毎週ショートショートnote / カワウソ字
今朝ポストを開けたらベージュ色の封筒が入っていた。
わたし宛だった。
黒い、肉球みたいな形の刻印が押してあった。
開いて読むと先週行った水族館にいたカワウソからだった。
「あなたを好きになりました。
どうか僕のお嫁さんになって下さい。
お渡ししたいものがあるので
明日の夜中、僕の展示室の前まで来てくれませんか?」
玄関で読んでると、脇を通りかかった弟が顔をしかめた。
「何それ、いたずら?なんて書いてあるの?」
カワウソ字はどうやら読める人と読めない人がいるらしい。
分かるのは、わたしもカワウソだからだ。
手紙には展示室までの秘密の通路の地図が添付してあって
それを頼りに進んで行くと一匹のカワウソが二本足で立っていた。
特徴的な鼻をふんふんさせながら両手に持ったアジを差し出した。
「お待ちしてました。
どうかこのアジを食べてください。
そしたらあなたと僕の赤ちゃんが生まれます。
生まれたらその子を海へ連れて行きましょう。
そこに僕たちの本当の故郷があるのです」
濡れた瞳は水槽の水より深く澄んでいた。
差し出されたアジは非常灯の下で銀色に鈍く光っている。
今朝の弟の顔が脳裏をよぎった。
けれど、人間のふりをして生きる日々に私の心はずっと渇いていたのだ。
体の中の野生が、彼と共に水へ還れと叫んでいる。
私は震える手で冷たいアジを受け取った。
「……喜んで」
一口かじると、口いっぱいに懐かしい潮の香りが広がった。
視界がぐにゃりと歪み、気づけば滑らかなグレーの毛皮を纏っていた。
彼は嬉しそうに「キュー」と鳴くと、私の手を取った。
二匹で水槽に飛び込むと、無数の泡と共に自由が弾けた。
私たちは寄り添い泳ぎだす。
この狭い水槽の向こう、広い海へと繋がる排水溝の奥へと。
🐹🐹🐹🐹🐹🐹🐹🐹🐹🐹🐹🐹🐹🐹🐹🐹🐹🐹🐹🐹🐹🐹🐹🐹🐹🐹🐹
こちらの企画に参加させていただきました。
カワウソはお顔も仕草も可愛いですよね。
でもペットブームなどの乱獲で数が減少しているそうです。
「いなくなってからでは遅いから」を
今一度みんなで考えていきたいですね。
これからもずっと、彼らが安心して暮らせる未来が続きますように。
最後までお読み下さりありがとうございました😊🐧
