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R.I.P.アリーヤ —— 静かな出会いと、静かな祈り

1. タワーレコードでの出会い

学生の頃、帰り道にふらりと寄ったタワーレコードで、 おすすめコーナーの棚に一枚のCDが置かれていた。

ジャケットの彼女を見て、直感で
「なんか、よさそう」
そんな軽い気持ちで手に取り、家で早速CDを再生した瞬間、
私はその音に一気に引き込まれた。

少し影があるけれど、はかなく透明で、空気のような歌声。
正に私のどストライク、
こういう歌を、こういう歌手を待っていた、と感激していた。

その後、彼女の新しいアルバムが出たので、すぐに購入し、
ワクワクしながら再生した。

「なんだ?この曲は……???」

今までの彼女の曲とは違い、その背景に流れるビートは、まったく違う質感をしていた。 低く、変則的で、予測がつかない。

どんどこどん、どんどこどん。 チキチキチキ。
しかも、どこからかコウロギ(鈴虫!?の声まで聞こえてくるのだ……)

そのアンバランスな奇妙さ、浮遊感に、
最初は何とも言えない違和感を感じた。

しかし、聞けばきくほど、どういう訳か癖になってしまった。

https://youtu.be/KKSz4NE6PwY?si=vgsBPUJywgmUUCAB


身体の奥をノックされているような感覚。
後になって知った。
あの異質なリズムは、まだ無名時代の天才プロデューサー・ティンバランドが意図的に仕掛けた「未知のビート」だったのだ。


2. 孤高のリスナーとして

それからの日々、私はただひとりで彼女の曲を聴き続けた。
まわりに洋楽を熱く語れる友達はいなかった。R&Bの心地よさを共有できる人もいなかった。
自分の「好き」を誰にも打ち明けられないまま、それでもアリーヤの音楽だけは、私の胸の奥で静かに息をしていた。

3. すれ違った約束

ある日、街のライブハウスにアリーヤが来るという情報を知った。 本当なら、その瞬間に「行こう」と思うはずだった。
でも、私は怖じ気づいてしまった。
一緒に行く友達がいないこと。
自分の大切な「好き」を、誰かに見られるのが恥ずかしかったこと。
ライブに着ていくようなイケている服を持っていなかったこと。

「またいつか、誰か一緒に行ってくれる人ができたら、その時に行こう」

そう自分に言い訳して、小さなチャンスをそっと見送った。

4. 奇跡のような夕暮れ

仕事帰りの車の中。カーラジオからアリーヤの曲が流れてきた日のことを、今でも鮮明に覚えている。

夕方の光が少しずつ溶けていく時間。 片側一車線の道路をひとりで運転しながら、私はただ流れてくる音に身を任せていた。

その日は、なぜかずっとアリーヤの曲が続いた。
一曲終わると、また次の曲が流れる。 
「今日はアリーヤの特集でもしているのかな」
「ついに、こんな地方都市でも彼女の魅力が届くようになったんだな」

そんなことを思いながら、私は少し得意気に、満たされた気持ちになっていた。 
ずっとひとりで楽しんでいた音楽が、この夕闇の中で、自分だけではなく、沢山のリスナーにも届いているような気がした。

「今日はなんか、すごくいい日だな~」

呑気にそう思った。
好きな曲が続くだけで、
こんなにも心がときめくのだな、とその時はただ素直に感じていた。

5. 世界の色が変わった瞬間

そのすぐあとだった。 ラジオから、こんな声が流れてきた。

「……今日は、アリーヤを偲ぶ追悼特集をお送りしています」

言葉が鼓膜に届いた瞬間、私はハンドルを握ったまま硬直した。
何を言われたのか、脳が拒絶して、頭の中が真っ白になる。
思わずウィンカーを出し、車を路肩に止めた。

アリーヤの曲は、まだ流れていた。
けれど、その音はもう、さっきまでのように私を優しく包んではくれなかった。 まるで世界中からすべての音が消え去り、その曲だけが冷たく響いているような感覚。

