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【地方メディアのリアル】FM群馬の5期連続赤字から読み解く、ラジオ業界のインフラ危機と「生存戦略」

群馬は、完全な車社会だ。
子供の頃は母親が運転する車の中で、そして大人になってからは自分がハンドルを握りながら、日常のBGMとしていつも「エフエム群馬」が流れていた。

しかし、ふと気づけば、最近はめっきりラジオを聴かなくなっている。車に乗ればスマホを繋ぎ、ポッドキャストやYouTubeを流すのが当たり前の日常だ。

そんな折、ちょっと気になるニュースを目にした。「株式会社エフエム群馬、5期連続の最終赤字」という決算発表だ。いちリスナーとしての寂しさから直近の決算を覗き込んでみたところ、そこには一地方局の経営不振という枠を超えた、**メディア産業全体の「構造的限界」と、そこから抜け出すための「鮮やかな生存戦略」**が見えてきた。

ラジオは本当に“終わったメディア”なのか?
赤字続きの地方ラジオ局に、未来はあるのか?
この記事では、FM群馬の決算を入口に、ラジオ業界のリアルと、そこから見える“次の時代のメディアの姿”を考えてみたい。


第1章:数字が突きつける「5期連続赤字」の現実と重すぎる固定費

まずは、報道されているエフエム群馬の直近2期分の決算を見てみよう。

  • 2025年3月期:売上高 8億6442万円 / 純損失 2229万円

  • 2026年3月期:売上高 8億8643万円 / 純損失 2663万円(赤字幅拡大)

2026年3月期は「開局40周年記念イベント」の効果で売上高こそ微増したものの、最終的な赤字幅はむしろ拡大している。要因として指摘されているのは、**「広告収入の減少」と、2022年に建設した新社屋の「減価償却費」**だ。

ここで少しだけ専門用語を補足すると、「減価償却費」とは、新社屋のような高額な設備投資を、数年〜数十年にわたって費用として計上していく会計上の仕組みのこと。つまり、“未来への投資”が、毎期の「固定費」として利益を重く圧迫する構造になっている。

イベント特需という一過性の売上では、この恒常的な出血を止めきれない。ビジネスの現場に立つ人間であれば、この固定費の重圧と、事業環境の変化スピードが合わなくなった時の恐ろしさは、痛いほどわかるだろう。


第2章:AMラジオの「インフラ放棄」という絶望的な決断

しかし、これはFM局だけの話ではない。実は今、AMラジオ局はさらに絶望的な決断を下している。

老朽化した巨大な送信所の建て替えには、数億〜数十億円のコストがかかる。広告収入が減り続ける中、どの局もこのインフラ投資を回収する見込みが立たない。結果として、全国の民間AM局は2028年秋をめどに**「AM電波そのものを捨ててFM(ワイドFM)へ逃げる」**という歴史的停波に向けて動いているのだ。

ここでいう「ワイドFM」とは、AM局がFM波でも同時放送する仕組みのこと。AMの巨大な送信インフラの維持を断念し、FMへと事業基盤を移行する、いわば**“事業の再設計”**を迫られている状況だ。

維持できないインフラを手放すAMと、新調した設備の減価償却に苦しむFM。根底にあるのは「稼ぐ力の低下」と「インフラ維持費の重圧」という共通の病である。


第3章:完全に一致する「映像」と「音声」の地殻変動

なぜ、ここまでラジオは稼ぐ力を失ったのか。
今、音声メディア業界で起きていることは、かつて**「テレビ局 vs YouTube」で起きた地殻変動の完全な相似形**なのだ。

ラジオの生放送から、いつでも倍速で聴けるポッドキャストへ、リスナーの可処分時間は移動している。巨大な放送設備を持たなければならないラジオに対し、マイク1本で始められるポッドキャストは、巨大な送信所を必要としない分、インフラコストが劇的に低い。この「持たざる経営の強さ」が、レガシーメディアを圧倒している。

さらにマネタイズ構造の違いがトドメを刺す。大まかな聴取率に頼るラジオ広告に対し、ポッドキャストはリスナーの属性に合わせて最適な広告を自動挿入する。広告主が、“効果の見えにくい巨大インフラ”から、“データで可視化されたデジタル音声”へ予算を移すのは、経済の必然だ。

