できれば長期で飲みたくない薬: トラマール、トラマドール、トラムセット、ワントラム、トアラセット
トラマール(トラマドール)を長期で飲みたくない理由|非麻薬性オピオイドでも依存・離脱症状には注意
腰痛、神経痛、がんの痛みなどに使われることがあるトラマール。
正式な商品名は、
トラマールOD錠25mg/50mg
有効成分は、
トラマドール塩酸塩(tramadol hydrochloride)
です。
トラマール(一般名:トラマドール塩酸塩)は、**脳や脊髄などの中枢神経に作用して痛みをやわらげる「非麻薬性オピオイド鎮痛薬」**です。
ロキソニンなどのNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)とは作用の仕組みが異なり、非オピオイド鎮痛薬では十分に治療できない、がん疼痛や慢性疼痛などに使用されます。
PMDAの電子添文でも、トラマールOD錠の効能・効果は、
「非オピオイド鎮痛剤で治療困難な疼痛を伴う各種癌、慢性疼痛」
とされています。
また、日本ではトラマールOD錠は、
劇薬・処方箋医薬品
に分類されています。
モルヒネやフェンタニルなどのように、法律上「麻薬」として管理されている医療用麻薬ではありません。
つまり、
「オピオイド鎮痛薬ではあるが、麻薬ではない」
という位置づけです。
しかし、ここで非常に重要なのが、
「非麻薬性=依存性がない」ではない
ということです。
トラマール(トラマドール塩酸塩)は、痛みが強い患者さんにとって非常に役立つ薬です。
しかし私は、
「必要性がはっきりしているなら使う。しかし、何となく何年も飲み続ける薬にはしたくない」
と考える薬でもあります。
その最大の理由は、
長期使用によって、耐性・身体的依存・精神的依存が生じる可能性があり、簡単にやめられなくなる場合があるから
です。
今回は、
なぜトラマール(トラマドール)を漫然と長期間飲み続けたくないのか
を患者さん向けに分かりやすく説明します。
1.トラマールは「非麻薬性オピオイド鎮痛薬」
トラマールの商品名は、
トラマールOD錠25mg
トラマールOD錠50mg
成分名は、
トラマドール塩酸塩
です。
一般的には、
非麻薬性オピオイド鎮痛薬
に分類されます。
「オピオイド」という言葉を見ると、
「麻薬なのでは?」
と不安になる人もいるかもしれません。
しかし、日本の法制度上、トラマドールはモルヒネなどのような「麻薬」として規制されている医薬品ではありません。
トラマールOD錠の規制区分は、
劇薬・処方箋医薬品
です。
ただし、
「麻薬ではないから安全」
「依存しない」
という意味ではありません。
ここが、患者さんが最も誤解しやすいところです。
トラマドールには、主に、
μ(ミュー)オピオイド受容体への作用
ノルアドレナリンの再取り込み阻害
セロトニンの再取り込み阻害
という作用があります。
PMDAの電子添文でも、トラマドール塩酸塩と活性代謝物M1は、μオピオイド受容体への作用に加えて、ノルアドレナリンとセロトニンの再取り込みを阻害することで鎮痛作用を示すとされています。
つまり、
オピオイドとしての作用
+
セロトニン・ノルアドレナリンを介した鎮痛作用
という2つの仕組みを持っている薬です。
ロキソニンなどのNSAIDsが、主として炎症に関係する物質の産生を抑えて痛みを和らげるのに対し、
トラマールは、
脳や脊髄を中心とした痛みの伝達・感じ方に作用する
という違いがあります。
2.「トラマール」という名前でなくてもトラマドールが入っている薬がある
もう一つ知っておいてほしいことがあります。
トラマドールを含む薬は、トラマールだけではありません。
たとえば、
ワントラム錠100mg
も有効成分は、
トラマドール塩酸塩
です。
ワントラムは、薬の成分が徐々に放出される徐放性製剤で、1日1回服用するタイプです。
また、
トアラセット配合錠
などは、
トラマドール塩酸塩+アセトアミノフェン
を組み合わせた配合剤です。
ジェネリック医薬品もあります。
したがって、
「自分が飲んでいる薬には『トラマール』と書かれていないから関係ない」
とは限りません。
薬の名前だけでなく、
成分欄に「トラマドール塩酸塩」と書かれていないか
確認してみてください。
ただし、製剤によって適応、用法・用量、注意事項などは異なります。
この記事で具体的な用量などを説明している部分は、基本的にトラマールOD錠25mg/50mgについての説明です。
3.長期で飲みたくない最大の理由は「依存」
トラマール(トラマドール塩酸塩)について、最も知っておいてほしいのが依存性です。
PMDAの電子添文には、
