見出し画像

現代版・枕草子 by 令和少納言

四季は――
春は、お花見。
空よりドローン来たりて桜の花びら追ふさま、をかし。
そのドローンを餌と心得て、猫の飛びかかるに、ついに届かず、からぶりするさま、いと愛らし。
その空振りしたる猫、花粉症にやみたるか、ドローンを捕へそこねてのち、たびたび、くしゃみをせるさま、いとほし。

夏は、行水。
すずめたち、熱中症をば恐れてや、公園の噴水の中に身をおとして行水し、ぶるぶると身をふるひて水を切るさま、いとらうたし。「水もしたたる良雀かな」とぞ詠まれける。

秋は、紅葉。
イチョウの葉ひとひらを扇のやうにかざし、若き女、SNSなるところに載せむと、モデルめきて姿を整ふるも、艶やかなり。撮る人撮らるる人、互ひに「映え」を争ふ、これぞ現代の見物なりけり。

冬は、スキー。
若き男、ゴーグルを額にずらし笑みをひろげて女に声かける、
「一緒にリフトどう?」
されど女、冷ややかに「結構です」とひとこと、
その刹那、彼の心は雪より凍り、木枯らしより寒し。
友らは「ドンマイ!」とココアをすしり、
湯気のぬくもりと彼の心の冷え込みとの落差、まことに、をかし。


をかしきもの――

・朝、充電が百に満ちて、外へ出づる心たのもし。
・ズーム会議のはじめ「聞こえておりますか」と三度たずね、
  猫だけが「ニャー」と答ふる。
・雨ののち、Wi-Fiつながりて一斉に既読となる様。
・忘れ物取りに家へ戻り、ふたたび外へ出でんとすれば、また別の忘れ物思ひ出づる時。今日の出発は永遠に来たらず。
・地震速報の誤報に驚き、互いの無事を確かむるメッセージのやさしさ。
・リモート会議が終わりて、上司、スイッチを切り忘れたり。椅子より立ちあがりぬれば、下の装束、いとあやし。ズボンをはかずして、ただパンツのみ着けて、会議の座に臨みゐたりけり。

にくきもの――
・パスワード、まことに複雑を求められ、つくりしのち忘るる。
・「今ちょっとよろしいですか」と来て、けっしてちょっとで終はらぬ打合せ。
・信号、三つ四つつづけて赤なる。
・配達「玄関前に置きました」と通知のみ来て、品物、何処とも知れず。
・コンビニおでん、買ふは買ふものの、汁漏れてカバンにしみ込む時。カバンの内、急に、おでんの香に満つる。
・プリンを冷蔵庫に入れ、「明日食べん」と思ひしが、翌日、冷蔵庫を開けたれば「どこぞの怪盗」がぬすみ食らひたり。実は同居の弟なりけり。

あはれなるもの――
・深夜コンビニにて、最後の肉まん、カチカチに凍りしまま残りたるを、あえて買ふ人の背。
・オンライン授業にて、「聞こえてますか」と言ひつつ、延々とマイクオフで語り続ける教授。画面の下で「先生、ミュートです」とチャットされ続ける姿、あはれなり。
・バス停にて、時刻表を見つめ続ける学生。すでに最終バスの刻、過ぎたるを知らず。
・スマホ落とし割れし画面、まるで氷河の裂け目のごとし。持ち主の顔色、硝子より青きは、いとあはれ。

ありがたきもの――
・朝の電車、満員の中にて、偶然自分の真横に吊革ひとつ空きし時。まことに神仏の加護なり。
・「会議このあと延長しません」と上司より言はれた瞬間。胸の内に咲く花火、いとありがたし。
・自販機にて、二本落ちてきしとき。財布には穴あれど、心には虹かかる。
・ラーメン屋にて「替え玉無料」の文字を見出だす時。腹の底より歓喜の声わき上がる。
・Wi-Fiつながらず困りたる時、隣人が「テザリングしますよ」と差し出すスマホ。ありがたきは現代の施しの心。

