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『受難の花 ― キリストが恋愛短編を書くとこうなる!? ―』

無償に咲く、愛の痛みを抱く実験的文学


昼。
ベランダの蔓が窓辺に触れ、白い翅のような花が開いた。
光が室内の塵をゆっくり浮かせ、私の手の甲に薄い温度を置いた。
あなたの声はまだ届かず、カップの縁だけが冷えていた。
花弁の内側に淡い紫が集まり、冠の糸が静かに震えた。
私は息を整え、指先で蔓の結び目をほどいた。外の風が頁をめくるようにレースのカーテンを押した。
机の上のメモに短い線を引き、言葉を増やさないようにした。
咲いたという事実だけが、二人の間の距離を少し縮めた。
光源は一つで、昼の白だけが部屋を満たしていた。


夕。
日が傾き、花の縁がゆっくり閉じはじめた。
あなたは玄関に鍵を置き、靴をきちんと揃えた。
その整え方が、言い訳よりも多くを語った。
テーブルの上には、言い過ぎた日のメモが丸めてある。
私はそれを広げず、指で端をなぞった。
声を上げない約束は守られ、沈黙だけが動いた。
花の中央の糸が影を帯び、室内の温度がわずかに下がった。
私たちは窓辺に立ち、同じ方向を眺めた。
責める代わりに、呼吸の回数だけを数えた。


夜。
灯りを落とすと、窓の向こうで花は完全に眠った。
あなたは水差しを持ち、鉢の縁に静かに注いだ。
水音が短く続き、その間だけ心拍が落ち着いた。
私は拭き残しの水滴を指で吸い取り、光のないガラスに円を描いた。
机の隅に置かれた写真立てが、暗さの中で輪郭だけを保った。
あなたの声が低くなり、言葉の数がさらに少なくなった。
その少なさは拒絶ではなく、傷の手当てに似ていた。
私は頷き、あなたの手首に一瞬だけ触れた。
その触れ方が、謝罪よりも長くこの部屋に残った。
花は閉じたまま、夜の空気を受け止めていた。


黎明。
最初の鳥の声が遠くで切れ、東の白がカーテンの隙間に入った。
あなたが窓を開け、冷えた風が部屋の塵をやさしく運んだ。
眠っていた花が、指先のように再びほぐれはじめた。
私は息を長く吐き、昨日の線を一本消した。
あなたは何も告げず、手のひらを上にして差し出した。
その空いた形が、受け入れるという意味になった。
私は自分の手を重ね、体温がゆっくり移るのを待った。
光が冠の糸を透かし、紫が薄い炎のように見えた。
私たちは互いの失敗を数えず、今の明るさだけを見た。
朝の白が部屋の隅々まで届き、影が柔らかく折れた。


祈り。
花は開いたまま静止し、部屋の空気は薄い香りで整った。
あなたは水差しを戻し、私は窓枠の埃を布で払った。
手の動作が続くあいだだけ、心は言葉を手放した。
昨日のメモはもう丸めず、ページを重ねて閉じた。
花の中心に走る細い糸が、まるで傷の縫い目のように見えた。
触れずに抱くとは、この距離を保つことだと理解した。
あなたの横顔に斜めの光が入り、まぶたの上で静かに広がった。
私は頷き、胸の奥で呼吸の高さを揃えた。
花に朝と夕があるように、私たちにも開閉のリズムがある。
そのリズムを責めず、ただ共に数え続けると決めた。
赦し。

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