見出し画像

情熱価格のたまり場

私は夜中のガストでドリンクバーの烏龍茶を飲んでいた。情熱価格の柿ピーを机へぶちまけてしまった。袋の開け方を間違えたのである。腹が立ったが柿ピーに罪は無かった。床へ落ちた豆だけ拾った。ピーナッツは見なかったことにした。人生とは見なかったことの積み重ねである。隣の席では誰も喋っていなかった。静かで退屈だった。だから入口に「たまり場」と書かれた木の看板が立った時も最初は気にしなかった。阿呆だったのは私である。

看板の横には小さく百円と書いてあった。店員は何も説明しなかった。私は百円を払った。すると店員は頷いただけだった。何も起きなかった。損したと思った。ところが隣の客が急に私へ話しかけてきた。知らん人だった。向かいの席にも知らん人が座った。全員知らん人だった。だが三人とも昔から知り合いみたいに柿ピーを食べ始めた。私の柿ピーだった。反論する頃には無くなっていた。

その時である。猫型配膳ロボが近づいてきた。ロボは料理を置かず椅子へ座った。誰も驚かなかった。ロボは電子音で言った。「今日は人間少ないですね」。向かいの老人が頷いた。「最近は竜も忙しいからな」。そう言った直後に入口から黒い竜が入ってきた。翼を畳んで百円だけ置いた。律儀だった。竜は黙って席へ座ると情熱価格の焼き鳥味ポテチを配り始めた。私だけ意味が分からなかった。世界の方が私より話が早かった。

私は老人へ訊いた。「ここ何なんですか」。老人はポテトを一本食べた。「たまり場や」。それ以上説明しなかった。竜は頷いた。ロボも電子音で頷いた気がした。誰も偉そうにしなかった。ただ腹が減ったら食べて喉が渇いたら飲んでくだらん話をしていた。竜は空を飛ぶ話ではなく肩こりの話をした。老人は三千年生きても湿布が一番効くと言った。私は吹き出した。神話の続きを聞きたかったのに健康相談で終わった。風だけが窓を鳴らしていた。

夜明け前の空は灰色だった。間抜けな色だった。竜は黙って帰った。老人も手を振って帰った。猫型ロボは充電に戻った。私は空になった柿ピーの袋を丸めた。百円で買ったのは場所ではなかった。知らん者同士が腹を抱えて笑う時間だった。人生も案外そんなものかもしれなかった。くだらん話が終わる頃には朝になっていた。笑うしかなかった。たぶん、それで正解だった。


コメント数は1770になりました。
ありがとうございます😊


おしまい。

いいなと思ったら応援しよう!

静月 いつも読んでいただき、本当にありがとうございます。皆さまの応援が、静月の物語を生み出す力です。いただいたチップは、すべて次の作品作りに大切に使わせていただきます。