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読む冷房|氷屋さん

この掌編小説は、心理的涼感対策の一つとしてお届けするものです(約600文字)。
涼感が届けば嬉しいです。

真夏だった。

昼でも夜でも、
風は熱風。

アスファルトは、
夕方になっても熱を吐き続けていた。

「暑い……。」

誰もがそう言いながら歩いている。

そんな商店街の奥に、
一軒だけ古びた店があった。

暖簾には、ただ一文字。

『氷』

店の中は薄暗い。

扉を開けた瞬間。

カラン……

風鈴が鳴った。

そして、

ひやり。

店の空気が、
肌をそっと撫でた。

冷房ではない。

もっと柔らかい。

山奥の洞窟のような冷たさだった。

店主は白髪のおじいさん。

「暑かったでしょう。」

そう言って、
透明な氷を鉋(かんな)のような道具で削り始める。

シャ……

シャ……

シャ……

削られた氷は、
雪のように器へ積もっていく。

最後に、
一滴だけ青い蜜。

「どうぞ。」

口へ運ぶ。

舌ではなく、
頭の奥が冷えていく。

目を閉じる。

すると不思議なことが起きた。

夏の音が消えた。

蝉も、

車も、

熱風も。

代わりに聞こえてきたのは──

沢の水だった。

岩を流れる水。

木漏れ日。

杉林。

遠くで鳴くカジカガエル。

頬を渡る、
ひんやりした風。

一瞬だけ。

ほんの一瞬だけ。

真夏が消えた。

目を開けると、

器の氷は、
もう溶け始めていた。

店主は笑って言う。

「氷はね。」

「体を冷やすんじゃない。」

夏を忘れさせるためにあるんだよ。

外へ出る。

相変わらず三十三度。

それでも、

さっきまでの三十三度とは、

どこか違って感じた。



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