連用によって薬物依存を生じることがある
と明記されています。
さらに重大な副作用として「依存性」が挙げられており、長期使用時には、
耐性
精神的依存
身体的依存
が生じることがあります。
ここで大切なのは、
「非麻薬性オピオイドだから依存しない」というわけではない
ということです。
一方で、
「長期間飲んだ人が全員、薬物依存症になる」
という意味でもありません。
医師の指示どおり服用していても、身体が薬の存在に適応することで「身体的依存」が形成される場合があります。
これは、
「薬が欲しくて仕方がない」
「薬を手に入れるためなら何でもする」
といった精神的な依存とは区別して考える必要があります。
それでも、
薬をやめにくくなる可能性がある
ということ自体が、長期服用を慎重に考えたい大きな理由です。
4.急にやめると「離脱症状」が起こることがある
長期間トラマール(トラマドール塩酸塩)を服用した場合、
自己判断で突然中止するのは避けるべきです。
身体的依存が形成されていると、急に減量・中止したときに「退薬症候」、いわゆる離脱症状が起こる可能性があります。
PMDAの電子添文では、中止・減量時に、
不安
神経過敏
不眠
興奮
手などの震え
胃腸症状
パニック発作
幻覚
異常な感覚
耳鳴り
などが生じることがあるとされています。
そのため、トラマールが必要なくなった場合も、
医師の指示に従って徐々に減量する
ことが基本です。
実際に電子添文にも、
投与を必要としなくなった場合は、退薬症候を防ぐため徐々に減量する
ことが記載されています。
「依存が怖くなったから今日から飲まない」
という自己判断は避けてください。
5.長期使用では「耐性」が生じることもある
もう一つが耐性です。
耐性とは簡単にいうと、
身体が薬に慣れて、以前と同じ量では同じような効果を感じにくくなること
です。
トラマール(トラマドール塩酸塩)の電子添文にも、長期使用時には耐性が生じることがあると記載されています。
もちろん、すべての患者さんで耐性が生じるわけではありません。
しかし、
「最近効かなくなってきた」
↓
「もう少し量を増やしたい」
↓
「さらに効きにくくなった」
という状況になったとき、
自己判断で服用量を増やしてはいけません。
トラマールOD錠の場合、成人では通常、
トラマドール塩酸塩として1日100~300mgを4回に分けて服用
します。
症状によって調整されますが、
1回100mg、1日400mgを超えてはいけません。
PMDAの電子添文にもこの上限が明記されています。
ただし、
「400mgまでは自分で増やしていい」
という意味では絶対にありません。
服用量は医師が患者さんの状態を確認しながら調整するものです。
また、がん疼痛では、1日の定時投与量が300mgになっても十分な鎮痛効果が得られない場合、
単純にトラマールを増量し続けるのではなく、
モルヒネなどの強オピオイド鎮痛薬への変更を考慮する
ことが電子添文に記載されています。
さらに75歳以上の高齢者では、
1日300mgを超えないことが望ましい
とされています。
薬が効かなくなってきたと感じた場合には、
耐性が生じている
病気が悪化している
痛みの原因が変化している
そもそもトラマドールが適した痛みではない
など、さまざまな可能性があります。
薬を増やす前に、
今の治療方法そのものが適切なのか
を医師と見直すことが重要です。
6.吐き気・便秘・眠気・めまいも比較的起こりやすい
トラマール(トラマドール塩酸塩)では、
悪心(吐き気)、嘔吐、便秘、傾眠、めまい
などが代表的な副作用です。
臨床試験でも、慢性疼痛患者では便秘、悪心、傾眠、めまいなどが比較的高い頻度で報告されています。
PMDA掲載の国内長期投与試験では、最長52週間投与された173例で、
悪心:55.5%
便秘:52.6%
傾眠:46.8%
浮動性めまい:26.6%
嘔吐:23.7%
などが報告されています。
ただし、これは特定の臨床試験における数字であり、
実際の患者さん全員に同じ割合で起こるという意味ではありません。
特に問題になりやすいのが、
眠気・めまい・ふらつき
です。
高齢者では、ふらつきが転倒につながることも考えなければなりません。
7.腎臓や肝臓の機能が低下している人は注意
トラマドールは肝臓で代謝され、トラマドールやその代謝物は主として腎臓を介して排泄されます。
そのため、
腎機能や肝機能が低下している患者では、高い血中濃度が長く続く可能性があります。
PMDAの電子添文でも、腎機能障害または肝機能障害のある患者について、
高い血中濃度が持続し、作用や副作用が増強するおそれがある
