おもしれぇ現実 2026.1月編⑩
夢を見た。悪夢だった。
中津での夜勤を終え、12時に帰宅して就寝した俺にそれは襲いかかった。
夢の中で俺は知らない会社の新入社員で、何十人という同期と共に研修を受けている。
奇妙なことに研修は何処の外国ともしれないホテルで行われた。このホテルの立地がまさしく劣悪で、通りには何故かタトゥーがゴリゴリに入った上裸の男たちが隊列を組み闊歩していた。
人種のるつぼがパレードさながらに闊歩するのは壮観というより異質な気味の悪さに満ちている。
俺は何日もそこで研修を受けた。場所が場所なので、同期の中に違法な薬物に手を染めた不届き者が現れる。おおよそ街の不逞の輩に唆されたのだろう。
「あーあー、やってるよこいつ」
何を隠そう。噂の主は俺とホテルの同室の同期だった。挙動が覚束ない程度の認識だったが、噂を照合するとそいつではなかろうかとなった。
触らぬ神に祟りなしと俺は特に止めもせず数日を過ごす。するとある日上長に呼び出され、例の薬物について質問された。
「正直、やっているのは〇〇(俺の知らない言葉)なのか?」
「あー・・・」
おそらく人間には発話不可能な言語のはずが俺は自然とコミュニケーションを取っていた。
言葉を濁す俺に業を煮やした上長が声を張り上げる。
「あいつなんだろ!言え!」
「あー・・・」
圧に負けた俺はそいつの名をこぼしてしまった。
形はどうあれ俺は同期を売ったことになる。今度は俺の噂が伝播した。
ある朝俺は出勤する。しかし様子がおかしい。
俺以外の同期全員が整列していた。それは前述の男たちの隊列を思わせる。
「あー・・・」
言葉にせずとも、良からぬことが起きると俺は瞬時に理解した。
彼らは無言でこちらに首を向け、何故か両腕をTポーズで俺めがけて走り出す。
一も二もなく俺はその場から逃げ出した。多分人生で初めて夢の中で上手に走れた。
景色が縮まらない世界をどれだけ走ったか。後方には執拗に追いかけてくる同期。あとどれくらい走れば良いのか、不安と焦りがない混ぜになった頃俺の目の前に隊列を組んだ件の男たちが立ちはだかった。
ヤンキー映画なら援軍である、がそんな訳ない。人種を超えた軍団は、ラジオ体操のように一定間隔に幅を取り、何語とも知れぬ歌を歌いながら腕をぐるぐると回して踊りだす。
前門の虎後門の狼では生ぬるい。前門の狂人後門の狂人だ。
俺は俺で足を止める訳にはいかないので「ええいままよ」と突っ走る。
男たちと全身をぶつけながら俺は走り、歌は止まらない。
「ダッサーリ ルイネーサ ムーサ」
確かこんな言葉を繰り返していた。輪唱なのか、鼓膜にやたらと響く歌を浴びながら、アニメ版少女椿のラストシーンのようにその場がループする。
「ダッサーリ ルイネーサ ムーサ」
「ダッサーリ ルイネーサ ムーサ」
「ダッサーリ ルイネーサ ムーサ」
わけの分からない歌は続く
「ダッサーリ ルイネーサ ムーサ」
「ダッサーリ ルイネーサ ムーサ」
「ダッサーリ ルイネーサ ムーサ」
わけの分からない歌は続く
「ダッサーリ ルイネーサ ムーサ」
「ダッサーリ ルイネーサ ムーサ」
「ダッサーリ ルイネーサ ムーサ」
わけの分からない歌は続く
「オカルトじゃねぇんだぞ!!」
多分「ドグラ・マグラじゃねぇんだぞ!!」と言いたかったのだと思う。
「ダッサーリ ルイネーサ ムーサ」
「ダッサーリ ルイネーサ ムーサ」
「ダッサーリ ルイネーサ ムーサ」
わけの分からない歌は続く
「ダッサーリ ルイネーサ ムーサ」
「ダッサーリ ルイネーサ ムーサ」
「ダッサーリ ルイネーサ ムーサ」
わけの分からない歌は続く
言い知れぬ恐怖感に、部屋の寒さが合わさった不快感とともに俺は目覚めた。
まったく今日も23時から夜勤なのに幸先が悪いな。
22:55 着信
22:56 着信
22:57 着信
22:58 着信
22:59 着信
23:00 着信
23:01 着信
23:02 着信
23:03 着信
23:04 着信
23:04 上司「連絡ください」※LINE
完
