【noteでBL】花が散るのは何の為?【ファンタジー】
㊗️1周年だし特別企画だし、作品はなんぼあったって良いよねー!?
という訳で今回企画参加、二作品目です。
私的テーマは「擬似的生まれ変わり」。お家騒動で死んだ事にされた子どもが別人として生きる事となった、その成長後のお話となります。目指せファンタジー戦記もの。BLというよりはブロマンス寄りでしょうかね。
本編文字数は3,010文字。1作目もそうですが、どうして毎度こうもギリギリを攻める文字数になるのか……。
【登場人物】
キール・ブラン:筆頭戦闘員。戦闘狂だけどツッコミ担当。
アルバート・バイロン:作戦参謀。クールビューティーと見せかけて雑。
これまた未読でも一切問題ありませんが、初出は月は東にさんのエモエモ企画より↓
ちなみに作中で引用した詩、年々歳々〜の解釈は、阿刀田高先生のエッセイを参考にしています。
先生の作品には『俺は生まれ変わっても仏なんぞにはならん。蓮に生まれ変わってお前の尻を抱いていたい』という一文もあって、今回の企画元である四四田さんの呟きで「この元ネタってこの古歌か〜!」と気付きを得たのも良い思い出。
なお、先生のオリジナルか、他作品の引用かはちょっと覚えていないので申し訳ない。
「今日俺の命日なんだわ」
夏も盛りの風が爽やかな、木漏れ日煌めく祝祭の日。
半地下にあるので年中涼しい作戦支部の、定位置となっているくたびれたソファでだらけにだらけていた青年が唐突に呟いた。
対角線にあるデスクでは、休日出勤なので軍服ではない、ワインレッドのワイシャツにノーネクタイという比較的ラフな格好の同僚が、部下の報告書をさばいている。
「本名の方のか?」
「おう。俺っつーか“私”のだな」
ろくに手入れもしていないのに艷やかな金髪の、枝毛一つない毛先をいじりながら答える。
普段は戦闘狂だの狂戦士だの畏怖される騒がしい男だが、意外にも顔立ちには気品があり、よく見れば立ちふるまいも粗野ではない。
実のところ、いかにもお貴族様ですとばかりに涼しい顔をしている参謀官の方が、素の性格は雑だったりするのだが、それは割愛しておこう。
「享年は十二歳という設定だったか。ならもう十三回忌か」
「設定とか言うなよオッサン」
「オッサン言うな。まだピッチピチだわ」
書類から顔も上げずに答える参謀殿は、確かに三十路を過ぎてなお艶めかしい。銀髪赤眼の吸血鬼じみた美貌も相まり、年齢不詳の域に達しつつある。
「十三年なァ……そりゃあアンタも老けるし丸くなるわ」
「老けてない」
軽口を叩き合いながらも、そのスミレ色の目が見つめているのは今ではなかった。
キール・ブラン。とうとう本名より長い付き合いとなった第二の名前を思う。
きっかけは、割りとよくあるお家騒動。
キール本人も認める陳腐な話だ。生まれも育ちも正統な異母兄がいて、優秀な異母弟もいて。
『君は生まれ変わるんだ。昨日までの君は今日死んだ』
命が残されただけ儲けもの。そう思えるようになったのは、いつからだろう。
「キール」
「……なんだよアル」
「腹が減った」
「は?」
「休憩だ。付き合え」
特殊小隊が誇る頭脳こと作戦参謀官アルバート・バイロンは、どことなく邪悪な、満面の笑顔で万年筆を投げ捨てた。
ーー敬え讃えよ 我等が勝利
その日の帝都カーティスは、南部国境戦線勝利を記念した十数回目の凱旋祭に湧いていた。
もはや庶民にとってはちょっぴりお堅い納涼夏祭りの扱いだが、所かしこで軍国主義の音がする、そんな祭典である。
「お、ライ麦パンにバゲット、それに塩漬け肉か」
祭りの喧騒に窓を叩かれながら、どこ吹く風で台所の戸棚をあさる成人男性がいた。アルバートである。
「いつもの店じゃなくて良かったのか? 祭中は限定ミートパイも出すらしいって常連客が言ってたぞ」
毎年この日は都を挙げての稼ぎ時。馴染みの大衆食堂の他も、期間限定を謳った品を出す飲食店は多い。
いっそ、祭の屋台を冷やかしがてら食べ歩くのも良いかもしれない。警備の応援に駆り出された知り合いも何名かいるので、差し入れという名のちょっかいをかけてやろうか。
頭脳労働は意外とエネルギーを使うものだと主張し、見た目に反して食欲旺盛なアルバートにとっても魅力的な献策ではあったようで、しばし物色の手が止まる。
「いや、人混みは好かん」
「さいですか」
