見出し画像

そう、幼馴染みたいに|毎週ショートショートno+e|幼馴染はじめました+じゃない不倫

信号待ちのテスラの助手席から、絵理佐はぼんやり外を見ている。
歩く一人の男性の姿、そしてリュックのデザイン。
思わず身を乗り出しかけ、はっと運転席の男性を意識し、ぴたっと動きを止める。
でも歩く男性の背を、目で追ってしまう。
すごく似ている。

出会いは2年前、マッチングアプリ。
場末が如くすさんだ老舗アプリ空間にあって、彼が書く日記機能の文章は、文字通り場違いにも凛と、ちゃんと、していた。
お互い既婚同士。家庭生活や周囲との関係性で傷つき、疲れきっていた。特に絵理佐は幼子を抱え別居中で、日々はカオス状態だった。
互いの日記へコメントを付け合うようになり、ある日会うことに。
300km離れた街から、彼は来た。
日記通りだった。
「性的なことは、君のトラウマを知った以上、望んだりはしないから安心して。内面、君が君であることを、リスペクトして一緒にいたいだけ。そう、幼馴染みたいに、僕はいたい」

日中、食事をし、買出しを一緒にして何よりたくさん話した。夕方、駅で別れた。
指一本触れられなかった。
真剣に想いつづけてくれたのに。
絵理佐は彼との定義できない時間でなく、金銭的に安定した生活を約束しアプローチしてきた別の男性と過ごすようになった。

(ほんとにこれで、よかったのか……)

(似てるだけだよ。連絡も取っていない今、この街に彼がひとり来ているはずは……でも、もしかして……)

(この車は、私は、どこに行くんだっけ)

信号が青に変わる。
テスラが滑り出す。

「チッ、また赤か!」、吐き捨てる声。
違和感、それは、ずっと抱えている。

減速の間に、決めた。
シートベルトを外し、バッグをつかみロック解除、ドアを開け、後ろへと歩道を走る。
間に合うか、そもそも彼なのか。
わからない。でも彼が「幼馴染」でいてくれる人生が、やっぱりいい。
それだけ、はっきりわかった。
だから彼の姿を求め、走る。


(了、777文字)


(蛇足極まりない補足)

村上春樹なら、出会いをバーにしそうな。少なくとも「マッチングアプリ出会い」は彼のスタイリッシュな世界に馴染まなそう、選ばないでしょうね。

(ここで呂布カルマの「俺の勝手」のリリック
「風俗嬢じゃcoolじゃないな?」
を思い出したりもして。)

なんでもスタイリッシュにクールに決められたらもちろんその方がいいでしょうし、でも人生ってそういうもんでもないかも、とは思います。

絵理佐さんの造形も然りで、物語的には「綺麗な存在」ではないかもしれないですが、現実って綺麗ばかりでもないかも、とかも思います。

#毎週ショートショートnote
#幼馴染はじめました
#じゃない不倫
#人生はフクザツ     #一筋縄ではいかない


「お題:じゃない不倫」で書いた一本目はコチラ

いいなと思ったら応援しよう!

山本蛇内 yamamotojanai スキとフォローくだされば(気に入ってくださるなら、でね)十分なのであります! いつか有料記事に挑戦しますので、その時までチップ取っといてください笑