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ある流水型ダムのその後

ある流水型ダムのその後
ダムマイスター・コラム 増刊 27号

永山ダム技術啓蒙研究所
永山 功

 流水型ダムは,常時には水を貯めず,洪水時のみに水を貯めて洪水調節を行うダムである。このため,自然環境の改変が少なく,環境に優しいダムと言われている。最近では,ダム建設に対する反対運動が激しかった川辺川ダム(国土交通省)でも,流水型ダムとすることで建設が進められようとしている。しかし,流水型ダムは本当に環境に優しいダムなのであろうか。
 西之谷ダム(鹿児島県,堤高 21.5 m )は鹿児島市内にあり, 2012 年に竣工した治水単独目的の流水型ダムである。都市型ダムである特徴を活かし,貯水池空間はビオトープとして整備されている(図 ー 1 ,図 ー 2 参照)。ダム竣工後,ビオトープは自然とのふれあいの場として利用され,学校教育の場としても活用されてきた。また, 2018 年には,日本ビオトープ管理士会鹿児島支部が『西之谷ダム生物調査』という報告書を発行している。

図ー1 西之谷ダムのビオトープ整備(赤字は筆者加筆)
図ー2 竣工後間もない頃の西之谷ダム貯水池空間
https://blog.goo.ne.jp/sizen2_2006/e/ a0e265bff6eca3d3c7db1fd8b758e584

 筆者はこの西之谷ダムの状況について興味を持って追跡していたが,近年,新しい情報が入ってこない。最新の Google 衛星写真を見てもビオトープらしきものは見当たらない。そんな折,鹿児島市在住のブロガーが『西之谷ダム 水辺の風景』と題して写真とともに西之谷ダムの現況を紹介していた(図 ー 3 参照)。曰く。

 「貯水池を望む。治水専用ダムなので普段は水が溜まっていません。上流左岸の公園です。公園からダムを望む。右岸に棚田のようなところがあります。水が溜まっていないので,川の自然観察によいです。」

図-3  西之谷ダム貯水池空間の現状
https://blog.goo.ne.jp/sizen2_2006/e/ cd19333cf19a84b8f4c94c704ca0b344

 ビオトープのことは何も言及していない。そこで,現況をコメントで尋ねたところ

 「ビオトープとして活用しているようには見えません。以前は河床に池がありましたが,それもはっきりしません。棚田も利用しているようには見えません。」

との回答であった。ダムの竣工後,棚田は一度も利用されていないことは知っていたが,ビオトープの現況を聞いて驚愕した。
 そこで,図 ー 1 のパンフレットを作成した鹿児島市環境保全課にビオトープの現況を照会したところ

 「西之谷ダムについては,地域公民館の講座等で利用されることがあるようですが,個々の取組について本課では把握していません。ダムは鹿児島県鹿児島地域振興局河川港湾課が管理していますので,そちらにお尋ねください。」

という誠意のない返事であった。そこで,日本ビオトープ管理士会鹿児島支部に照会したところ,

 「本ダムは穴あきダムのため,河川本流のほか湿地・クリーク・河畔の河原等多様な生育環境が残されていました。ただし,現状は十分に管理されているとは言えず,当初の環境は必ずしも維持されていない状況です。河川本流からの補給水がないため,湿地面積が縮小したり,乾地になっている湿地もあります。少なくともクリーク(小水路)を管理して湿地の保全に努めてもらいたいものです。また,観察しやすい観察道路の整備が必要であり,特に子供の自然観察用には重要です。私も行政 OBですが,維持管理についてはいつも課題の一つでした。」

との返事が送られてきた。
 また,同管理士会の入会案内パンフレットに西之谷ダムの紹介があり,図 ー 4 の写真が掲載されている。写真では,ビオトープを観察するための水上デッキ(桟橋)が整備されており,これについて尋ねたところ,

図-4  合同観察会の様子(西之谷ダム周辺)

 「写真はダムの最高水位範囲外で上流の公園にあるメダカ池です(図 ー 1 参照)。ダム建設の前からある湿地・池を利用して水生動物や湿性植物の観察ができるように水上デッキも整備されています。上流公園には,せせらぎ水路や河川敷への階段も設置されています。上流公園はメダカ池とともに自然観察ができるように管理されています。」

との返事が送られてきた。西之谷ダム貯水池空間の直上流に位置しながら,西之谷ダム貯水池空間と上流公園の維持整備の違いに驚くばかりである。また,鹿児島市環境保全課と日本ビオトープ管理士会鹿児島支部との対応の違いにも留意したい。今回の行政当局の対応は,当局の自然環境の維持保全の基本的考え方が “お役所仕事” としてしか見ていないことを示している。
 筆者が現役の国家公務員であった頃はダムの最盛期で,約 100 のダムが建設段階にあり,ダムを造ることで精一杯であり,ダム完成後の維持管理のことを十分に考える余裕がなかった時代であった。筆者の上司の中には「完成後のダムの管理まで考えている暇はない」と暴言を吐く人もいた。しかし,近年,新規の建設ダムはわずかになり,ダム行政も管理が主体になりつつある。それにもかかわらず,『ダム再生』と称して相変わらず箱物造りに重点を置いているような印象を受ける。ダムを造るのは手段であって,それを適切に運用,維持管理することによって,所期のダム建設の目的が達せられる。ダム事業に係わる技術者個人にあっても,絶えずそのことを肝に命じておく必要があると思う。
 さて,西之谷ダムのビオトープの話に戻るが,「図 ー 3 の状況を自然そのものであり,好ましい環境である」という人がいる。確かに人手を加えないことが自然であると言えば,そのとおりである。しかし,活発な人間活動によって自然のエコシステムが壊された現在,多様な生物が営む環境でなければ,自然は荒れ果ててしまう。『里山の自然』という言葉があるように,人の管理の手が入って初めてあるべき自然環境が維持される。西之谷ダムの例でいえば,その管理を行うのは誰であろうか。ダム管理者である鹿児島県,地元の行政機関である鹿児島市,それとも日本ビオトープ管理士会のような市民団体なのであろうか。そして,その予算はどこで確保するのであろうか。
 現在建設が検討されている川辺川ダムでは,西之谷ダムとは比較にならない $${3.9 km^2}$$  という巨大な貯水池空間ができる。五木村は,国と県が示した総額 100 億円の財政支援を柱とする地域振興計画案に合意している。この予算が単なる箱物事業に使われるのでなく,貯水池空間の自然環境を維持保全する管理費としても活用できるようにあらゆる方策を考えてもらいたいものである。貯水型ダムに比べて広大な貯水池空間を持つ流水型ダムでは,貯水池空間の維持管理が極めて重要である。

2023.07 執筆

https://b17d27e9-7563-466f-a88e-3ede574aaf8f.filesusr.com/ugd/b1bf3a_9189535c4d3e4241a1c2b7880f557fc1.pdf

(注)文中のブログ

【補筆】
 以下の写真は Google Map による現在の西之谷ダムの湛水地である。雑草が繁茂し、ビオトープは痕跡さえ見えない。

Google Mapで見た西之谷ダムの湛水地の現状(2026 年)

 なお、以下の動画を見ると、ビオトープが健在だった頃(完成 7年後)のダムと湛水地の状況がよく分かる。
  鹿児島市西別府町西之谷・西之谷ダム
  MBCテレビ「かごしまドローンTRIP」
  2019 年 2 月 3 日放送
  撮影:下高原かおり
https://www.youtube.com/watch?v=0VHa3w37ue0

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