【息子19話】やりきった、その顔がすべてだった


通信高校では、大学の推薦入試を勧めていただきました。

息子にとっては、初めての大学受験です。

受験会場は東京。

前日に泊まることも考えましたが、いつもの環境から向かったほうが落ち着けるだろうと判断し、当日の朝に出発することにしました。

電車で東京へ向かう。

以前の息子を思えば、それだけでも大きな挑戦でした。

主人が付き添ってくれることになりましたが、一番緊張していたのは、家で見送る私だったと思います。

無事に電車に乗れるだろうか。

人混みは大丈夫だろうか。

面接では、自分の思いを話せるだろうか。

心配ばかりが頭をよぎりました。

でも、後から主人に聞くと、息子は意外なほど落ち着いていたそうです。

通信高校へ通うために電車に乗る経験を重ね、自分なりの過ごし方を見つけていました。

イヤホンをつけ、自分のペースを保ちながら東京へ向かっていたと聞き、私は驚きました。

見えないところで、息子は確実に力をつけていたのです。

この日のために、通信高校では一つのテーマについて意見を伝え合う授業にも積極的に参加していました。

面接練習も、何人もの先生にお願いし、ときには自分から声をかけて練習を重ねていたそうです。

以前は人と関わることさえ苦しかった息子が、自分から先生にお願いしている。

その話を聞いたときも、私は胸がいっぱいになりました。

試験を終えて帰ってきた息子の表情は、とても穏やかでした。

「やりきった。」

そんな顔をしていました。

主人と大学の近くにあった大きな公園を歩き、「いいところだったよ」と話してくれた二人の姿が、とても印象に残っています。

その一日は、結果以上に大きな意味を持つ一日でした。

結果は、不合格。

もちろん残念でした。

でも、不思議なくらい、家族みんなが前を向いていました。

落ちたことよりも、

電車で東京まで行けたこと。

自分の言葉で面接に挑めたこと。

最後まで受け切ったこと。

その積み重ねのほうが、ずっと大きかったからです。

息子は、受験を通して大きく成長しました。

振り返ると、通信高校で過ごした時間も、
電車に乗る練習も、
授業で意見を伝えた経験も、
先生方との面接練習も、
すべてがこの日のためにつながっていたように思います。

どれ一つ、無駄な経験はありませんでした。

通信高校からは、別の推薦入試のお話もいただきました。

でも、家族で話し合い、この推薦でご縁がなければ、次は一般受験で挑戦しようと決めていました。

こうして息子は、次の目標へ向かって歩き始めます。

あの日、手に入れたのは合格ではありませんでした。

けれど、自分を信じて前へ進む力は、確かに手にしていたのだと思います。


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