心もとなしもの――
・エコ袋を誇らしげに差し出だせど、底に小さき穴ありてトマトころころ街路へ逃ぐる。環境に優しき、おむすびころりん、ならぬ、トマトころりん。
・「参考見積」とて送り来たる額、参考どころか人生設計まで揺るがす桁。
・置き配の紙袋、雨に会ひて底より解け落つ。玄関先にて諸行無常を学ぶ。
・サブスク「無料期間」を心に刻みて眠る夜、目覚めれば課金の通知、いとすべなし。
・改札にてIC残高十八円。後ろの人々の視線、北風のごとく刺さる。
・キャッシュレスの店にて、スマホ残量1%。決済の瞬間、画面消え失せて、店員と視線を交はす時の寒さよ。
・知らぬアルゴリズム、昔の失恋の歌ばかり勧めてくる。わが心の古傷を、よくも撫で回すや。
・天気アプリ、晴れと告げしを信じて洗濯す。昼過ぎ、にわか雨ふりて、ベランダにて祈祷師となる。
・充電ケーブル、多種多様にて、いざという時だけ規格合はず。文明の利器、合戦に間に合はぬ槍隊のごとし。

うつくしきもの――
・図書館の机に落つる、薄き紙一枚の音。静けさの海に、小石をひとつ投げたるごとし。
・公園のすべり台、夕日の赤を背負ひ、滑る子の影だけ長う伸びて帰りゆく。
・雨あがりの水たまり、街灯を二つ三つ抱きて、星を地上に貸し出す。
・洗濯機より出づる靴下、たまたま一度で正しき相手と結ばる。小さき逢瀬、胸打つ。
・風鈴、音いささかながら、夕風に乗りて家々を巡礼す。

すさまじきもの――
・列にならびて、いよいよ我が番にて「欠品」と告げらるる。
・オンラインの祭、回線の細くなりて、肝心のところ固まりぬ。
・半額シールの寿司、鷹のごとき主婦の眼光に射られ、
  指先一寸の差にて、主婦の鷹爪にさらはるる瞬間。
・観光地の絶景、映えの順番待ち長蛇にて、やうやく番来れば雲だけ走る。
・自販機に金を飲まれ、品は腹に入らず、怒りのみ温かく胸に満ちる。
・QR決済を構へたれば、アプリただいま更新中。店員と我とで無言の禅。
・最終電車、目の前にて扉閉まりぬ。扉ガラスに映る我が顔、すさまじ。
・天気予報は晴れと言ひしが、洗濯物を出せば、にわか雨。空の気まぐれ、殿上の小姓よりいたづら。
・地図アプリ、突如「最短はこちら」とて遠回りを示す。信じれば信ずるほど、道伸びる。
・宅配の再配達、我が在宅の隙だけ鈴は鳴らず、不在票のみ花のやうに咲く。

はしたなきもの――
・「既読スルー」と言ひ立てる声、やや大きすぎる。
・公共の場にて、動画の音をそのまま流す。隣人の耳を無断レンタル、いと聞きにくし。
・会議において、別の会議を入れ、画面を消したり現したりする上司。まるで能舞台にて、袖から出たり入ったりする狂言回しのごとく、見ている側は心乱るる。

心にくきもの――
・道をたずねられて、ていねいに道順を手で示す老人の指。
・満員の車内、ことさら名乗らず席を立ちゆづる人。涼風のごとく去りて跡かたなし。
・退勤まぎは、机を一拭(ひとふ)きして去る。翌朝の清々しさ、名もなき署名。
・バス停にて、運転手、杖の人を見て一呼吸とどまる。時刻表よりもやさしき間合ひ。
・ラーメン屋、子にだけぬるめの小椀をそへる店主。湯気の奥にひそむ慈。
・メールの末尾「ご自愛ください」の一行。用件の硬さを和紙で包むがごとし。

かなしきもの――
・通知の海に沈みて、会ふ約束ひとつ流さるる。
・流行の早く過ぎて、まだ好きなる人の肩身狭きこと。
・自販機缶ジュースの売り切れ、わがのど、干し椎茸にも勝りて乾けるなり。
・予約画面「満席」の赤文字。再読み込みのたび、希望だけ増殖。
・書きかけのメール、保存忘れて消え失せぬ。文の亡霊、キーボードの隙をさまよふ。

かくて思ふに、現代といふ世は、速く、明るく、数多の言葉走り交はす。にくきも、あはれなるも、をかしきも、日ごとに更新されて絶えず。されど人の胸の底に湯気のごとく立つ気配は、昔も今も変はらぬらむ。日向に座して茶をすするひとときの静けさこそ、いとめでたし。世は喧しくとも、「をかし」を拾ひ集めて暮らすこそ、まことの贅なりけり。 令和少納言

現代語訳(令和少納言)