ラジオの声は続く。 「……セスナ機が墜落したため……」

言葉が途切れ途切れにしか頭に入ってこない。
私はただ、フロントガラスの向こうの景色を凝視したまま、何も考えられなくなった。 
さっきまで「いい日だ」とニヤついていた自分が、急に遠い過去の他人のように思える。
目の前の景色は何も変わらないのに、世界の色だけが、決定的に変わってしまった。

私の中で、何かが静かに崩れ落ちていく。
車内を満たすアリーヤの声。
けれどそれはもう、「今、この世界のどこかで生きている人」の声ではなかった。
しばらくの間、私はこの事実を受け入れられなかった、
いや、受け入れたくなかった。

6. 訃報後に私がしたこと

あの日を境に、私は飢えたように情報を集めた。
バハマでの「Rock The Boat」のミュージックビデオの撮影は、大成功に終わっていたこと。

https://youtu.be/3HSJU5fDg0A?si=HCxMeoxqCRMaQl5s


この仕事を終え、愛するスタッフたちと帰りの飛行機に乗り込んだこと。 そしてその機体が、彼女の未来を奪ってしまったこと。

彼女の最後の時間を想像することはできない。 ただ、 あの透明な声が、 あの瞬間まで確かに存在していたことだけが、 私の胸の奥に静かに残った。

訃報を知ったあの日から、 私は毎日のように彼女の曲を聴いた。 まるで、 彼女がまだどこかで歌っていることを 確かめるように。 その行為は、 悲しみを癒すためというより、 彼女の存在を自分の中に留めておくためだった。 あの頃の私は、 ただひたすらに、 彼女の声を必要としていた。

7.「Miss You」が教えてくれたこと

彼女の死後、遺された映像で作られた「Miss You」のMVを初めて観た時、私は画面の前でしばらく息をのんだ。

海外のコワモテな兄貴さんたちも、 華やかな姉貴さんたちも、 誰もが迷子の子供のような目をしながら、彼女への愛を口にしていた。 その姿を見た瞬間、言葉にできない感情が込み上げた。

日本の小さな街で、ひとりでCDを聴いていた頼りない娘だった私が、
海の向こうで、同じように涙を流し、彼女の不在を嘆いている誰かと、目に見えない糸で静かにつながった気がしたのだ。

8. 世界中のファンの中に自分もいたこと

私は、声を大にして愛を叫ぶようなファンではなかった。
誰にも言えないまま、彼女の音楽を大切にしてきた。
それでも、あのMVを観たとき確信した。
世界中のファンの中に、 私も確かにいた。
その事実は、 今も私を静かに支えている。

9. アリーヤの生き方と私の軸

アリーヤの音楽は、彼女の生き方そのものだった。
透明で澄んだ空気のような優しさと、誰にも予測できない変則的なビート。
その組み合わせは、彼女の「しなやかな強さ」そのものだ。

彼女は、他人の意見や時代の流行に流されることなく、自分の美学を静かに貫く人だった。
声を荒らげるわけでも、過剰に派手な自己主張をするわけでもない。
ただ、自分が信じる音を選び、自分のスタイルを守り続けた。
その凛とした佇まいに、私はずっと憧れていた。

私はまだ自分の「軸」を持てずにいた。
好きなものを「好き」と言うことさえ怖がっていた。
そんな未熟な私にとって、アリーヤの生き方は暗闇を照らす静かな灯台だった。

「誰に何を言われても、流されなくていい」
「自分の意思を、静かに、けれど絶対に手放さなければいい」

そう思えるようになったのは、彼女の背中をずっと見つめてきたからだ。

アリーヤは、あまりにも早くこの世界を去ってしまった。
けれど、彼女が遺した声と、その生き様は、今も世界中の誰かの心の中で息づいている。
私の中にも、あの日タワーレコードで偶然手にした一枚のアルバムから始まった、小さな光が灯り続けている。

R.I.P. 大好きなアリーヤ。
静かな祈りと、永遠の感謝を込めて。

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