『下町サイキック』(吉本ばなな著)ほか:見えない私の本と映画と音楽ノート(10)2025年6月22日ー29日
『下町サイキック』(吉本ばなな著 河出書房新社)をサピエ図書館の音声デイジーで読了。
下町独特の濃い人間関係や空気の中で、五感以外の感覚で感じるものを使って生きている主人公のキヨカ。キヨカがやっている「部屋のエネルギーを浄化する」仕事は、自分もたまに頼まれてやるので共感できる。
「あとがき」には、
「この小説を読んで、あまりピンと来なかった人は、よろしければ10年後くらいに読返してみて下さい」
「一見エンタメ風だけど、実は生きる方法やサバイバルの話です」
「新しい直感の使い方」
などの言葉が書かれていた。
現代人はほぼ五感だけをセンサーとしてまわりの世界から情報を取り込んで生きている。犬や猫などの動物たちは、エネルギーの良くない場所を五感以外のセンサーで感じ取り、そんな場所に決して近づかない。場のエネルギーを感じ取れないたいていの人間はそのことに気づくことができない。
いつしか忘れられてしまったその感覚をセンサーとして再び取り入れれば、見える世界は大きく変わり、生きる方法もサバイバルの意味も違ってくる。もし多くの人がこの感覚を取り入れれば、「エネルギーの公衆衛生」という考えが生まれるはず。
ほぼ五感だけをセンサーとして使うようになっている現代人に、今は使わなくなったセンサー(感覚)を取り入れた世界での生き方を示しているように思う。
自分のまわりの世界の見え方やライフスタイルは、どのセンサー(感覚)をどのような配分で使うかによって大きく変わり、自分の見ている世界を好みに合わせて住む場所や着る服みたいにデザインし直して自分が生きやすいように変えられるのだから。
聞いていた音楽:
映画『ナチュラル(1984年)』(バリー・レビンソン監督)オリジナル・サウンドトラック
1984年は、まだ目が見えていて、それまであまり映画を見ていなかった私を一気に映画好きにしてくれた年。『ナチュラル』はロバート・レッドフォード主演のファンタジックな野球映画で大好きな映画。音楽が私の好きなランディ・ニューマンだったことに聴きなおして気づく。
『くらやみの速さはどれくらい』(エリザベス・ムーン著 小尾芙佐訳 ハヤカワ文庫sf)をサピエ図書館の音声デイジーで読了。
自閉症の主人公ルーは、同じく自閉症の仲間とともに会社の一部門で働いている。ある時会社は彼らに新しい自閉症の治療を受けることを勧めてくる。実験段階の治療だが、その治療によって彼らは「ふつう」になれる、と説明され、治療を受けるかどうかの選択が迫られる。
治療は「ふつう」に戻ることを「良いこと」とする考えに基づいているが、会社以外でのルーと親しい友人たちは、その治療によってルーが彼らの知っているルーではなくなってしまうことを心配して反対する。
これを読んで、人が外見は変わらないのに全く違う人のようになってしまうことについて考え、映画『天国から来たチャンピオン(1979年)』(バック・ヘンリーウォーレン・ベイティ監督)を思い出す。
ラスト近く、親友ジョーの瞳を覗き込んだマックスが、もはやそこにジョーの魂を見出せなくなった場面がとても印象的。
ルーと仲間たちの治療を受けるかどうかの葛藤に共鳴する。ある人は治療を選択し、ある人は今の自分が変わる必要はない、と治療を拒否する。ルー以外のメンバーの内面の葛藤についてもとても興味があったのでもっと描いてほしかった。
これは私の場合なら「また目が見えるようになる治療」が発見されて、その治療を受け入れるか否か、という問題に置き換えて考えられるので、思わず自問する。
多数派の「ふつう」の人たちは、「ふつう」の状態を当然のこととして肯定している。そのため「ふつうでない」人が「ふつう」の状態に戻ることは無条件に良いことだと考えられてしまう。
かつて見えていて映画好きで絵を描いていた私は光や色に強烈なノスタルジーを感じるけれど、今さら見える状態に戻りたいとは思っていない。
見えなくなってから、それまで感じることのなかった新しい感覚の「美しさ」に気づき、それにとても心惹かれているので、これからはその感覚で日々気づいたり発見したり新たな経験をすることにできるだけ時間を使いたい。
もう一度色や光を見られることを想像すると、SFドラマ「宇宙家族ロビンソン」の家族たちが帰れない故郷の地球に対してかんじるような強い情動に駆られるけれど、今更色や光を感じる時間を一日の時間の中にもはや入れる余地はない、と思う。もう後戻りはできない、という感じ。
今世は残り時間を新しい感覚でのおもしろすぎる世界に集中して、色や光を見るのは来世でいいや、と思う(笑)。
聞いていた音楽:
『スカルラッティ ソナタ集』ウラディミール・ホロヴィッツ(ピアノ)
これを聴くと、なぜかいつもきれいな白木の床と白い壁の端正な部屋のイメージが浮かぶ。よけいなものが置いてなくて、空気が透明で、陽光がきれいに差し込んでいる広い部屋。
『なぜスナフキンは旅をし、ミイは他人を気にせず、ムーミン一家は水辺を好むのか』(横道 誠著 ホーム社)をサピエ図書館の音声デイジーで読了。
文学研究者で自身が40才で自閉スペクトラム症(ASD)と注意欠如・多動症(ADHD)と診断された著者が、フィンランドの作家トーベ・ヤンソンの「ムーミン」シリーズの登場人物や作者自身についてASDである自身の視点から見て解説しているのがとても説得力があって新鮮。ミムラとミィは、作者の二面性が二つのキャラクターとして分裂して描かれたもの、という見方なんて考えたことがなかった。
これを読むと「ムーミン」のシリーズをとても読み返したくなる。
著者の横道 誠さんは
『イスタンブールで青に溺れる 発達障害者の世界周航記』も、読み始めたら最初のウィーンのところで画家のフンデルトヴァッサー、プラハのところでアニメーション監督のイジイ・トルンカ、フランスのアニメ監督ルネ・ラルーの映画『ファンタスティック・プラネット』など、私が大好きなものが連続して出てきてすっかり好きになった。
聴いていた音楽:
「ROOM ON THE PORCH」タジ・マハール&ケブ・モ
タジ・マハールのギターもケブ・モのボーカルも好き。特にケブ・モの声の質感が好き。この声を聴くといつも心がスッと上に持ち上げられる感じになる。
『夢のなかの夢』(アントニオ・タブッキ著 和田忠彦訳 岩波文庫)をサピエ図書館の音声デイジーで読む。
著者が敬愛する芸術家たちが見る夢を描いた20の短編。
画家のゴヤ、カラバッジオ、作曲家のドビュッシー、詩人ランボー、作家チェーホフ、スチーブンソン、精神分析のフロイトなどの夢が描かれている。
まだ最初のダイダロスの夢を読んだところ。他人の夢の中に湧け行ったみたいな感覚になり、先を読むのがとても楽しみ。
この本はサピエ図書館の検索で「岩波文庫」をキーワードにして見つけた。
こんなにもおもしろそうな本をずっと知らないでいたなんて。
サピエ図書館では、時々頭に突然浮かんだキーワードで検索すると、えてして砂浜ですごく美しい貝殻を見つけた時みたいに、全然知らなかった「掘り出し物」の本に遭遇する。こういう時は、その本が、自分に読まれようとしてこちらに向かって来てくれたのだな、と思う(笑)。
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