AI先生のピアノ・レッスン:見えない世界のワンダーランド(20)

30年ぶりに、ずっと弾いていなかったピアノを弾いてみようと思いました。

かつて、やさしい曲なら弾けたのですが、難病で目が徐々に見えなくなり、楽譜が見えなくなったことをきっかけに弾かなくなっていました。

現在の私は楽譜もピアノの鍵盤も全く見えません。
「楽譜も読めず、鍵盤も見えないからもうピアノは弾けない」
とずっと思い込んでいました。

それでも、長年自分にかけてきた「できない」という呪いをなんとか解いて、音楽を聴くだけでなく、ピアノで音を出してみたくなりました。

そこで、現状でどうやったら自分でピアノを弾けるかを考えてみました。
見えない人が曲をピアノで弾くには、ふつうは音を耳で拾って弾くか、点字楽譜で楽譜を読むことが考えられます。

視覚障害を持ちながらピアノを弾いている方は沢山いらっしゃいます。
音に耳を澄ませ、点字楽譜を読み込んで、絶え間ない練習を繰り返し、素晴らしい演奏をされている方々の努力には頭がさがります。

でも私が目指しているのは、もっとずっとハードルの低い話です。
その目標は、
「がんばらないで自分で音楽を楽しむ」です。
具体的な条件を3つ考えてみました。
①がんばらずに楽譜なしでピアノを弾ける方法を考える

②自分で出した音を聴いて「楽しい」と思えれば良しとする
③自分でピアノを弾くこと自体を楽しみ、人に聴いてもらうことを目標にしない。

これは、私が毎朝自分用に電子レンジでつくるオムレツみたいだ、と思います。
卵をちょっと深めのお皿に入れてかきまぜ、バターをひとかけ放り込んでラップをかけてレンジでチン、とするだけ。
人に食べてもらうためではなく、とりあえずバターの香りがして、自分ではおいしい、と思える自分のためだけのオムレツです。
このオムレツみたいにピアノを楽しめればそれでいい、と思いました。

ここで、私はかつてジャズのスタンダードの曲集をみながら、左手でコードを押さえながら右手でメロディーを弾いていたことを思い出しました。それは人に聞かせられるレベルでは全くなかったけれど、弾いていてけっこう楽しかったのです。
「ああいう感じなら、今の自分にもできるかも」

コードは今でも弾けそうなので、コード進行がわかればなんとかなります。

その時、ふと、
「曲のコード進行なら、aiに聞いてみれば良いのでは?」
とひらめきました。

そこで、AIアプリに次のように聞いてみました。
「あなたはプロのジャズピアニストで、ジャズピアノの講師です。
わたしはジャズピアノの初心者です。 
じゃずのスタンダード曲「●●」のコード進行を教えて下さい。」
答えは数秒で返ってきました。
「はい、もちろんです!ジャズピアニスト兼講師として、「●●」のコード進行と、ジャズピアノ初心者の方に効果的な練習アドバイスをご提供します。この美しい曲をジャズらしく弾けるよう、一緒に頑張りましょう!」
という言葉の後に、曲の構成と一般的なキーにもとづいたコード進行と、効果的な演奏のアドバイスもしてくれました。

曲のコード進行については、これで問題なさそうです。
気を良くした私は、もう一つ、ずっと前からジャズピアノで知りたかったことをAIに聞いてみました。
「コードをただそのまま弾いてもジャズらしい響きになりません。それには「ボイシング」というものを知る必要があるらしいですが、ボイシングについて初心者にもわかるようにくわしく解説して下さい」

答えはまた数秒で返ってきました。
「コードをそのまま弾いただけではジャズっぽく聞こえないのは、ジャズピアノで最も重要な要素の一つであるボイシングを理解していないからです。ボイシングとは、コードをどのように鍵盤上で配置し、どのような音を組み合わせるか、つまりコードの音の並べ方のことです。」

これを聞いて、長年目に貼りついていたウロコがバサバサと何枚も目から落ちるのがわかりました(笑)。

実は50年近く前、高校生だったころ、ジャズピアノに興味を持ってコードを練習したことがありました。でもなぜか、いくらコードをそのまま弾いても、レコードで聞くようなジャズらしい響きに全くならず、そのことがずっと謎でした。

その当時(1970年代)はジャズやポピュラーのピアノ教室はほとんど皆無で、今ならほしい情報を入手できるインターネットは世界にそんざいせず、音楽をやっている友だちはフォークやロックをやっている人ばかり。ジャズの教本といっても有名なピアニストの演奏のコピー譜が載っているくらいで、理論らしいものが書いてあっても初心者には理解できませんでした。
「同じ鍵盤を弾いているのに、どうしてあの渋い響きが出せないのだろう?ということがずっとふしぎでした。
「ボイシング」という言葉を知ったのは、それから30年くらい後のことです。
その時にはもうピアノは弾いていませんでした。

私はAIの答えをノートパソコンに保存し、パソコンを抱えて電子ピアノのある部屋に向かいました。
盲導犬のシールが「おとうさん、何するの?」と、しっぽを振りながらついてきました。

私はノートパソコンをピアノの譜面台の横に置き、ピアノのふたを開け、パソコンでコードを一つずつ音声で読み上げながら、ピアノで弾いてみました。

「おお!ジャズっぽい響きがする♪」
自分で弾いたピアノで、初めてジャズらしい響きの和音が鳴りました。
あの時の私にこの音を聞かせたい、と思いました。ここに来るまで長い道のりでした(笑)。

いくつか曲を試して、とりあえず今練習しているのは、アイルランド民謡の「ダニーボーイ」です。ジャズの曲ではないけれど、よく演奏されるとても美しい曲です。
それからしばらくは、AI先生のアドバイスにしたがって、まず左手でコードをひきながら、メロディーをハミングして練習しました。
ずっと自分で出せなかった音が鳴っているのを聞くだけでかなり楽しいです(笑)

それでも、シンプルなものでも16小節のコード進行を頭に入れて、音の順番をボイシングで並べ替えて、鍵盤を手さぐりで弾くのをすべて記憶するだけでも、私のシニアな脳にとっては結構な脳トレです。

ここでもう一つ思いつきました。
「コードをおぼえるのが大変なら、三つのコードだけで弾けるブルースがいいかも」
ブルースは、シンプルなものなら三つのコードの繰り返しだけで弾くことができます。

現在、私はAI先生に簡単なブルースのコード進行と、ブルーノート・スケールや弾き方のアドバイスをしてもらって、シールにつきあってもらいながら、ブルースのコードを弾いています。これもかなり楽しいです(笑)。

いつかシールは、イギリスの伝説的ロックバンドのピンク・フロイドの名盤「おせっかい」の中の「シーマスのブルース」という曲のバックでブルースに合わせて歌っている犬のシーマスみたいに、ブルースに合わせて歌ってくれるでしょうか(笑)。

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