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壊れるために生まれたんじゃない―ごんぎつねとつるの恩返しが教えてくれた、自分のほこり―

最近の私の脳は、事あるごとに
「ごんぎつね」と「つるの恩返し」を思い出せ、と
はっきりとした示しを出してきた。

せっかくの脳からの意思表示なので、何かの意味があるかもしれないと思い、その示しに従って二つの話を改めて読み直すことにした。

読み返しているうちに、
私はふと、そこに共通する“ある傾向”を感じ取った。
それは、

過剰な献身、理解されない善意、自分を守る線の欠如、そして自己犠牲。

そして同時に、
最近よく考えていた一つの言葉が頭に浮かんだ。

「自分のほこり」

誰かを拒むためではなく、
自分を守るために持つ線。

二つの物語は、
その線を持てなかった者たちの物語にも見えた。

鶴も、ごんも、
「誰かの役に立つことで、自分の存在を肯定した」。

その裏側には、もう一つの構造がある。

「誰かの役に立つことでしか、自分の存在を肯定できない」。

二人は、その状態に陥っていたように思える。
行動の形は違っても、
二人の内側にあるものは驚くほど似た構造がある。

・自分の価値を低く見積もる
・相手の期待を勝手に背負い込む
・自分を守る線が曖昧になる
・「役に立てば存在していい」と思い込む
・だから、壊れるまで頑張ってしまう

私は、二人の魂がどこかで出会うような気がした。
天国へ向かう道の途中、
静かで、人の気配のない世界の中で、
二人が並んで歩いている姿が自然と浮かんできた。
そのイメージをもとに、
私は二人に捧げる物語をひとつ作った。


森の奥での話

森の奥、風の止んだ夕暮れ。
ここでは、互いのことがなぜかわかった。言葉にしなくても、歩いてきた道が見えるようだった。

鶴は、ごんの前で静かに羽をすぼめた。

「ねえ、ごん。あなたはどうして、
 そんなに自分を責めるの」

ごんは尻尾を揺らし、地面を見つめた。

「だって……償(つぐな)わなきゃ。
 ぼくは、ひどいことをしたから……

ぼくのこの気持ち、
 いつか分かってもらえるって……
  ずっと、そう思っていたんだ」

鶴は首を振った。
「償(つぐな)いのために
 自分を壊してしまったら、
 あなたを助けたかった人は、きっと悲しむわ」

ごんは顔を上げた。

その目に、初めて“自分の痛み”が映った。

「鶴だって……
 羽を抜いてまで恩返しをしていたじゃないか」

鶴は胸に手を当て、静かに言った。

「ええ。でもね、ごん。
 私はあの家で、家族が喜ぶ姿が見たかった。
 だから、自分のことはいいやって……
 ずっと、そう思っていたの」

風が二人の間を通り抜けた。


「ねえ……もうやめよう……」


鶴は言った。
「自分を犠牲にして愛されようとするのは」
ごんはゆっくりとうなずいた。


「うん……ぼくも、もうやめたい」


二人は歩き出した。
"自分を守る生き方"を探す旅へ。


天国の手前での話

天国の守り主の前に、白い影が現れた。
鹿のようでもあり、風のようでもあり、
形を定めない存在だった。

その声は、天国全体から響くように聞こえた。

「ここは天国の手前。
 自分を失った者は、
 この先へ進むことができない」

鶴は胸が痛んだ。

「……私は、
 恩返しのために自分を削ってきました。
 自分のほこりなんて、考えたこともなかった」

ごんもうなずいた。

「ぼくは、償うために自分を消してきた。
 自分のほこりなんて
 ……守ったことがなかった」

守り主は静かに言った。

「自分のほこりとは、
  相手を拒むための壁ではない。
   自分を守るための線だ」


自分のほこりを示す儀式

「この先へ進みたければ、
 自分のほこりを一つ、言葉にして示しなさい。
 それができなければ、
  天国はあなたを通さない」

鶴は小さく息を吸い、言った。

「私は……
  もう、自分の身体を削ってまで、
   誰かを助けることはしない。
    それが、私のほこりです」


空気がわずかに揺れた。

次はごんの番だった。
ごんは尻尾を握りしめ、
ゆっくりと口を開いた。

「ぼくは……
 誰かに好かれるために、
  自分を犠牲にしない。
   それが、ぼくのほこり」


空気の揺れが強まり、
二人の前に道が開いた。


天国の門へ向かう道

歩きながら、鶴が言った。

「自分のほこりって、怖いものじゃないのね」

ごんはうなずいた。

「うん。
 ぼくたちは、誰かのために壊れる必要なんてなかったんだ」

天国の門が見え始めたとき、
風がふっと吹き、
二人の背中を押した。
それはまるで、
"あなたが守ったその線こそが、あなた自身だ"
と静かに告げるようだった。


あとがき

この物語を書きながら、
私は何度も立ち止まった。

役に立とうとして無理をしたこと。
期待に応えようとして、
自分の声を後回しにしたこと。
頼まれてもいない荷物まで抱えてしまったこと。

振り返れば、
鶴やごんとまったく同じではなくても、
どこか似た景色を歩いていたように思う。
だから物語の中で二人が口にした

「もうやめよう」

という言葉は、私自身にも向けられた言葉だった。

人は誰かを大切にしようとして、
ときどき自分を置き去りにしてしまう。

けれど、本当は
壊れることと優しさは同じではない。
自分を守る線を持つことが、
こんなに静かな気持ちをくれるとは、思っていなかった。

そのことを、
鶴とごんは最後に教えてくれた気がする。
私たちは、

壊れるために生まれたのではない。

風の中を歩いていく鶴と
ごんの背中を思い浮かべながら、
私は今日も、
自分のほこりを確かめている。

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