【column】気づいた瞬間、足と靴の関係は変わる ある行動
あの日のお客様が教えてくれたことは―――
お立ち寄りいただきありがとうございます(*^^*)
元シューフィッターのRueです。
靴店で働いていた経験を元に
「足と靴のいい関係」というシリーズを作り、足元に関する知って得する情報を発信しています。
このcolumnでは、シューフィッターとして働いていて気づいたことを書いています。
よかったら、少し覗いてみていってください。
もしかしたら、あなたの "気づき︎" に繋がるかもしれません。

思い出す、あるお客様との対話
春になり、天気のいい日が多くなって、ランニングやウォーキングをしている人をよく見かけるようになりましたね。
ランニングに必須なのはランニングシューズ(ランシュ)です。
シューフィッター時代に、印象深い接客がいくつかあります。
今回はそのうちの一つ、ランシュを探しに来たお客様とのやり取りを、振り返りお話したいと思います。

子供の頃に︎︎゙正しく教わる︎︎゙とは限らない話
ある日40代くらいの男性のお客様が、ランシュを探しに来店されました。
お客様が採寸を終え、ひとつのランシュを選び試着をはじめたところからお話しますね―――
「お、軽いねこれ」
そう言いながら、お客様がイスに座って選んだランシュに足を入れ、つま先を立てて靴のかかとを床に“トントン”と叩きました。
ランニング歴も長いようで、正しくしっかりランシュを履くことに慣れている様子に見えました。
私はお客様の前にしゃがみ
「シリアスランナー向きのスピードタイプですよ。」
「スピードかあ、速くなるかなぁ」
なんて話をしながら、手際の良さに安心して見守っていました。
ところが次の瞬間、お客様が靴紐の先をつかむと、
グイーーッ。
一気に引っ張って、そのまま蝶結びをしたのです。
(おーい!待て待て待て!!)
「あっ」と口を挟もうとした時にはもう遅い。
動きがとにかく早い。
そのまま立ち上がり、軽く足踏みして、
「うん、いい感じ。甲が浮くかな?でも、どこのランシュ履いてもしっくり来ないから~やっぱインソールで調整するしかないですかね?」
お口も早い。
私はにっこり笑って、
「締め直させていただいてもよろしいですか?」
と声をかけた―――
実は、こういうことは珍しくありません。
私はいつもスニーカーの試着では、試着するスニーカーの紐を緩めて渡したあと、
まずお客様が ︎︎゙どう履くか︎︎゙を見ていました。
座って履くか、かかとを合わせるか、靴紐をどう締めるか―――
そうすると、普段どのように履いているかわかるからです。
そして、気づいたことがあればその都度お声掛けをするようにしていました。
でも、このお客様はとても手際が良かった。
きっと、このお客様は昔から靴の履き方が変わってないんだ。
そう感じました。
ランシュには、パーツ一つ一つに役割があり、それぞれに意味があります。
そのパーツが的確な足の部分に当たっていないと、せっかくの性能も半減してしまいパフォーマンスにも影響がでます。
だからこそ足が靴の中で動かないように固定する靴紐がとても大事なのです。
強く締めるべき場所は︎ ︎︎゙足の甲︎︎゙
靴先側―――つまり下から靴紐を締めていくことが重要なんです。

―――お客様にもう一度座るように促すと、訝しむような顔をしながらも。何も言わず座るお客様。
「もう一度かかとをトントンとしてもらえますか?」
座って、言われたようにかかとをトントン。
私は、それを確認しながらお客様の前に片膝をつきました。
「失礼します」
と言い、そのスニーカーの靴先を両手で包むように掴み、床についた膝の上にそっと乗せます。
「つま先を膝の上から動かさないでくださいね」
そういうと、スニーカーのかかとを床につけて靴先を上げている状態のまま、靴紐を締め直していきました。
靴先側の一番下から順番に。
人差し指と親指で紐をつまみ、しっかり力を入れて引き上げる。
「痛くないですか?」
「大丈夫です。⋯けっこう締めるね」
力を込めて引っ張る私に、少し驚いている感じ。
自分以外の人に、靴を履かせてもらうことに慣れてない反応かな。
「そうですね。ランニングならとくに、指が入らない程度には締めてほしいですね」
そう言って、通した靴紐とタンの間に指が入らないところを見せる。
「なるほどー」
順に締め上げていくと、靴紐の端が5cmほど伸びた。
「おーすごい密着」
靴先を床に下ろし、最後に蝶結びをする。
「ここは指がちょっと入るくらいの締め具合がベストです。」
靴先をあげたままギチギチに結ぶと、
足の甲から足首に通っている筋(伸筋腱)が、圧迫されて痛むことがあるんです。
そう伝えると、
「確かに走っててくい込んで痛い時あるわ」
と、感心したようにつぶやくお客様。
最後に、靴先を床につけてから靴紐をギュッと引っ張り、蝶結びする。
「蝶結びは足を固定するためではなく、紐を結び止めるくらいの強さでいいんですよ」
そう付け加えた。
「立って歩いてみてください。」
そう促すと、立ち上がり歩き出すお客様。
「おー」
そう声を漏らし、くるっと振り返ると私に向かって
「全然違う」
そう言って微笑んだ。
「すごいね、ピッタリくっついてくる」
「当たるところとか痛いところはないですか?」
「全然!でも・・・なんか」
そう言いながら私の前に戻ってくるお客様。
「少し触らせてもらえますか?」
そう言いながら履いているスニーカーに手を伸ばしつま先の余裕を確認した。
「少し大きく感じませんか?」
「感じた!最初より隙間あるよね?」
「はい。締め直してつま先に隙間ができたんですね。走るならもう一つ下のサイズでもいいかもしれません。」
「この下のサイズって履いたことないよ」
「試してみませんか?」
「じゃあお願いします。」
と、試着は続きます。
―――このお客様は、驚いた反応が特に印象的だったので、よく覚えています。
そして、ご購入いただき店を出る前に
「ありがとう。次は仕事の靴もみてね」
と、満足そうな明るい笑顔で帰られた姿が忘れられません。
靴紐を“正しく”締めるだけで、同じ靴でもまるで別物になります。
スニーカーそのものよりも、まずは履き方。
スニーカーの性能を活かして、パフォーマンスを向上させるためにも、まず履き方。
このお客様のように、ベテランランナーで「正しく履く」ことが大事だと理解していて、そう履くことを意識している方でも、子供の頃に覚えた紐の締め方が不十分だったことには気づけなかったんです。
この間違いを指摘される機会は、なかなかないのかもしれません。
―――靴紐は、ただ結べばいいわけではありません。
また、靴の種類でも違います。
どこを、どの順番で、どれくらい締めるか。
その小さな違いが、靴の性能も、足の感覚も、大きく変えてしまいます。
子供の頃に覚えた“なんとなくの締め方”のまま、大人になっている人は意外と多いのかもしれません。
それに気づいた瞬間から、足と靴の関係は変る。
私は、そう思います。
最後までお付き合いいただき
ありがとうございました。

次回は、本編の『episode4-2』
︎︎゙靴の劣化︎︎゙ についての続きです。
前編は、靴のアッパーによく使われる素材の劣化について書いています。

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