会話の応酬を続けながらも、かまどの前では火の番を仰せつかったキールがにんにくのスープを温めていた。にんにくやパプリカパウダーなど常備品だけで完成するので、野外調理にも重宝するレシピだ。小隊の新人が最初に教えられる伝統料理でもある。
「蜂蜜酒と麦酒もあったがいるか?」
「いらね」
真っ昼間から酒なんて、とは言わない。酒は水より安価で安全なもの。キールもアルバートも、数杯の食中酒で酔っ払う程弱くもない。ただ単純に、気分じゃなかったのだ。
「……隊長に問われた事がある」
スープを深皿に移し、スライスしたパンと軽く炙った塩漬け肉を添える。どうせなら野菜か果物でも付け加えたい所だが、そこまで厳密でなくとも構わないだろう。味は保証する。
「花が散るのは何の為だと思う、と」
「自然の摂理ってやつじゃねーの」
誰が決めたか知らないが、始めからそういう風に出来ている。
生きていれば腹が減るように、子を成した雄カマキリが番の雌に食われるように。産まれた直後に、誰にも教えられなくとも他の卵を巣から落としてしまう鳥もいたはずだ。しかも托卵。
庶子が王にはなれないように、は少しニュアンスが違うだろうか。
キールの内心を知ってか知らずか、食後のデザート用に焼き菓子まで広げだしたアルバートはご満悦だ。菓子云々というより、敬愛する隊長について語れるのが好きなのだ。
「種を残す為だ、と」
自然界において個体の死とは、次世代の生への循環の一過程に過ぎない。
なるほど、あの化け物じみたオッサンの言いそうな達観だ。
「不遇の第二王子の死が革命の種を残したってか」
「骨の髄まで腐り切っても居座り続ける老害共に見習って欲しいものだよ」
生き死にで格好付けるのは趣味じゃないが、と嘲笑う顔は実に悪役。吸血鬼に例えられる相貌は伊達ではない。
「アンタ、素の笑顔邪悪過ぎね?」
「何を今更」
これでも猫の二、三匹も被れば傾国の微笑み。スミレの砂糖漬や薔薇の朝露でも主食にしてそう、などと例えられた絶世の美男子なのだが。
ちなみにこれを聞いたキール他同僚数名は、爆笑の余り腹筋崩壊した。全員法律書の角で殴られた。
「私はあの方に何を残せるのだろうなァ」
しばらく、咀嚼音だけが響いた。
「……どうした、突っ込まんか」
「いやガチのやつっぽいのはちょっと」
末端の俺らより長生きしそうだし、あのオッサン。そう付け加えてしまえば、二人そろって乾いた苦笑いが浮かぶ。
端から軍属、死に急ぐつもりは毛頭無いが、寿命を使い切れるとも思っていない。それくらいの覚悟はとっくに出来ている。
「オッサンが言ってた事といえばよ、花は毎年似たようなもんだが人は違う、みたいな詩もあったじゃん」
「年々歳々花相似たり、歳々年々人同じからず」「それだ」
自然の永続性と比べて人間は儚い、という無常を表す東国の詩であるらしい。だが自然ですら“似たようなもの”であって完全に同一のものではないのが皮肉だな、とは隊長談。花からすれば毎年の花見客だって似たようなものだろうに。
「アンタくらい毒々しい花ならオッサンも忘れようがないんじゃねぇの」
他と似たようなもの、で片付けるには無理がある。例え死に別れたとしても記憶に、感情に、図太く根を張って居座り続けるに違いない。
「私はミントか」
「イメージに反してヤベェやつじゃん」
ケラケラ嘲笑ってやれば、仕返しとばかりに肉を掻っ攫われた。これだからイメージに反すると称されるというのに。
「それはお互い様だろう」
「は?」
「お前さんのどこが狂犬なんだかなァ」
十三年前のあの日以来、ずっと死の隣で生きてきた。
素性がバレたら今度こそ本当に殺されるかもしれない。
成り代わりを手引きした恩人でもある隊長と、世話係として引き合わされたアルバート。事情を知っていたのは、心を許せたのはたった二人。
理不尽に憤った時期も長い。屈折した感情を破壊衝動に向けた事もある。
失くしたものが、奪われたものが悲しくて、悔しくて。
八つ当たりのように、子どもの癇癪めいた鬱憤をぶつけるように。
命が残されただけ儲けもの。そう思えるようになるまで、一番近くで共に生きてきた人が微笑う。
「可愛いやつじゃないか、なぁグッドボーイ?」
「……うるせぇよ」
反抗期を超えて立派に育った弟を見守るような、生温かい目が鬱陶しい。
腹いせにその口ふさいでやろうと決めて、席を立った。
