Tech Leaders' English #0001|Come full circle——長い回り道を経て、また原点に立つ
この連載「Tech Leaders' English(TLE)」は、海外スタートアップの創業者や経営層への英語インタビューから生まれたビジネス英語フレーズをお届けする連載です。フレーズを通じて、テックリーダーたちのマインドセットも一緒に持ち帰ってもらえればと思っています。
届けるのは、教科書には載っていない、現場で実際に使われた英語です。
たとえば、医療からエネルギー、ロボット、環境センシングと、一見バラバラなキャリアを歩んできたある創業者は、自分の半生を振り返ってこう言いました。
"That's kind of how it came full circle to now be working in this industry."
どういう意味なのか、なぜこの一言を連載のタイトルに置いたのか。それを話す前に、30年近く前の、ボストンのある会場から始めさせてください。
1997年、ボストン
今から約30年前のことです。
当時、Mac雑誌の編集者だった僕は、アメリカ・ボストンで開催されたMacWorld Expoに取材に行きました。アップルから追い出されていたスティーブ・ジョブズが復帰し、マイクロソフトのビル・ゲイツがスクリーンに映し出されたあの日です。
会場は熱狂していました。ただ、Windows 95ブームからコンピューターの世界に入った僕にとって、ジョブズはまだ「よくわからないけどすごい人」でした。周りが神様かロックスターのように崇めているのに、その熱量の意味が理解できなかった。しかし、クライマックスで、Macユーザーが忌み嫌っていたゲイツが大画面に登場したときには、素直に「ジョブズが呼んだのか。すげえな」と震えた記憶があります。
帰国して「英語、本腰入れないとな」と思い、TOEICの参考書を買い、受験しました。結果は460点。惨敗です。本を読んで覚えるスタイルが全く合わなかった。それっきり英語を必然とされることもなく、学習意欲は低下していき、長いこと棚上げされました。
テック・英語・編集・記者の輪
ここで少し、自分のキャリアを振り返ります。
工業高専の電気科出身です。理系はさっぱりダメでしたが、英語だけはなぜかダントツでした(まわりの英語レベルが低かっただけかもしれませんが)。上京して就職情報誌の会社に入り、編集部で雑誌づくりを一から学びました。その後、Windows 95に引き寄せられてパソコン雑誌の出版社に転職してMac雑誌の編集者になり、インターネットブームでWeb制作の世界へ。iモードのコンテンツディレクターを経て、2005年に編集プロダクション・アンジーを創業し、企業ブログ構築と記事制作を軸に仕事を積み重ねてきました。
テック・英語・編集・記者とがつながる輪を、ずっとぐるぐると回ってきた感じです。
仕事を奪った男が、扉を開けた
まわりながら、別の場所にいき、また戻ってくる。
その輪のなかでも大きな揺らぎが来たのが2007年。iPhoneの登場です。
当時、我が社の主力だったFlashを使ったサイト制作が、じわじわと、そして一気に消えていきました。あのジョブズが動かした波です。MacWorldでレポートしたあの人物が、10年以上たって自分の仕事をリセットしたのです。
ところが、同じiPhoneが、今度は別の扉を開けてくれました。
2018年、子どもが外国語大学を目指すと言い出して、「じゃあ自分もやるか」と再びTOEIC学習を始めました。今度はAIをつかったスマホの英語アプリです。問題を解くとすぐに予測スコアが返ってくる。800点くらいすぐ取れるだろうと高をくくっていたら、なかなか伸びない。でも結果がすぐ返ってくるから、何度もトライしてしまう。
フィードバックループが高速で回り始めました。ソフトウェアスタートアップの人たちが口をそろえて語っていた「高速イテレーション」の感覚です。失敗して、すぐ修正して、また試す。2019年にスコア850を超え、2020年には905点に到達しました。本だけの学習がダメだったのではなく、自分には合っていなかっただけでした。
iPhoneに仕事を奪われたおっさんが、iPhoneのおかげで英語を武器にした。1997年に意味もわからず眺めていたジョブズの姿が、巡り巡ってここで別の意味を持って戻ってきたのです。
取材メモに、繰り返し現れるフレーズ
2021年から、海外スタートアップの創業者や経営層への英語インタビューを担当するようになりました。年間おおよそ50人ペースで5年、250件を超えました。インタビューのなかで「これはいいな」と思ったフレーズをメモしてきたのが、このTLEの出発点です。