四季は――

春は、やはりお花見ですわ。
空からドローンがすいっと舞い降り、桜の花びらを追いかける様子ときたら、まあ愛らしいこと。
それを獲物とお思いになった猫さまが、ぴょんと跳びかかっては空振りしてしまいましてよ。ついにはくしゅん、くしゅん。花粉症まで抱え込んでしまったご様子、なんともおいたわしゅうございます。

夏は、水浴びが一等。
スズメさんたち、公園の噴水でちゃぷちゃぷと行水あそばして、ぶるぶるっと水切りなさるさま、いと可憐。思わず「水も滴る良い雀」で一句、よみたくなりますわ。

秋は、紅葉でございます。
イチョウの葉を小さな扇のようにかざし、若いご令嬢がSNSに上げるべくポーズを整える――なんて艶やか。撮る人・撮られる人、こぞって“映え”を競い合うさま、これぞ現代の見世物でしてよ。

冬は、スキーがよろしゅうございますわ。
若い殿方、ゴーグルをおでこに上げて微笑み、「一緒にリフトどう?」なんてお声がけ。
けれどご令嬢は涼やかに「結構ですわ」。その一言に、殿方のお心は雪より冷え、木枯らしより寒くなってしまいますの。
「ドンマイ!」とお友だちがココアをすすめる湯気のぬくもりと、彼の心の体感温度との差――その落差、実に“をかし”でございます。

をかしきもの――

・朝、スマホの充電が100%で、外に出る足取りが急にたのもしくなる瞬間。
・オンライン会議の冒頭、「聞こえております?」を三度。返事は猫さまの「ニャー」のみ。まあ、愛嬌。
・雨上がり、Wi-Fiが復旧して既読が一斉に並ぶさま。文明の逆流、爽快にして、おかし。
・忘れ物を取りに戻って、もう一度出ようとしたら、さらに別の忘れ物を思い出すループ。永遠に出発できませんでしたの。
・緊急地震速報の誤報に驚きつつ、互いの安否を確かめ合うメッセージのやさしさ。
・ズーム会議終了後、上司がミュートを切り忘れてご起立。まあ!下はパンツ一丁でズーム会議していらしたの?おズボンはどちらへ?

にくきもの――

・パスワードに過度な個性を求められ、作った瞬間に記憶の彼方へ旅立つこと。
・「ちょっとよろしいですか」から、ちっとも“ちょっと”で終わらない打ち合わせ。
・赤信号が三つも四つも続く通勤路。宇宙の悪戯かしら。
・「玄関前に置きました」の通知だけ来て、肝心の品は行方知れず。宝探しは趣味ではなくてよ。
・コンビニおでんの汁が鞄にしみこみ、持ち物が一斉に“おでん香”に格上げされる悲劇。
・冷蔵庫のプリンが「どこぞの怪盗」によって消失。いいえ、実家の弟がプリン泥棒の犯人でしたの。

あはれなるもの――

・深夜のコンビニで、最後のカチカチ肉まんをあえてお求めになる背中。哀愁が漂いますわ。
・オンライン授業で延々とマイクミュートのまま講義なさる教授。チャット欄の「先生、ミュートです」が万葉集の反復歌のよう。
・バス停で時刻表を見つめ続ける学生さん。最終は、とっくに行ってしまいましたのに、深夜に待ちぼうけでございますのね。
・スマホのひび割れた画面、氷河の断層めいて壮大。お顔色まで青ざめて、胸がきゅうっといたします。

ありがたきもの――

・満員電車で、まさかのつり革が一つ、私の真横に空いている奇跡。神のご加護案件でございますわ。
・「この後、会議の延長はいたしません」と上司。胸中、花火大会の歓喜でございます。
・自販機で二本落ちてくる幸せ。財布はさみしくとも、心は虹色。
・「替え玉無料」の札を見つけた瞬間、幸福ホルモンが替え玉で増量いたしますの。
・Wi-Fiが不調で困っていると、隣人が「テザリングどうぞ」。現代版・施しの徳でございます。

心もとなしもの――

・エコバッグを得意げに出したのに、底の小穴からトマトがころころ逃走。環境には優しいとはいえ、おむすびころりん、ならぬ、トマトころりんでございましたわ。
・「参考見積」と申すものが、人生設計まで参考にさせる額。参考の権限を逸脱してましてよ。
・置き配の紙袋、雨に溶けて崩落。玄関先で無常を悟りましてよ。
・サブスクの無料期間を胸に刻んで眠りましたのに、朝には課金の鐘が鳴るではございませんか。
・改札でIC残高18円。背後の視線が木枯らしのように刺さります。
・キャッシュレスのお店で、スマホ残量1%。お支払いの瞬間に画面が昏倒。店員さんと私、無言の凍結。
・アルゴリズムが、よりによって昔の失恋ソングばかり推してきますの。古傷の周辺だけマッサージなさらないで。
・天気アプリを信じて洗濯しましたのに、昼からにわか雨。ベランダで祈祷師デビューいたしました。
・充電ケーブルの規格、いざという時ばかり合いませんの。まるで、合戦に遅参した槍隊のようでございますね。

