【短歌でBL】よろしく種火
こちら参加させて頂きました。二度めまして!
月は東へ さんのエモエモな短歌に対して、第一稿(迷走して没)は強面おじさんの実家仕舞い断捨離奮闘記と化していた……BLとは……(本編とは一切関係ありません)
【本文3084字】
【テーマ:ゴールデンウィーク】
【使用短歌:元彼のラブレター】
「字が好き」がとっとく理由になるってさインクの染みはあまりに碧い
「彼氏に元カレの手紙見られちゃって」
とある開場前の小さなライブハウス。
ドリンクコーナー前へわざわざ移動させたパイプ椅子に座るスーツの男、鳴海遥は呑気だった。左頬に平手打ちされた跡がくっきり残っていなければ、「上司の家の猫ちゃんが仔猫産んだんだって」と語った時と同じ顔をしている。
「元カレってどの?」
「音羽くん」
ガチャガチャとコーラの瓶を補給しながら答える店長は、鳴海の元同級生だ。どちらかと言えばラーメン屋の店先にいそう、とはバイトくんの談。
「音羽……書道部の奴か」
「うん、高二の頃の元カレ」
さらりと述べた旧友に、隠す気もない全力のため息が返る。
それというのもこの鳴海、見た目に反して恋多き肉食系なのである。しかも老若男女問わない雑食系。
「見た目に反してって、僕どんな印象なの?」
「片想い相手に恋愛相談されそうなお人好し。もしくはセンパイってお兄ちゃんみたーい♡とか言われる優男」
「人の苦い思い出掘り返すのやめて」
垂れ目気味のたぬき顔、とでも言うのだろうか。穏やかな気質も相まって、地顔が笑っているように見えるタイプである。
ちなみに体型は中肉中背。店長のような高身長の相手と並ぶと小さく見えるが、女性や華奢な男性といると「意外と大きいね」と驚かれたりする。
「しっかし音羽なぁ……あいつ教職就いたんだっけか」
「教育学部行ったのは確かだよ」
卒業してから連絡取ってないから知らないけど。あっけらかんと告げる声に、作業の手が数秒止まる。
恋が多いとは惚れっぽいという事で、熱しやすいものは冷めやすい。
(なんつーか、あれだ、執着心がないんだよなこいつ。湿っぽい未練がない)
別に情が薄い訳でも、まして尻軽という訳でもないのだが、潔いと言い切るには悩ましい精神構造だ。
「ん? じゃあ手紙って、付き合ってた頃のもんか?」
「いくら僕でも、彼氏いるのに元カレと連絡とったりしないよ」
浮気も二股もしません。された事はあるけど。
なんとも反応し辛い事実を宣言した後で、元々垂れ気味の眉が更に下がる。
「なんで元カレのラブレターなんて取っとくのって聞かれて」
釣り銭を補充する手は完全に止まってしまった。困ったように笑う旧友が、十年前の少年と重なった。
「字が好きだったから」
鳴海が家に帰ってこない、と連絡があったのは、十年前のゴールデンウィークが始まって二日目の出来事だった。
当時、鳴海達は高校二年生。
中学から同級生だった店長こと、宮野弘貴は驚いた。鳴海は連休だからと羽目を外して無断外泊するような不真面目な輩ではなかったし、家出をする程何かに悩んでいたようにも見えなかったからだ。
一応、保護者の携帯電話に『ゴールデンウィークが開けるまでには帰ります』とメールがあり、実際に連休最終日の夜に帰って来たので、警察沙汰にまではならなかったが。
その時、鳴海と共にいたのが、同じのクラスの音羽総一朗であったという。
『かけおちごっこーーなんてね』
両親や周囲の大人達からのお説教を受けた後で、宮野にだけだとこっそり打ち明けてくれた台詞がこれだ。
拳が出た。
音羽は無口で大人しい、それでいて大変目立つ人物だった。
他のクラスメイトいわく、クールビューティーな氷の女王。日本人形のような美貌を持った、高嶺の花。
人懐っこい鳴海は気さくに話しかけていたが、それは音羽にとっては非常に珍しい対応だったのだろう。雪が溶けて春がくるように、きっとそれは自然な成り行きだった。
惚れっぽい男は、同時に惚れられやすい男でもあったのだ。
「こんばんは、遥さんいますか」
宮野店長の回想は、現在進行系で鳴海に惚れている男の呼びかけでストップされた。
「理央くん!?」
「ああ、やっぱりここでしたか」
かつての逃避行の相手にも似た、切れ長の瞳の美少年。あちらが日本人形なら、こちらはビスクドールだろうか。
実際は二十歳を過ぎているのだが、華奢な体格と童顔のせいか少年の印象が拭えない。鳴海の現恋人、早坂理央。
「おう坊主。遅かったな」
「すみません。あとお久しぶりです店長」