創業者の経歴やバックグラウンドを掘り下げていくとき、あるいは起業に至るまでの経緯を聞かせてもらうとき——そんな場面で繰り返し出てきたのが「come full circle」でした。
このシリーズは、そのメモを、生成AIのClaudeと壁打ちしながら形にしています。Claudeがインタビューアーになり、私の当時の記憶を呼び起こし、体験談を織り交ぜた英語解説として仕上げているのです。1969年生まれ、2029年に還暦を迎えるサイボーグジジイなりの、AI活用法です。
創業者たちが語った「come full circle」の文脈は、それぞれ違いました。長年いた業界の「反対側」に事業を起こしたら、その経験こそが強みになっていた。若い頃に難しすぎると諦めた領域に、別の武器を持って戻ってきた。同じ技術課題を、時代が変わって違うアーキテクチャで解く羽目になった。海外で暮らして初めて気づいた自分自身の問題が、プロダクトの原点になった——。
文脈はそれぞれ違っても、「一周して戻ってきたとき、自分が成長していた」という手触りは共通していました。
come full circle|長い回り道を経て、また原点に立つ
意味:紆余曲折を経て、気づけば出発点に戻っていた
あるスタートアップの創業者に、キャリアの経緯を聞いたときのことです。エンジニア出身で、医療系の研究から始まり、再生可能エネルギー、ロボット開発、環境センシングと転々としてきた。一見バラバラに見えるキャリアを振り返りながら、彼はこう言いました。
That's kind of how it came full circle to now be working in this industry.
(そういう経緯で、今こうしてこの業界に辿り着いた、という感じです)
もともとその業界の出身ではありません。点と点が、想定外の場所でつながった瞬間の言葉です。
ビジネスの場で自分のキャリアや会社の歩みを語るとき、"come full circle"は「長い回り道の先で、すべてが繋がった」というニュアンスを一言で伝えられる表現です。
Looking back, my career has come full circle.
(振り返ると、キャリアが一周したように感じます)
We started in consumer, struggled for years, and now our enterprise product has come full circle back to helping individual users.
(コンシューマー向けから始まり、長い苦労を経て、エンタープライズ製品が結局また個人ユーザーを助けることに戻ってきました)
自己紹介やピッチの場面で、一見無関係に見えるキャリアの点と点をつなぐときに使うと、話に深みが出ます。
あなたの輪を、回し続けてほしい
「come full circle」をこの連載の根底に置いたのは、自分自身がその言葉通りのキャリアを歩んできたからです。
テック・英語・編集・記者の輪を、何十年もぐるぐると回ってきた。一見同じ場所を回っているように見えて、一周するたびに少し高いところに出ている。螺旋階段のような感覚です。
誰にでも、好きなこと・得意なことの輪があると思っています。その輪の中でかぶりついていれば、気がついたら一周して元の場所に戻ってきます。でもそのとき、見える世界が変わっていることに気づくはずです。
TLEは、そういう人たちのための連載です。今回は、プロローグ的に1つのフレーズにフォーカスして連載コンセプトを説明しましたが、次回からは、3つのフレーズに、取材時に感じたテックリーダーたちのふるまいのエピソードを重ねてお届けします。
私は編集記者なので、英語の専門家ではありません。発音も完璧ではないし、文法を細かく解説できるわけでもない。ただ、ビジネスの現場でテックリーダーたちが実際に使った言葉を、インタビューした人間として伝えることはできます。現場で機能する「使える英語」に興味がある方にこそ届いてほしい連載です。
英語フレーズを覚えてビジネスに活かしてもいい。テックリーダーたちのマインドセットを自分の仕事に引き寄せて考えてもいい。あなたの輪を回す燃料に、少しでもなれれば嬉しいです。
筆者:森 英信(テック・ビジネス系編集記者 / 自称サイボーグジジイ・Cyborg Geezer)。1969年生まれ(2029年に還暦)。49歳でTOEIC学習を開始し、51歳でスコア900超。以来5年間で250人以上の海外ビジネスパーソンに英語でインタビュー。「Tech Leaders' English」シリーズでは、インタビューの現場で出会った実践フレーズと起業家・経営者の思考を紹介しています。
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