戦時下のウクライナで、なぜ今も代理出産が続いているのか——感情論ではなく、事実で解説します
ウクライナの代理出産の現在地を解説。家族法第123条による世界で最も明文化された法制度、戦時下のクリニック運営の実情、渡航を最小限に抑える方法、そして議会で続く規制論議まで、事実ベースでお伝えします。
前回のジョージア編の最後で、お約束しました。今回はウクライナの話を、感情論ではなく事実で解説します。
この国について相談を受けるとき、最初の質問はいつも同じです。
「戦争中の国で、どうして今もできるんですか?」
もっともな疑問です。今日はこの問いに、順番に答えていきます。
世界で最も「条文がはっきりしている」国
まず、なぜウクライナが20年以上にわたり世界最大級の代理出産大国であり続けたのか。答えは法律の明文性にあります。
ウクライナ家族法第123条は、依頼者夫婦を受精の瞬間から唯一の法的な親と定めています。代理母には親権が一切発生せず、出生証明書には夫婦の名前が直接記載され、現地での養子縁組も裁判所の手続きも不要です。
ジョージアが「30年の運用実績」の国だとすれば、ウクライナは「条文の明快さ」の国です。解釈の余地が小さい法律は、国際的なトラブルの余地も小さくします。
鍵穴の形:ジョージアより一段厳格です
条件は次の通りです。
法律婚をした男女の夫婦であること(婚姻証明書が必須)
妻が自分で妊娠・出産できないという医学的事由の証明
ジョージアが1年以上の事実婚にも門戸を開いていたのに対し、ウクライナは法律婚のみ。ここは明確な違いです。事実婚のカップルは、ジョージアかキルギスの回をご参照ください。
戦時下の運営の実情
では、本題です。プログラムは実際にどう動いているのか。
2022年の開戦直後、各エージェンシーは妊娠中の代理母を国の西部へ移す対応を取りました。それ以来、業界の運営体制は再編されています。現在の標準的な形はこうです。
代理母は西部・中部の比較的安全な地域に居住
出産は、シェルターと非常用電源を備えたキーウまたはリヴィウの提携病院で実施
クリニックは2022年以降も継続的に稼働
さらに、依頼者側の渡航を最小限にする仕組みも整いました。凍結した胚を国際輸送でウクライナの提携クリニックへ送り、書類手続きの多くを遠隔で進める方法です。渡航は出産前後の1回に絞る設計も可能です。
それでも、消せないものがある
ここまで読むと「意外と大丈夫そうだ」と感じるかもしれません。だからこそ、はっきり書きます。
戦時下である以上、情勢リスクをゼロにすることはできません。
私たちがウクライナを検討するご夫婦にお伝えしているのは、業者の「安全です」という言葉ではなく、確認すべき質問のリストです。
代理母は妊娠中、具体的にどの地域のどんな住居で過ごすのか
出産予定の病院には、どんな非常時設備があるのか
情勢が悪化した場合の移送計画・代替計画は文書化されているか
これらに具体的に即答できない業者とは、契約すべきではありません。
もう一つの現在地:議会で続く議論
そして、これも書いておくべきことです。
現在、ウクライナ議会には代理出産の規制に関する法案が提出されており、外国人の利用を制限すべきだという議論が存在します。法案は採択されておらず、外国人夫婦のプログラムは現在も合法に運営されていますが、議論は続いています。また、戦時下の女性の募集のあり方をめぐって、国際メディアによる批判的な報道があることも事実です。
ジョージア編でお伝えしたのと同じ結論になります。変えられない政治リスクは、契約で管理できるリスクに変える。法改正時の返金・代替国への移行・胚の移送を定めた法改正条項を、契約書に必ず入れることです。
費用と、出産後の滞在
総額の目安は費用回でお伝えした通り、およそ4万〜6万5,000ユーロ。着床しなかった場合の再移植費用が別建てか、回数無制限の保証型かで実質負担が大きく変わる点も、費用回の通りです。
出産後の書類手続きは、比較的短期間で進んだという報告もありますが、大使館の要件や個別事情で変動します。数週間から1ヶ月以上の滞在を見込んでおくのが現実的です。
今日の結論
ウクライナの強みは、家族法第123条という世界で最も明文化された法的土台
条件は法律婚の男女夫婦のみ。事実婚は不可
クリニックは西部・中部を軸に継続稼働中で、渡航を最小限にする設計も可能
ただし情勢リスクはゼロにならず、議会では規制論議が継続中。確認質問リストと法改正条項が生命線
ウクライナは、「勧められて選ぶ国」ではなく「事実を全部知った上で、自分たちで選ぶ国」です。私たちの仕事は、その判断材料を欠けなく揃えることだと考えています。
次回予告
ここまで、ジョージア、ウクライナ、キルギスと、いわば「現実的な価格帯」の国々を見てきました。では、その2倍以上の費用がかかるアメリカを選ぶ人は、いったい何にお金を払っているのでしょうか。
次回は、アメリカとの比較です。2,000万円の差の正体を分解すると、国選びの本質が見えてきます。
フォローしてお待ちください。