うつくしきもの――

・図書館の机に、薄い紙が一枚落ちる音。静寂の湖面に、小石ひとつ。
・夕日の公園で、滑り台をすべる子の影だけが長く帰っていくこと。
・雨上がりの水たまりが街灯を抱え、星明かりの貸し出し所になる夜。
・洗濯機から出てきた靴下が、一度で正しい相棒と巡り合う奇跡。小さな逢瀬、胸が弾みます。
・風鈴の音が、夕風に乗って家々を訪ねること。音の巡礼、清らかでしてよ。

すさまじきもの――

・長蛇の列で、いよいよ私の番という時に「欠品でございます」。膝から崩れ落ちますわ。
・オンライン配信の肝心な場面で回線が凍る。ライブの時間は待ってくださいませんのに。
・半額シールのお寿司を狙う主婦の鷹の目。指先一寸の差でさらわれる、その電光石火の主婦の鷹爪。
・絶景スポットの“映え順番待ち”に耐え、いざ私の番には雲だけ疾走。空気読んで、雲さん。
・自販機に硬貨を飲まれ、商品は出ず、怒りだけホットでございます。
・QR決済をかざしたら、ただいまアプリ更新中。店員さんと私、禅問答の沈黙。
・最終電車が目前で扉を閉じ、ガラスに映るわたくしの顔が一番のホラー。
・洗濯物を干した瞬間のにわか雨。空のいたずらにも程がございます。
・地図アプリが急に「最短はこちら」と言いながら、明らかに遠回りを指し示すこと。信じれば信じるほど遠回りでございますね。
・在宅中に限って鳴らないインターホン。不在票だけ、満開に咲き誇る玄関先。

はしたなきもの――

・「既読スルー!」と声高に叫ぶこと。音量の配慮もご一緒にどうぞ。
・公共の場で動画の音をそのまま再生なさる方。隣人の鼓膜はシェア財ではございませんの。
・会議中に別会議を差し込み、画面が出たり消えたりする上司。能舞台の出入りじゃありませんことよ。

心にくきもの――

・道をたずねられて、指で丁寧に曲がり角を示してくださるご老人の手つき。品がございます。
・満員電車で名乗らず席を譲り、風のように去る方。善意に名前は要りませんのね。
・退勤前に、机をさっとひと拭きして去る同僚。翌朝の爽快感に、無記名のサインが光ります。
・バス停で、杖の方に合わせて一呼吸とどまる運転手さん。時刻表より温かい間合いに、ポッと、ホレてまう、でございます。
・ラーメン屋さんで、お子さまにだけぬるめの小椀を添える店主。湯気のむこうの慈しみ。
・メールの末尾に「ご自愛ください」のひとこと。硬い用件を和紙で包んだようで素敵。

かなしきもの――

・メール通知の奔流に押し流されて、わたくしの大切なお約束がまるで葉っぱのボートのように流されてしまいますこと。
・流行が早々に駆け去り、まだ夢中でおります方が「わたくし、時代遅れ?」と肩をすぼめてしまうこと。おしゃれの砂時計、落ちるのが速すぎましてよ。
・自販機缶ジュースの売り切れ。わたくしの喉、干し椎茸より乾いておりますわ。
・予約画面の「満席」赤文字。更新ボタンを押すほどに膨らみますのは、期待の風船でございますね。
・書きかけメールを保存し忘れて消し去る罪。文章の幽霊がキーボードの谷間で泣いておりますわ。

結び

つくづく思いますに、この令和という時代は、速く、明るく、言葉が四方八方へ走り回りますの。
「にくき」も「あはれ」も「をかし」も、日替わりで更新されてやみません。
けれど、人の胸の底にふわり立つ湯気のような気配――そればかりは、昔も今も変わらないのではなくて?
陽だまりに座してお茶をすするひとときの静けさ、まことに尊し。
世の喧騒のただなかで、日々「をかし」を拾い集めて暮らすことこそ、贅の極みでございますわ。ごきげんよう。  令和少納言

いいなと思ったら応援しよう!