として、
患者の状態を考慮し、投与間隔を延長するなど慎重に投与するよう記載されています。
また、高齢者では一般的に代謝・排泄能力などの生理機能が低下していることが多いため、
副作用が現れやすくなる可能性があります。
長期間服用している高齢者や、腎臓・肝臓の病気がある人は特に注意が必要です。
8.トラマール服用中は自動車を運転しない
ここは非常に重要です。
「眠くなったら運転しなければいい」
という話ではありません。
トラマール(トラマドール塩酸塩)の電子添文には、
眠気、めまい、意識消失が起こることがある
ため、
投与中は自動車の運転など危険を伴う機械の操作に従事させない
と明記されています。
実際に、
意識消失によって自動車事故に至った例
も報告されています。
したがって、
「私は飲んでも眠くならないから運転しても大丈夫」
とは考えないほうがよいでしょう。
服用中の自動車運転などは避け、医師・薬剤師の指示を守ってください。
9.まれだが「呼吸抑制」「けいれん」「意識消失」もある
頻度は高くありませんが、トラマール(トラマドール塩酸塩)には重大な副作用もあります。
PMDAの電子添文では、
ショック・アナフィラキシー
呼吸抑制
けいれん
依存性
意識消失
などが重大な副作用として記載されています。
特に過量服用では、
けいれん、意識障害、昏睡、呼吸抑制
などが起こる可能性があります。
したがって、
処方された量を超えて自己判断で服用してはいけません。
10.抗うつ薬などとの併用にも注意が必要
トラマドールにはオピオイド作用だけでなく、
セロトニンやノルアドレナリンに関係する作用
があります。
そのため、薬の組み合わせによっては注意が必要です。
特に、
三環系抗うつ薬
SSRIなどのセロトニン作用薬
などとの併用では、
セロトニン症候群
が現れるおそれがあります。
症状としては、
錯乱
強い興奮
発熱
発汗
運動失調
反射の異常な亢進
筋肉がピクピク動く
下痢
などがあります。
また、
リネゾリド
メチレンブルー
などについても、電子添文でセロトニン症候群への注意が記載されています。
さらに、
MAO阻害薬
である、
セレギリン塩酸塩(エフピー)
ラサギリンメシル酸塩(アジレクト)
サフィナミドメシル酸塩(エクフィナ)
を使用中、または中止してから14日以内の場合は、
トラマールは併用禁忌
です。
また、現在の電子添文では、
ナルメフェン塩酸塩水和物(セリンクロ)
を使用中、または中止後1週間以内の患者も禁忌となっています。
そのほか、
オピオイド鎮痛薬
催眠鎮静薬などの中枢神経抑制薬
アルコール
カルバマゼピン
キニジン
ジゴキシン
ワルファリン
オンダンセトロン
ブプレノルフィン
ペンタゾシン
などとの相互作用も電子添文に記載されています。
薬の相互作用は非常に複雑なので、
「この薬なら大丈夫だろう」と自己判断しないこと
が重要です。
他院から処方されている薬、市販薬、サプリメントなども含め、
現在使っているものは医師・薬剤師に伝えてください。
11.痛みを抑えても「痛みの原因」を治しているとは限らない
ここも重要なポイントです。
トラマール(トラマドール塩酸塩)は、
痛みを軽減する薬
です。
たとえば腰痛があったとしても、トラマールを飲めば、
椎間板の変性が元に戻る
狭くなった脊柱管が広がる
傷んだ関節が修復される
というわけではありません。
PMDAの電子添文でも、
鎮痛薬による治療は原因療法ではなく対症療法である
ことに留意するよう記載されています。
つまり、
「痛みがなくなった=病気そのものが治った」
とは限りません。
だからこそ長期的には、
リハビリ
運動療法
体重管理
姿勢や動作の改善
原因となっている疾患の治療
他の鎮痛法
なども含めて考える必要があります。
12.添付文書にも「漫然と続けず必要性を確認」と書かれている
慢性疼痛でトラマール(トラマドール塩酸塩)を使用する場合、
一度始めたら、そのまま何年間も続ければいいという薬ではありません。
PMDAの電子添文では、
投与開始後4週間を経過しても期待する効果が得られない場合には、他の適切な治療への変更を検討する
とされています。
さらに、
定期的に症状と効果を確認し、投与継続の必要性を検討する
ことも明記されています。
つまり、添付文書そのものが、
「定期的に、本当にまだ必要なのか確認してください」
という考え方になっているのです。
長期服用そのものが悪いわけではありません。
問題なのは、
「今でも本当に必要なのか」を確認しないまま、何となく処方と服用を続けること
です。
13.では、トラマールは飲まないほうがいいのか?
