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小説『終わらない夜』第5話

 夜は、相変わらず続いていた。

 眠れない世界は、変化を拒むように静かだ。

 ハルは目を閉じ、深く息を吸った。夢に入る準備は、もう身体が覚えている。

 だが、その手前で、彼は一度だけ立ち止まった。

 以前ハルはここ夜の世界で誰かを失い喪失した。その出来事は、脳裏の映像としては残っていない。

 言葉も、表情も、細部は曖昧だ。

 それでも——確かに、誰かと向き合った時間があったという感触だけは消えていなかった。

 ハルは、その感触を否定しなかった。

 忘れようともしなかった。

 意味づけもしない。

 ただ、「なかったことにしない」と決めた。

 それは小さな選択だった。夜を終わらせる決意でも、誰かを救う誓いでもない。

 自分に与えられる役割を名付けることもしない。

 けれど、これまでのハルは違った。

 夢から戻れば、すべてを夜に溶かしていた。関わった痕跡を、自分の中に残さないようにしていた。

——それを、やめる。

 今の自分にできるのは、それだけだと理解している。

 夢の中で交わした沈黙も、そこに生まれた感情も、自分の一部として抱えたまま、次の夜へ進むこと。

 ハルは再び呼吸を整えた。

 心を空にするのではなく、余白を残したまま、夢へ向かう。

 救えるかどうかは分からない。

 裏切られるかどうかも、考えない。

 ただ——夜の中で出会ったものを、自分の中から消さずにいる。

 それが、今のハルにできる、唯一の行動だった。


 夢は、深い闇から始まった。

 輪郭も、音も、温度さえも失われた空間。ここでは多くの心が、形を保てずに溶けていく。

 だが、その闇の中央に、立っている存在があった。

 少女だった。

 年齢は分からない。

 幼いようでもあり、どこか大人びてもいる。

 足元には影すらなく、闇に飲まれているはずなのに、姿勢だけが崩れていなかった。

 ハルは、思わず足を止めた。

 夢の中で誰かに対して、

 「近づく前に驚く」ことは、ほとんどない。

——強い。

 そう感じた。

 悲鳴を上げない強さでも、抵抗する強さでもない。ここに立つことを、選び続けている強さだった。

 ハルは、距離を保ったまま声をかけた。

「……怖くないの?」

 少女はすぐには答えなかった。闇の向こうを一度見渡し、それから、淡々と言った。

「この世界の色が、嫌い」

 感情のこもらない声だった。

 拒絶でも、怒りでもない。ただ、そうである、という事実の提示。

 少女はゆっくりとハルの方を向いた。

 初めて、視線が重なる。

「でも」

 一拍、間があった。

「あなたは、優しい色をしてる」

 その言葉に、説明は続かなかった。理由も、根拠も示されない。

 ただ、見たままを告げたような口調だった。

 ハルは、返す言葉を見つけられなかった。否定も、肯定も、どちらも違う気がした。

 次の瞬間、少女の輪郭が、闇に溶け始める。

 霧のように薄れ、境界が曖昧になっていく。

 消えていく。

 だが、それは失われる感覚とは違った。役目を終えた夢が、次の形へ移るような——

 移ろいに近い。

 ハルは手を伸ばさなかった。

 引き留める理由も、資格もなかった。

 闇だけが残る。

 しかし先ほどまでとは、同じ闇ではない。

 ハルは、自分の内側に、微かな色が残っているのを感じていた。それが何を意味するのか、まだ分からない。

 それでも——

 夢は、確かに一つ、記憶を残して終わった。



※本作は作者が構想を提示しAIと共に執筆・推敲した作品です。


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