林業の仕事で怖いものの一つに「見えない赤字」
林業の現場では、
「今日は何㎥出した」
「この木は○○円で売れた」
「この現場は○○万円の仕事だった」
というように、目に見える数字はたくさんあります。
しかし、林業を長くやっていると、
「売上には出てこないけれど、確実に利益を削っているもの」
があることに気づきます。
私は、これを林業の
「見えない赤字」
だと思っています。
売上があるのに、なぜお金が残らないのか?
例えば、ある現場で500㎥の木材を搬出したとします。
木材が売れて、
600万円の売上
になった。
数字だけを見ると、
「かなり大きな仕事だ」
と思います。
しかし、そこから、
人件費
燃料費
機械費
修理費
運搬費
作業道の費用
その他の経費
などが発生します。
さらに怖いのが、
最初から計算に入れていなかった小さな費用
です。
これが積み重なると、思ったほど利益が残らなくなります。
① 機械が止まっている時間
林業では機械が動いている時間ばかり考えがちです。
しかし、
機械が止まっている時間
もコストです。
例えば、
「今日は雨だから作業ができない」
「作業道の状態が悪くて機械が入れない」
「別の機械が故障して作業が止まった」
「伐採はできたけど搬出が追いつかない」
こうした時間が増えると、生産量が減ります。
ところが、
機械の減価償却費や維持費などは、機械が動いていなくても発生します。
つまり、
「機械が止まる=費用がゼロ」ではない
のです。
② 人が待っている時間
機械だけではありません。
人が待っている時間も、現場にとってはコストです。
例えば、
機械の故障を待つ。
トラックを待つ。
作業道の補修を待つ。
次の工程を待つ。
こうした時間が少しずつ積み重なっていきます。
1回だけなら、
「10分くらいならいいか」
と思うかもしれません。
しかし、それが毎日続けば大きな時間になります。
例えば、
1日30分の待ち時間。
月20日働けば、
10時間
です。
1年間なら、さらに大きくなります。
こうした小さな時間のロスも、積み重なると利益を削っていきます。
③ 「ちょっとした修理」が積み重なる
林業機械は、山の中で非常に厳しい環境で使われます。
泥。
石。
木。
急斜面。
雨。
雪。
当然、機械も傷みます。
「ホースを交換した」
「油漏れを直した」
「部品を交換した」
「刃物を交換した」
一つ一つは、それほど大きな金額ではないかもしれません。
しかし、
小さな修理が何度も発生する
と、年間ではかなりの金額になります。
だから機械の費用を見るときは、
購入価格だけではなく、年間の維持費を見る
必要があります。
④ 燃料の「ちょっとした無駄」
燃料も同じです。
機械を動かす以上、燃料は必要です。
しかし、
「機械が動いているけれど仕事をしていない」
という時間が増えると、燃料とアドブルーだけが消費されていきます。
休憩中もアイドリング。
長い移動。
高負荷で効率の悪い作業。
待機時間。
こうした一つ一つは小さく見えます。
でも、毎日積み重なれば大きな金額になります。
⑤ 作業道の補修費
これは森林作業道では特に重要です。
作業道は、
造って終わりではありません。
雨が降れば、
路面が傷む。
水が流れる。
路肩が傷む。
場合によっては補修が必要になります。
特に排水がうまくいかなければ、道の維持に余計な費用がかかることがあります。
だから3日目の記事でも書きましたが、
「崩れにくい作業道を造る」
ことが重要です。
最初の施工費だけを見るのではなく、
その後何年間使うのか
まで考える必要があります。
⑥ 「少し遠い」が大きなコストになる
山の中では、
「ここからあと500m」
という距離が意外と大きな意味を持つことがあります。
集材距離が長くなれば、
時間がかかります。
燃料を使います。
機械が動きます。
オペレーターも働きます。
つまり、
距離がそのままコストになる
ことがあります。
だから山を見るとき、
「木があるか?」
だけではなく、
「その木をどれくらいの距離で搬出できるか?」
を見る必要があります。
⑦ 機械の能力を使い切れていない
前回の記事でも書きましたが、
高性能な機械を導入したからといって、必ず利益が増えるわけではありません。
例えば、
1日30㎥処理できる機械を導入した。
ところが現場条件が悪く、
実際には1日15㎥しか処理できない。
これでは機械の能力を半分しか使えていません。
機械の性能ではなく、
実際の現場でどれだけ生産できるか
を見る必要があります。
「見えない赤字」は数字にすると見えてくる
では、どうすれば見えない赤字を見つけられるのでしょうか。
難しいことではありません。
まず、
「予定」と「実績」を比較する
ことです。
例えば、
予定では、
1日20㎥搬出する。
実際には、
1日15㎥だった。
この差が5㎥あります。
なぜ5㎥少なかったのか?
雨だったのか。
機械が故障したのか。
作業道に問題があったのか。
集材距離が長かったのか。
人が足りなかったのか。
原因を一つずつ確認します。
これを繰り返すことで、
「どこで利益が消えているのか」
が少しずつ見えてきます。
林業では「時間」もお金
林業の現場では、
「1日いくら」
という人件費を考えることが多いと思います。
でも、本当に重要なのは、
その1日でどれだけ仕事が進んだのか
です。
同じ3人が1日働いても、
20㎥搬出できた日と、
10㎥しか搬出できなかった日では、
1㎥あたりの人件費が大きく変わります。
だから、
「何人で何日働いたか」
だけではなく、
「その人数と日数で何㎥生産したか」
を見る必要があります。
「忙しい」と「儲かる」は違う
林業の現場では、
「毎日忙しい」
ということがあります。
仕事がたくさんある。
機械も動いている。
人も働いている。
それでも、
利益が残っていない
ということがあります。
これは非常に怖いことです。
忙しいから儲かっているとは限りません。
むしろ、
忙しいのにお金が残らない理由を探すこと
が重要です。
私が考える「見えない赤字」
まとめると、
機械の待機時間
人の待ち時間
小さな修理
燃料の無駄
作業道の補修
長い集材距離
機械の低稼働
予定より少ない生産量
こうしたものが、少しずつ利益を削っていきます。
一つ一つは、
「たいした金額ではない」
と思うかもしれません。
しかし、それが1年間積み重なったらどうでしょうか。
数万円。
数十万円。
場合によっては、それ以上になることもあります。
だから、
小さなロスを見逃さないこと
が、林業経営では非常に重要だと思います。
最後に
林業で本当に怖いのは、
大きな赤字だけではありません。
むしろ、
気づかないうちに少しずつ利益が消えていくこと
です。
だから私は、
「今日は何㎥出したか」
だけではなく、
「今日はどれだけ無駄な時間があったか?」
「予定どおり仕事が進んだか?」
「どこで余計な費用が発生したか?」
を見ることが大切だと思っています。
林業は、
山を見る仕事であり、木を見る仕事であり、機械を見る仕事でもあります。
そして同時に、
数字を見る仕事でもあります。
次回は、
「森林組合って何をしているの?一般の人にも分かるように解説」
です。
森林組合という名前は知っていても、
「実際に何をしている組織なの?」
と思っている方も多いと思います。
林業関係者ではない方にも分かるように、森林組合の仕事について書いてみます。