そういう意味ではありません。
強い慢性疼痛やがん疼痛では、痛みそのものが、
睡眠を妨げる
歩けなくなる
食事が取れなくなる
仕事や家事ができなくなる
日常生活を大きく損なう
ことがあります。
その場合には、
トラマール(トラマドール塩酸塩)を使うメリットが、副作用などのデメリットを上回る
ことがあります。
必要な患者さんが、
「オピオイドだから怖い」
「依存が怖い」
という理由だけで、必要な鎮痛治療を拒否する必要もありません。
重要なのは、
必要な患者さんが、必要な量を、必要な期間、医師の管理下で使用する
ことです。
14.私なら長期服用中に、この5つを確認する
トラマール(トラマドール塩酸塩)を長期間服用している場合は、定期的に次のことを確認したいところです。
① 今も本当に効いているか
飲み始めたころと比較して、痛みや生活の質は改善しているでしょうか。
② 同じ量で効果が弱くなっていないか
耐性や病状悪化などの可能性があるため、自己判断で増量せず医師に相談します。
③ 眠気・めまい・便秘などが生活に影響していないか
「昔から飲んでいるから」と、副作用を我慢し続ける必要はありません。
④ 他の治療方法はないか
リハビリ、運動療法、他の鎮痛薬、神経ブロック、手術など、病気によって選択肢は異なります。
⑤ 今後、減らせる可能性はないか
痛みが改善しているなら、薬を減量できる可能性について医師に相談してもよいでしょう。
ただし、
減量や中止は必ず医師と相談して行ってください。
まとめ|トラマールは「非麻薬」だが、依存性がない薬ではない
トラマール(商品名)の有効成分は、
トラマドール塩酸塩(成分名)
です。
トラマドールは、
非麻薬性オピオイド鎮痛薬
です。
日本では、
劇薬・処方箋医薬品
に分類されており、モルヒネなどのような麻薬として規制されている薬ではありません。
しかし、
「非麻薬だから依存しない」
という理解は間違いです。
長期間使用する場合には、
依存性
耐性
中止時の離脱症状
吐き気・嘔吐
便秘
眠気・めまい
転倒
けいれん
呼吸抑制
薬物相互作用
などを考える必要があります。
また、トラマドールを含む薬はトラマールだけではありません。
ワントラム
にもトラマドール塩酸塩が使われています。
トアラセット
などには、
トラマドール塩酸塩+アセトアミノフェン
が配合されています。
私がトラマールを「できれば漫然と長期で飲み続けたくない薬」と考える最大の理由は、
麻薬かどうかではありません。
長期間使用することによって、
耐性や身体的依存などが生じ、「やめようと思っても簡単にはやめられない薬」になる可能性があるから
です。
一方で、トラマールは適切に使用すれば非常に有用な鎮痛薬です。
だからこそ、
「怖いから飲まない」
でも、
「効いているから何年でも飲み続ける」
でもなく、
「今の自分に本当に必要なのかを定期的に見直す」
ことが大切です。
そして、長期間服用している人ほど、
自己判断で突然中止しない
ことを覚えておいてください。
減量したい場合は、
「この薬は今も必要ですか?」
「少しずつ減らすことはできますか?」
と主治医に相談するところから始めましょう。
参考資料
・PMDA「トラマールOD錠25mg/トラマールOD錠50mg」電子添文
・PMDA「トラマールOD錠25mg/トラマールOD錠50mg」患者向医薬品ガイド
・KEGG MEDICUS「医療用医薬品:トラマール」
・PMDA「ワントラム錠100mg」電子添文
・PMDA「トアラセット配合錠」電子添文
・日本新薬「トラマールOD錠」製品情報
免責事項
本記事は、トラマール(トラマドール塩酸塩)などのトラマドール含有製剤について、一般の方に分かりやすく情報提供することを目的として作成したものであり、特定の患者さんに対する診断、治療、処方、服薬指導その他の医療行為を目的とするものではありません。
医薬品の効果、副作用、適切な投与量、投与期間、減量・中止方法などは、年齢、体重、基礎疾患、腎機能・肝機能、併用薬、痛みの原因などによって異なります。
また、トラマール、ワントラム、トアラセットなどは、同じトラマドールを含んでいても製剤・配合成分・適応・用法・用量などが異なります。本記事中の具体的な用量等を、他のトラマドール含有製剤にそのまま当てはめないでください。
現在トラマール(トラマドール塩酸塩)またはその他のトラマドール含有製剤を服用している方は、本記事を理由として自己判断で服用量を変更したり、急に服用を中止したりしないでください。
治療に関する判断は、必ず主治医・薬剤師などの医療専門職に相談してください。
本記事の内容については、公開時点で確認可能な公的資料等を参考に正確性に配慮していますが、その完全性、正確性、最新性を保証するものではありません。医薬品に関する情報は改訂されることがありますので、最新の電子添文、患者向医薬品ガイド、医師・薬剤師からの説明をご確認ください。
本記事の情報を利用したこと、または利用できなかったことによって生じたいかなる損害・不利益についても、筆者は一切の責任を負いません。