「もっと遅くても良かったのに〜」
「鳴海ぃ?」
「遥さん?」
さすが元雇い主と元アルバイト。反応が同じである。
ジトリと座った目が鳴海の頬で止まり、少しばかり、視線が泳ぐ。
「えーっと……まずはすみませんでした」
「え?」
きょとん、という擬音が付きそうな顔をして、鳴海は首を傾げた。心なしか理央の顔が赤くなった気がするが、なる程、これが惚れた欲目。
「顔。叩いて。感情的になりました。反省しています」
何故片言。さり気なくドリンクコーナーから離れた店長は、別に馬に蹴られたくないからではない。そろそろ開場準備を終わらせなくてはならない時間だから、それだけだ。
「あぁ、これ? 見た目程痛くないから大丈夫だよ」
「遥さん、皮膚に跡付きやすいですからね」
他所でやれ。余計な事に気付きたくない店長は、全力で店長を遂行した。
「僕もデリカシーなかったよね、ごめん。理央くんが嫌なら捨てるよ?」
「…………………………………………………………………………………………………………………捨てなくて良いです」
長考した時点で。無事開場準備も終了し、手持ち無沙汰になった店長は、自分の手際の良さを少し呪った。
「遥さんの、そういう懐が広すぎる所も好きなので」
「何それぇ?」
学生のようにきゃらきゃらと笑う鳴海は、友人の立場から見ても可愛らしい。
(好きな奴の前だと、本当に幸せそうに笑うんだよなこいつ)
困ったように苦笑するよりは、こちらの方が断然良い。
後方身内面、と歴代彼氏達から密かに評され、それなりに嫉妬されている事を、店長は知らない。
「過去形の男より厄介なのもいるし……」
「え?」
「いえ。そもそも手も握れない思い出なんかに負けるつもりないんで、別にいいかなって」
少年のような、それでも確かに男の顔で言い切った恋人に、鳴海が何かしら反応を見せるより早くーー彼の座っていたパイプ椅子が蹴り飛ばされた。
「ぎゃっ!?」
「他・所・で・や・れ!」
「ちょっと店長」
庇うように間に割り込んだ理央は、仏頂面を通り越して無機質感すら漂わせいる。美人が怒ると迫力すごい、とは鳴海の談だが惚気だろうか。
「邪魔されたくなかったら痴話喧嘩もイチャコラも他所でやれ」
「イチャコラだなんてそんな……」
「照れてんじゃねーよ」
「そうですよ、本気で照れてる鳴海さんの破壊力はこの程度じゃありませんよ」
「マジでそういうのいいから」
そろそろしょぼくれた電気鼠のような様相を呈してきた店長である。
「うん、今日はそろそろ帰るね。お邪魔しました」
「お先失礼します……単発で良ければ、またシフト入りますので」
「おう、また頼むわ」
こうしてライブハウスを追い出され、もとい退出した二人。
自然と鳴海の住むワンルームマンションへ向きかけた足が、ふいに止まった。
「鳴海さん?」
「ええと、こういうのはきっちりした方が良いかな、と思って」
ーーはにかみながら差し出された右手。
条件反射で握り返した理央に、微笑が夕焼けだけではない色に染まる。
「理央くん。理央くん、違うそうじゃない。僕がしたいのは仲直りの握手。これ恋人繋ぎ。ここ公道。まだ明るい時間。おーけい?」
「鳴海さんって照れると口数増えるタイプですよね」
「理央くん!」
なんだかとても浮かれた気持ちで、繋いだ手を引き寄せて唇を落とす。声にならない高音の悲鳴が聞こえた気がするが、それすらも愛おしい。
(だって本当に、どうでもいいかなって)
冷めやすいというのなら、何度だって火を灯せば良い。
碧い思い出なんて、さぞや燃え上がることだろう。
ーーなんてね。
【おまけ:人物設定】
鳴海遥
二十代後半公務員。正確には惚れっぽいというより、自分を好きになってくれた人をほぼ無条件で好きになってしまうタイプ。
ビジュアルイメージは某水星の魔女ちゃんを成人男性化して現代日本っぽくした感じ。ドラえもんでも家康公でもない。
腐れ縁の店長(宮野弘貴)
学生向けライブハウスの雇われ店長。
どうも“主人公に恋愛感情を抱かないタイプの頼れる友人キャラ”が好きなのでつい書いちゃう。リア充末永く爆発してろ。
元カレ(音羽総一朗)
高校時代の彼氏。卒業後音沙汰無しだけど、たぶんこっちはバリバリに引きずってるし未練たっぷり。教職に就いていた場合、生徒の性癖クラッシャーとして恐れられていると思う。
彼氏(早坂理央)
二十歳そこそこの合法美少年。
実は前作の野球部コーチなお兄さんの友達として設定してたけど、出番全カットになった人。正直すまんかった。
