【突発即興企画】ラストキス
noteでBLでお馴染みのなみさんより、突発即興企画頂きました。
詳細はこちら↓
ゲイのおじさんと、おじさんの元奥さまとの話。
780字。
別れた女房と出会ったのは大学時代、都会のキャンパスライフに浮き足立っていた若造が、ようやく地に足ついて将来や自分の特性に向き合い始めた頃だった。
「結婚はしたくないけど、既婚歴は欲しいんだよね」
まだまだ独身者の肩身が狭い時代だった。いい学校を出て結婚して子どもは一姫二太郎……なんてモデルケースが大真面目に信じられていた。
「ずっと独身だと田舎のジジババが五月蝿いからさ、一回は挑戦したけどやっぱり向いてませんでしたって実績が欲しい」
一回は頑張ったんだから良いでしょ、そんな開き直った台詞をあっけらかんと言い切れる人だった。いい女だった。
「君にもメリットあるんじゃない? カミングアウトする気ないんでしょ?」
なんてことはない。
家庭に縛られたくない上昇志向の女と、ゲイセクシャルである性的指向の男が、頭の固い世間に辟易していたというだけ。
期間は、どちらかがもう十分、と感じた時。
男女の性愛こそ存在しなかったけど、案外上手くやれていたように思う。気の合う友人とルームシェアをしているようなもの。
結局十年続いた結婚生活は、彼女のご両親が相次いで亡くなったタイミングで更新を見合わせる事となった。
「最期までやれ孫の顔を見せろと五月蝿くて悪かったわね」
「それも契約内だと言うなら構わなかったけど」
義兄夫婦が三人も孫をこさえていたから実行はされなかったが、十年の結婚生活で手を握る以上の性的接触はついぞ行われなかった。
「やぁよ、友達とセックスなんて」
「それは同感」
結局、自分はどうあがいても世間が言うところのまとな男にはなれないと分かった十年だった。
「それじゃ、元気で」
「ああ、さよなら」
よほど湿っぽい顔でもしていたのか、いたずらっぽく笑った彼女が背伸びをして、俺の顔を引き寄せる。
最初で最後の別れのキスは、案外悪くない気分だった。
「実はずっとしてみたかったのよ、友達とキス」
