそんなダサい恰好しているわけないじゃない。」

 だからこそ、ドライヤーとヘアーブラシ・・・

 うちのリビングの大きな出窓からは玄関が見える。その玄関先に、ちらっと友達が見えた。

「うわっ、間に合わない・・・」
 
 その友達は兄のことをまだ知らない筈である。こんな奴は、憧れの団長ではない。何とか他人のフリ出来ないかな。どうしよう・・・

「兄ちゃん、何か良いアイデアない?」




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