かつてテレビ局がYouTubeに奪われた視聴時間と広告予算が、今度は**“音声メディア”の世界で、ラジオとポッドキャストの間で再現されている**。これが、今のラジオ業界が直面している構造的な地殻変動だ。


第4章:絶望の中にある希望。地方ラジオの「2つの成功モデル」

業界全体が沈みゆく泥船に見えるかもしれないが、この厳しい環境下でもビジネスモデルを転換し、存在感を放っている地方局の「成功例」が存在する。

①「オシャレさ」を捨て「超・地元密着」で勝つ:FM NACK5(埼玉)

群馬と同じく車社会の埼玉で圧倒的な強さを誇るNACK5。彼らは東京のキー局のような「スタイリッシュさ」を潔く捨て、徹底的に**「地元ドライバー向けの泥臭いトークと交通情報」**に振り切った。ポッドキャストにはできないリアルタイムな情報と人間臭さで、地元リスナーとスポンサーをがっちりと掴んでいる。

② ラジオを「巨大イベントの集客装置」へ転換する:LuckyFM(茨城)

かつて赤字だった古いAM局が「LuckyFM」へとリブランディングし、自社主催の巨大音楽フェス「LuckyFes」を立ち上げた。ラジオの電波を**「イベントの強力な集客ツール」**と再定義した結果、2025年3月期の売上高は約16.4億円と過去最高益を叩き出している。イベントを「一過性の売上」から「本業」へと完全に昇華させたのだ。

この2つのモデルは、「電波を飛ばすだけのメディア」から、「地域と共に生きるメディア」への転換を示している。


第5章:ただ沈むのを待っているわけではない。エフエム群馬の「次の一手」

では、我らがエフエム群馬はただ時代に取り残されているだけなのだろうか?
見方を変えれば、彼らもまた、上記の成功例のような**「次の一手」を泥臭く打っている最中**だということがわかる。

赤字の要因とされた「2022年の新社屋」は、1階にガラス張りの公開スタジオを設け、現在前橋市で熱を帯びている**「民間主導の中心市街地活性化(まちづくり)」**の動きと完全に連動している。これは、自らを“電波を飛ばすハコ”から“街のコミュニティハブ”へと再定義する戦略だ。

また、朝の人気番組のスポンサーには、全国チェーンではなく、地元のクリーニング組合、街の板金工場、焼肉屋などがズラリと並ぶ。これは、NACK5にも通じる**「超・地元密着」による共創ビジネスへのシフト**だ。40年にわたって蓄積してきた“地元の信頼”を、スポンサーとリスナーの間に橋を架ける形で活かしている。

さらに、40周年イベントで高崎の地元プロレス団体を呼ぶなど、LuckyFMのような**「リアルな熱狂空間の創出」**も模索し始めている。これは、自社IPを軸にした新しいファンビジネスへの布石とも言える。


結び:地方メディアの生存戦略と未来

エフエム群馬の赤字は、単なる地方企業の苦戦ではない。「巨大なインフラを持ち、広く浅く大衆に届ける」という、20世紀型のビ businessモデルそのものの寿命を示している。

全国どこでもポッドキャストが聴ける時代に、中途半端な全国向けコンテンツは必要ない。求められるのは、群馬というローカルコミュニティへの圧倒的な密着であり、自社IPを軸にした新しいファンビジネスへの転換だろう。

世界のメディア構造がどれほど激変しようとも、地元に根付いた「声の力」は必ず存在する。車社会・群馬のインフラとして、そして子供の頃から慣れ親しんだ思い出のメディアとして、もがきながらも変革期に挑むエフエム群馬の戦いを、いち県民としてこれからも見守っていきたい。

もしあなたの地元にも、こんな“変わろうとしているメディア”があるなら、一度、その声に耳を傾けてみてください。
スマホで音楽を流す前に、たまには“地元の電波”を選んでみる。それも、未来のメディアを支える小さな一歩かもしれません。

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